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取り返しがつかない(後)
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翌日、先触れを出さずに訪問するという皇族に有るまじき行いに、公爵家の執事は戸惑っていたが、皇太子を門前払いできずに中に通された。
公爵は皇宮にいるからサウスリアナが一人で対応するしかない。
だがサウスリアナがロッゼル伯爵家子息と共に部屋に入ってきた。
何故ロッゼルの次男がここに居るのかと思ったが、サウスリアナの教師をしていると言う。
そして先触れなく加害者のキークを連れてきた私を当てこすり、キークが自分で頼んだと言うとキークに苦言を呈したように見せかけて私を愚か者だと皮肉ったのを、キークが我慢出来ずに怒鳴った。
「その女がキリカを苛めたから悪いんだ!」
部屋が静寂に包まれた。
何を考えているんだ!
サウスリアナの許しを乞うために非常識にも先触れも出さずに訪問したのに!
何とか挽回しなければと口を開きかけるも、セルシュ殿にサウスリアナの体調不良を理由に一方的に終わらされた。
皇宮に戻る馬車の中でキークが謝ってきたがもうどうしようもない。
以前からキークは我慢が効かない所があった。
そしてこの事態を甘く見ている。
皇宮にキークと戻り、少しして父に呼ばれた。
皇帝執務室には父とマセル公爵、近衛騎士団長がいた。
近衛騎士団長はキークを見るなり気絶するまで打擲した。
「お前のような愚かな息子を持った余の身になってみよ。
マセル公爵令嬢との婚約は白紙になった。」
私は焦り父に撤回を求めた。
「お待ちください!
今回の事は確かに軽率でしたが、サウスリアナに私の気持ちを伝えたかっただけなのです!
キークも謝罪をする為に一緒に行ったんです!!
ただ誤解があってーー」
「殿下の気持ちとは我が娘に平民と愛し合うのを許し、お飾りの王妃にするとの気持ちですか?
そこの馬鹿は謝るどころか、娘が悪いと罵ったそうですが?」
何も言えなかった。
サウスリアナと話していないからもあるが、王妃にするどころか最後には婚約を破棄するつもりだったからだ。
「マセル公爵、愚息は騎士団宿舎の反省室にしばらく閉じこめる。」
騎士団長の言葉が信じられなかった。
騎士団宿舎の反省室は座るだけの空間しかない、部屋とも呼べないものだ。通常は数時間で出される。
それを何日も入れるなんてキークの精神が持つかわからない。
「よかろう。
では私は仕事に戻ります。」
公爵は私を一瞥して出ていった。
「 お前も部屋から一歩も出るな。誰にも会うことは許さん。」
それから誰とも会えず、身の回りの事は自分でしなければならなかった。
食事だけは届いた。
何日たったかわからなくなった夜に、父に呼ばれ大会議室に行くと母や弟、側妃達も集まっていた。
父は皆を見て口を開いた。
「今日、マセル公爵令嬢が刺された件で神前裁判が行われた。
そこでキリカなる娘に300年前の大罪人ラフィルの再来の疑いがかけられている。
皆静かーー」
「嘘だ!」
「嘘よ!」
母と弟が父の言葉を遮り同時に否定した。
私も嘘だと思いたかった。
キリカがラフィルの再来?
馬鹿なっ!
「静かに出来ぬなら永遠に口を閉じさせる。
聖玉で判明したのだ。その件で枢機卿が来る。
覚悟しておけ。」
聖玉で判明·····
大罪人ラフィルは神を語った稀代の愚か者だ。
キリカも同じだと言うのか。
訳がわからないまま枢機卿お二方と神前裁判の関係者が来た。
そして聖玉も·····
これから聖玉を使って皇族全員が尋問されるらしい。
一番は私だった。
部屋に入ると枢機卿とサウスリアナ、セルシュ殿がいて聖玉も置かれていた。
聖玉に触れるのが怖い·····
私の汚い欲望を神の使徒と元婚約者にさらけ出さねばならない。
だが逃げられないのもわかっていた。
聖玉に両手を置き、キリカとの出会いや不貞、サウスリアナを態と皆の前で貶め、刺されても当たり前だと思った事をはなさなければいけなかった。
サウスリアナは私の供述に俯き握った拳を震わせていた。
声をかけてもピクリとも動かなかった。
全員の尋問が終わり枢機卿達が帰った後、父が憎々しげに私や母、弟を見た。
「今回の供述は公表するそうだ。」
それだけ言って部屋を出た。
弟はキリカは悪くない、サウスリアナの陰謀だと騒ぎ、母は壊れたようにブツブツ言っている。
そして側妃達の嘲笑。
キリカの慈愛に満ちた瞳も怯えた涙も全て嘘だったのか。
私は何もかも間違えたのか?
