第二の人生、公爵令嬢として頑張りますぅ?

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敵の狙い〜セルシュside〜(改)

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私は今部屋の入口に立ってリッツヘルムとアヤナに睨まれている。

「何がどうなったら自分で特攻する覚悟になるんです!」

扉は開けたままなのでサウスリアナ様に聞こえないように小声で威嚇されてしまった。

「私も驚いているんだ。」

驚いているがサウスリアナ様らしい馬鹿げた覚悟だった。

リッツヘルムが求めたのは領地や領民を守る為に非情な命令を下せるか、その結果を飲み込めるかを聞いた。

アヤナ夫婦もそう受け取ったからこそ口出ししなかったのだ。

一番理解しなければならないサウスリアナ様が何を勘違いして自分がやるとなるのか!

「半分は理解したようだが···」

「肝心の半分が理解出来てないんだよ!
お嬢様は切れたら本当に自分でヤリに行きますよ!!
そんな覚悟は求めてないんです!」

わかっている。君だけじゃなく誰も公爵当主にそんなもの求めない。

そしてサウスリアナ様が自分で始末をつけようとする姿をここにいる誰もが疑わずに想像出来る。

···教育を間違えたのだろうか?
でも私と会った時から我が強かったんだよなぁ~。

「先生、遠い目しないで現実見て下さい。
お嬢様はご自身を過信しすぎてます。
か弱い女の子なんですよ。」

話に入ってきたアヤナが力説するが、私とリッツヘルムは微妙な顔になった。

か弱い?学園で生徒や教師を罠に嵌めて教会に啖呵をきり、皇太子の股間を蹴って鉄扇で殴ったのに?

私達の胡乱な視線にアヤナは目が泳がせた。自分で言ってて自信がないんだな。

ーー三人に奇妙な間が生まれる。

誰も次の発言をしない。
一応リッツヘルムが爵位を持っているのでこの中で一番身分的に高いから発言権が強い。
私はしがない伯爵家次男だし、アヤナはもと下級侍女だ。

私はリッツヘルムを見て、リッツヘルムは専属侍女となっているアヤナを、アヤナは私を見つめ三竦みになった。

私はリッツヘルムに任せる事にした。

「ガリーアン騎士爵、何か言って下さい。」
「アヤナ専属侍女殿、俺よりもお嬢様と付き合いありますよね。」
「付き合いが濃いのはロッゼル伯爵令息様が一番ですよ。」

「「「···」」」

駄目だ、押し付けあいになっている。

リッツヘルムが不毛な会話を終わらせようと自分に言い聞かせるように言う。

「半分は理解したんだから後はおいおいで。」
「そうですね。お嬢様は無責任な真似はなさいませんわ。」
「これからの成長に期待しよう。」

アヤナも追従し私が〆ると2人が私の方に向き手を握りしめてきた。

「「先生、よろしくお願いします!」」

何故ここで団結するんだ···



取り敢えず解散しリッツヘルムは扉の外で見張りを、私は入口に立ち、植物の話をするアヤナ夫婦とサウスリアナ様を見守りながらどうしたらいいか考えていた。

あの子は命の重みを知っている。
必要以上に・・・・・

ここ最近の彼女の変化はそこからきているのだろう。

皇宮襲撃の報で心が限界にきたようだった。

この部屋に運んだ時、サウスリアナ様の頼りなく怯える姿が可哀想で慰めていただけなのに、離れた時の喪失感に呆然となった。

何なんだ!
相手はあのサウスリアナ様だぞ!!
美少女でも中身は猛獣なんだ!
しっかりしろ!!

大丈夫だ。
弱った女性は三割増で魅力的に見え、錯覚を起こしやすい。
それで失敗した奴を見てきただろ。
落ち着け、セルシュ。
中身は猛獣。無鉄砲。

しかし己に正直で頑張り屋だ。
情に厚いし(それは諸刃の剣だが)
私に頬を触れられて顔を真っ赤にして可愛いところも·····
じゃない!

落ち着け、まだ大丈夫だ。
サウスリアナ様は猛獣、無鉄砲、教え子!

いつものように何度も心の中で唱える。

切り札を切る前にサウスリアナ様が立ち直ってくれて良かった。訳の分からん方向にだがーーー

原因を正しく認識すれば罪悪感や同情など必要ないと理解したが、刑が執行されれば彼女の柔らかい何かが傷つくだろう。

あの子の心を守りたかったがマセル公爵家の後継者だ。
その傲慢な思いは許されるものではなかった。

お父上に何かあれば彼女が筆頭公爵当主としてこの件の収拾をつけなければならない。


恐らく北塔の火事と皇宮の襲撃は繋がっている。
でなければ離れた2つの場所で同時刻に起こるはずがない。

おそらく火の手が合図だ。
だがどうやって逃げる?
今回の件は公表されているし、あの愚か者や神前裁判の関係者の絵姿は一緒に出回っている。大陸から逃げるにも海まで10日以上かかる。
逃亡中に捕まる事はわかり切っている。
皇帝も逃げるつもりだろうが·····

皇帝が逃げなかったら?

いや、皇帝を囮に国内を混乱させ、帝都から逃げ出す多くの民衆に愚か者共が紛れて逃げても、教会騎士が検問しているから見逃しはしない。

教会騎士・・・・
助祭・・死んだ司祭・・・・・

普段厳重に管理された聖職者の服。
制服は権威を表し盗難で悪用されないように常に数も数えている。

だがこれだけの騒ぎだ。
最優先は首座主教と2人の枢機卿の安全。
制服の数など後回しになる。
そして女性の髪や容姿は染め粉や化粧で変えられる。

やられた!
検問は皇宮の騒ぎで近衛騎士は出られず、教会騎士も精鋭はここにいる。

聖職者の服を来ていればそれ程疑われる事はない。

この部屋の守りをリッツヘルムに託し大聖堂へ向かった。

扉にいる騎士に危急だと告げ、直ぐに首座主教の元に案内された。

「首座主教様、検問の騎士に聖職者の服を着ている者には注意を促してください!」

海に出られたら終わりだ。

私の非礼よりも発言の内容に三人の聖職者は驚いていた。

エジエル枢機卿が言葉を発する前に扉の方から悲鳴が聞こえた。

振り返ると白い煙が立ち込めている。火の煙では無い!
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