悪役令嬢独立奮闘記

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ヒルデガルダ・ギリングの奮闘

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学院に入って少したった頃に、漆黒の塔の騎士の間でヒルデガルダが魔剣主ソードマスターになるか魔法騎士ソードナイトになるかの賭けをしていると聞かされ、膝から崩れ落ちた。

(魔剣主ソードマスターになったら雑用係決定で魔法騎士ソードナイトなら雑用係の雑用係。
全然ダラダラ出来ない!)

来年の春に漆黒の塔の試験を受けるが、手を抜けばヴァルキュリアにバレて最悪漆黒の塔には入れないだろう。

それ以前に忙しいのにヒルデガルダの師になってくれたヴァルキュリアに恩を仇で返すような真似は出来ない。

母や姉のような存在のヴァルキュリアに失望されたくもなかった。

ヒルデガルダはその件はなるようになると深く考えるのを放棄した(現実逃避とも言う)

先の心配より目先の問題に思考を切りかえる。

入学式でバルドルとミーミルが出会って以降、二人で一緒に居る光景をよく目にするようになった。

ヒルデガルダは二人がイチャつこうが婚約しようがどうでもよかった。

本音を言えばバルドル側の有責でさっさと婚約破棄してくれないかと思っている。

ヒルデガルダも学院の男子生徒と会話しているが、必ず一人以上の女生徒と一緒にいるように気を使っていた。

こちら側の有責での婚約破棄などさせるつもりはない。

異性とそれなりに会話していれば強制力が働かないので、その場に同性が何人いても問題なかった。

苛めはその時の会話でミーミルがヒルデガルダの婚約者と仲良くしすぎているとか、馴れ馴れしいとかをヒルデガルダ自身が苛めだと思って周りに言えば何も起きなかった。


ヒルデガルダの設定が夜遊び令嬢なので、そちらに忙しく噂を流してヒロインを貶める苛めしかないと言っていた。

ヒルデガルダからしたらそれは事実を言っているだけで苛めに入るか?と思うが·····

そして断罪後のゲームでは親から放逐されて遊び相手の男に殺されるらしいが·····

(親から放逐されても漆黒の塔に入るから関係ないし、今でも漆黒の塔に住んでるようなものだしね。それよりわたしを殺せる男ってどんなの?)

今のヒルデガルダはおそらく王国でも敵う相手など居ないだろう。

エリート揃いの漆黒の塔の中でも実力だけでいえばヴァルキュリアに匹敵する強さだ。

多少強さに重きを置きすぎて、知識は漆黒の塔では最下位だが·····

ヴァルキュリアから漆黒の塔に入れるギリギリの成績だと言われている。

ヒルデガルダの知能に問題がある訳ではなく、漆黒の塔は頭脳もエリート揃いなのだ。

学院の試験では手が縛られたようにほとんど動かず、いつも最下位をウロウロしているが、普通に手が動いていたら50位辺りだろう。

(レイやヨルは1位争いしてるけど、まあいいか。)

手を抜ける所はとことん手を抜いてダラダラ時間を確保したいヒルデガルダだった。





フレイヤ達の言うゲームの流れ通り、ヒルデガルダが14才の時にヒロインとなる従姉妹のミーミルがギリング辺境伯家に引き取られた。

ミーミルの両親、ギリング辺境伯の弟夫婦が事故で亡くなり、孤児になったミーミルをヒルデガルダの父現ギリング辺境伯が養女にしたのだ。

ミーミルはピンクブラウンの髪にパパラチア・サファイアの知的な感じの美少女だった。

初めてミーミルを見た時にヒルデガルダはなるほどと感心した。

(悪役令嬢とヒロインは対照的な存在だと言っていたけど、派手なヒルデガルダと清楚なミーミルヒロインは確かに正反対だね)

ほとんどの時間を漆黒の塔で過ごしていたのでミーミルを偶に見かける程度だが、いつも淡い色のシンプルな服を着て本を読んでいた。

そして同じ年に婚約者も決まった。

やはりゲームと同じ、第二王子バルドル。

フレイヤの婚約者、第一王子シグルドとは同い年の異母兄弟でシグルドは王妃の子でバルドルは側妃の子だった。

ホワイトゴールドの髪にアメジストの瞳の美形で正義感が強い·····らしい。

ヒルデガルダからしたら浮気する不実な男のどこに正義があるのか謎でしかない。

初対面でヒルデガルダに嫌悪感を剥き出しにして、この婚約が不本意だと言わんばかりの態度にこちらも気遣う必要はないと、内心では冷めた目で表面では媚び媚びの態度で接していた。

何故婚約を解消しないのか分からず、ゲームの中にヒントがあるかフレイヤとヨルズノートに聞いてみた。

「ゲームでは国の為に自分の我儘で婚約を解消できないとか言ってましたわ。」

「国境を守るギリング辺境伯と王家の絆を強くするための婚姻だからね。
最後は養女になったミーミルでも問題なかったんで、ヒーたんの素行不良とミーミルの苛めで婚約破棄するんだよ。
辺境伯はヒーたんの貴族籍を除籍して追い出し、遊びで付き合っていた男に刺されちゃうの。」

フレイヤよりもヨルズノートの方がゲームに詳しいらしくフレイヤの説明を補足してくれた。

「正義はどこいった?」

二人に問いかけるとどちらも口篭る。

「よく分からんゲームだね。
わたしの婚約者は正義感が強く、レイの婚約者は穏やかな人格者でヨルの婚約者は優しい一途な男って聞いたけど、浮気しといて正義感とか優しさとかないよね。」

二人の婚約者しかり、自身の婚約者しかり。

「·····そこら辺は強制力でそうなっちゃうんじゃないのかなぁ。」

ヨルズノートの言葉に更にわからなくなった。

「強制力って言動や行動は支配できるけど、精神は支配できないよね。」

ヨルズノートはそれ以上何も言えずフレイヤも何も言わなかった。

ヒルデガルダは二人を困らせるような質問になり申し訳なくなる。

「ごめん。
わたしはゲームを知らないから余計な事言った。」

二人に謝るとどちらも首を振って否定した。

「わたくし達も強制力のせいだと思い込んであまり深く考えていませんでしたわ。」

「もしかしたら性格はゲームとは違うかもしれないね。
私達だってゲームと性格違うし。
二次元だから許された設定もあるしね☆」

その後はもうすぐ入学する学院の話になり、気まずい空気もなくなった。






深夜に遊びから漆黒の塔に帰ってきたヒルデガルダはベッドに寝転んで学院に入る前に三人でゲームの話をした時の事を思い出していた。

フレイヤやヨルズノートは強制力が働いていると考えているが、そうなのだろうか?

抑々、ここは本当にゲームの世界なのかといつもヒルデガルダの心の中でその疑問が横たわっていた。

確かに彼女達の言うようにゲームと同じ名前や身分、ゲーム通りにことが動いている。

それでも三人の本来の思考や趣味、性格がゲームとかけ離れ過ぎてた。
それが転生者だからと言われればそれまでだが、転生者からしてゲームとは違ってきている。

まだ誰かに操ら・・れている・・・・と考えた方が納得できる現象だった。

こんな事なら前世で格闘ゲームばかりやらず、少しは乙女ゲームもやっておけば良かったと、名前も思い出せない前世の自分の愚痴を零した。











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