混乱した心のまま数日が過ぎ、真夜中にセルシュ殿が聖職者の格好で部屋に入ってきた。
「皇太子殿下。母君や弟を死なせたくなければ、このまま静かに着いてきてください。」
有無を言わさず腕を捕まれ王妃宮に連れていかれ、弟も司祭と一緒に母の部屋に来た。
中に入り司祭の一人がフードを脱いだ。
赤い髪が零れ私達は驚愕した。
なぜサウスリアナが?!
叫ぼうとした弟の口を押さえ、サウスリアナが私達を助けに来たと言った。
意味が解らず理由を聞くと父が殺すからだと言う。
そんな非道をする筈ない!
否定したら自分は人にして何故されないと思うと聞かれた。
セルシュ殿も私を鬼畜以下の畜生の様に言う。
そうだ。聖玉での陳述で私の醜さを全て知られている。
馬車の中で壊れた母を医師に見せて欲しいと頼んだが、罪人だからと跳ね除けられた。
その上私が悪魔だと·····
何一つ言い返せず己の無力さを感じていたら、サウスリアナが枢機卿を説き伏せてくれようとした。
誰よりも苦しんだのは彼女なのに、それでも救いの手を差し伸べてくれる。
本当の美しさを見た気がしたーー
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
読んで頂きありがとうございますm(*_ _)m
一番女を見る目がない男、皇太子視点終了です。
次回からサウスリアナ視点に戻ります。
公爵は皇宮にいるからサウスリアナが一人で対応するしかない。
だがサウスリアナがロッゼル伯爵家子息と共に部屋に入ってきた。
何故ロッゼルの次男がここに居るのかと思ったが、サウスリアナの教師をしていると言う。
そして先触れなく加害者のキークを連れてきた私を当てこすり、キークが自分で頼んだと言うとキークに苦言を呈したように見せかけて私を愚か者だと皮肉ったのを、キークが我慢出来ずに怒鳴った。
「その女がキリカを苛めたから悪いんだ!」
部屋が静寂に包まれた。
何を考えているんだ!
サウスリアナの許しを乞うために非常識にも先触れも出さずに訪問したのに!
何とか挽回しなければと口を開きかけるも、セルシュ殿にサウスリアナの体調不良を理由に一方的に終わらされた。
皇宮に戻る馬車の中でキークが謝ってきたがもうどうしようもない。
以前からキークは我慢が効かない所があった。
そしてこの事態を甘く見ている。
皇宮にキークと戻り、少しして父に呼ばれた。
皇帝執務室には父とマセル公爵、近衛騎士団長がいた。
近衛騎士団長はキークを見るなり気絶するまで打擲した。
「お前のような愚かな息子を持った余の身になってみよ。
マセル公爵令嬢との婚約は白紙になった。」
私は焦り父に撤回を求めた。
「お待ちください!
今回の事は確かに軽率でしたが、サウスリアナに私の気持ちを伝えたかっただけなのです!
キークも謝罪をする為に一緒に行ったんです!!
ただ誤解があってーー」
「殿下の気持ちとは我が娘に平民と愛し合うのを許し、お飾りの王妃にするとの気持ちですか?
