168 / 178
166話 雨降りの辺境キルシュバウム
しおりを挟む分厚い布に樹液を塗って加工した、防水効果のあるフードを頭からすっぽり被り…
シルトはレーグネリッシュ城塞の、城壁上部にある歩廊から渋い顔で魔獣を睨んだ。
「また、アイツか!!」
「シルト様、お気を確かに!! ほら、雨も小降りになって来ましたよ? 順調にリヒト様の祭祀が進んでいる証拠ではありませんか! これはとても素晴らしいことですよ!?」
不機嫌な主君を慰めるノイ。
「あの落ち着きの無い黒い犬!! クソッ、オルトロスめ!!」
罵りながら、ふとななめ前に立つヴァルムに、シルトは心配そうに声をかけた。
「おい、ヴァルム!!」
「何ですか義兄上?」
ヴァルムが被るフードが少しずれ、艶やかな孔雀色の髪がはみ出していた。
「フードをもっと深く被れ! ああなっても知らないからな?!」
シルトはキルシュバウム騎士団の若い騎士をチラリと見た。
「わぁ―――っ!!!」
悲鳴を上げると大慌てでヴァルムは、フードを深く被り直した。
リヒトと共にシルトがキルシュバウムへ来て一番驚いたのは… 住人も騎士も、オメガもアルファも関係なく、全員髪が1本も生えていなかったことだ。
キルシュバウム騎士団のツルツルのスキンヘッドを見て、シルトは顔をしかめた。
北方のシュネー城塞は、魔窟の森からあふれた瘴気の影響で、万年雪におおわれていたが…
東方の辺境キルシュバウムの最前線、このレーグネリッシュ城塞は、目の前に広がる魔窟の森から出た瘴気で、1年じゅう雨が降り続けているのだ。
厄介なのがこの雨に含まれる瘴気が、人から髪をすべて奪うらしく…
シルトたちも気を付けなければ、北方へ帰る頃には頭をツルツルにして、帰ることになるかも知れないのだ。
「頼むリヒト!! この呪われた雨を一刻も早く、我々の頭上から消し去ってくれ!!」
女神に祈りを捧げつつ、シルトは切実に心からリヒトに願った。
北方の住民たちが美形ぞろいと言われる所以は、美しい青銀色の髪を持つ者が多いからだ。
「まさかキルシュバウムがこんなにも、恐ろしい場所とは知らなかった!!」
オーベンば青い顔でつぶやいた。
シュナイエン騎士団の面々は、大量発生した魔獣の襲撃よりも、自慢の髪を失う恐怖にくじけそうになっていた。
「シルト様は大丈夫ですよ! お優しいリヒトさまなら、髪が無くてもきっと今と変わらず愛してくれますよ… でも、未婚で婚約者もまだいない私などは…」
シルトを慰めるうちに、段々自分が落ち込んで行くノイに、フェルゼンが肩をたたいた。
「私の妻のような、可愛い花嫁を一緒に探してやるよノイ、元気を出せ!」
さりげなく惚気を言うのを忘れずに、フェルゼンはノイを慰めた。
8
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる