瞬間小話

すききらい。

　いつからあなたが好きだったのかは思い出せません。
　過去を振り返ってみると、どの地点においてもあなたの事は好きだった様に思えます。
　一転して。
　いつから彼の事が嫌いだったのかは思い出せません。
　過去を振り返ってみると、どの地点においても彼の事は嫌いだった様に思えます。
　
　あなたが彼であると知った時、私の心はぐちゃぐちゃに壊れました。
　どう考えていいのかが分かりません。
　好きだったあなたがあなたの本当？　それとも嫌いな彼があなたの本当？
　どうしたらこの気持ちが何とかきれいに固まりますでしょうか？

　どちらの気持ちも忘れるべきなのは、なんとなくわかっているんです。
　けれど、嫌いを忘れられるのなら好きでいいのです。
　好きを忘れられるのなら嫌いでいいのです。
　そんな簡単な感情ではない事くらい、あなたもお分かりではありませんか？

　どうにも考えがまとまりません。
　これはあなたの責任です。
　どうか、あなた自身もご協力を。

　明日の夜九時に、私は家で待っています。
　お好きな姿でお越しください。
　ああ、貴方にとっての本当でお越しください。
　どちらが本当なのか私にはまったく分かりませんから。
　日を改める事はありません。あなたが断る事はできません。
　できれば、夕食は食べないで。ご用意がありますので。
　


　ええ、そちらで来るのなら、私の答えは一つしかないのです。
　夕食は食べなかったんですね。えらいえらい。
　おかげで手間が省けました。少しばかり。
　お疲れの様ですから、もうお休みください。無理をなさらず。ああ。
　目を閉じれば楽になりますよ。何も心配はいりません。
　あとは、私に任せていただければいいんですから。