そこの馬鹿は謝るどころか、娘が悪いと罵ったそうですが?」
何も言えなかった。
サウスリアナと話していないからもあるが、王妃にするどころか最後には婚約を破棄するつもりだったからだ。
「マセル公爵、愚息は騎士団宿舎の反省室にしばらく閉じこめる。」
騎士団長の言葉が信じられなかった。
騎士団宿舎の反省室は座るだけの空間しかない、部屋とも呼べないものだ。通常は数時間で出される。
それを何日も入れるなんてキークの精神が持つかわからない。
「よかろう。
では私は仕事に戻ります。」
公爵は私を一瞥して出ていった。
「 お前も部屋から一歩も出るな。誰にも会うことは許さん。」
それから誰とも会えず、身の回りの事は自分でしなければならなかった。
食事だけは届いた。
何日たったかわからなくなった夜に、父に呼ばれ大会議室に行くと母や弟、側妃達も集まっていた。
父は皆を見て口を開いた。
「今日、マセル公爵令嬢が刺された件で神前裁判が行われた。
そこでキリカなる娘に300年前の大罪人ラフィルの再来の疑いがかけられている。
皆静かーー」
「嘘だ!」
「嘘よ!」
母と弟が父の言葉を遮り同時に否定した。
私も嘘だと思いたかった。
キリカがラフィルの再来?
馬鹿なっ!
「静かに出来ぬなら永遠に口を閉じさせる。
聖玉で判明したのだ。その件で枢機卿が来る。
覚悟しておけ。」
聖玉で判明·····
大罪人ラフィルは神を語った稀代の愚か者だ。
キリカも同じだと言うのか。
訳がわからないまま枢機卿お二方と神前裁判の関係者が来た。
そして聖玉も·····
これから聖玉を使って皇族全員が尋問されるらしい。
一番は私だった。
部屋に入ると枢機卿とサウスリアナ、セルシュ殿がいて聖玉も置かれていた。
聖玉に触れるのが怖い·····
私の汚い欲望を神の使徒と元婚約者にさらけ出さねばならない。
だが逃げられないのもわかっていた。
聖玉に両手を置き、キリカとの出会いや不貞、サウスリアナを態と皆の前で貶め、刺されても当たり前だと思った事をはなさなければいけなかった。
サウスリアナは私の供述に俯き握った拳を震わせていた。
声をかけてもピクリとも動かなかった。
全員の尋問が終わり枢機卿達が帰った後、父が憎々しげに私や母、弟を見た。
「今回の供述は公表するそうだ。」
それだけ言って部屋を出た。
弟はキリカは悪くない、サウスリアナの陰謀だと騒ぎ、母は壊れたようにブツブツ言っている。
そして側妃達の嘲笑。
キリカの慈愛に満ちた瞳も怯えた涙も全て嘘だったのか。
私は何もかも間違えたのか?
混乱した心のまま数日が過ぎ、真夜中にセルシュ殿が聖職者の格好で部屋に入ってきた。
「皇太子殿下。母君や弟を死なせたくなければ、このまま静かに着いてきてください。」
有無を言わさず腕を捕まれ王妃宮に連れていかれ、弟も司祭と一緒に母の部屋に来た。
中に入り司祭の一人がフードを脱いだ。
赤い髪が零れ私達は驚愕した。
なぜサウスリアナが?!
叫ぼうとした弟の口を押さえ、サウスリアナが私達を助けに来たと言った。
意味が解らず理由を聞くと父が殺すからだと言う。
そんな非道をする筈ない!
否定したら自分は人にして何故されないと思うと聞かれた。
セルシュ殿も私を鬼畜以下の畜生の様に言う。
そうだ。聖玉での陳述で私の醜さを全て知られている。
馬車の中で壊れた母を医師に見せて欲しいと頼んだが、罪人だからと跳ね除けられた。
その上私が悪魔だと·····
何一つ言い返せず己の無力さを感じていたら、サウスリアナが枢機卿を説き伏せてくれようとした。
誰よりも苦しんだのは彼女なのに、それでも救いの手を差し伸べてくれる。
本当の美しさを見た気がしたーー
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
読んで頂きありがとうございますm(*_ _)m
一番女を見る目がない男、皇太子視点終了です。
次回からサウスリアナ視点に戻ります。
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