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本篇
第1話
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世界は2つの種族の争いによって混沌に満ちていた。
知性が高く武器の扱いに長けた人族と、野蛮だが魔力が高く長命な魔族。
2つの種族は争い続けながらも常に絶妙な均衡を保っていたが、その均衡が敗れたのは突然の事だった。魔族側に魔王と呼ばれる絶対強者が誕生したのだ。
人族は強大な魔王の力の前に成す術もなく倒れていった。
けれど神もまだ人族を見捨ててはいなかった。それは魔王が誕生したのと同じように、ある日唐突に神より託宣を受けたのだという。
1人はまだ年若い少年で、神より特別な力を授かった勇者だと名乗った。
1人は花も恥じらう少女で、神より聖なる力を授かった聖女だと名乗った。
かくして、人族の王様は2人と人族の王国でも指折りの戦士数人を勇者パーティーとして魔王討伐へと旅立たせたのだった──
♦︎
「よし、皆ここまでよくやってくれた。いよいよ魔王城最上階だが、魔王の前に行く前に俺の話を聞いてくれないか?」
「お、勇者サマのご高説か?いいぜ、ここらで気合い入れてこうぜ」
「そうですね。これが最終戦でしょう…各自思い残す事のないように、勇者の後に一言ずつ言っていこうではありませんか」
絶対強者、魔王が座して待つ最後の部屋の前で勇者は笑顔で一行の面々に振り返った。
勇者の提案に調子良く答えながらおちゃらけてみせるのは、パーティ1の年長者で戦士。
周囲を良く観察して調和をもたらしてくれるのは魔法使い。
そして最後尾で微笑んでいるのは勇者一行の紅一点、聖女である。
「…今まで本当にありがとう、皆。俺、皆が居たから今までの辛くて大変な旅を乗り越えてこられたと思うんだ。正直、魔王との戦いはどうなるか分からない…でも、でも俺は、皆と一緒なら今度も乗り越えられると思ってる…!!」
勇者の今までの想いが沢山込められた言葉はパーティの面々の心を深く打つ。
「勇者…!あったり前だろ!ちゃちゃっと魔王に勝って、皆で凱旋パレードしようぜ!!」
「ふふ、まだ泣いて感謝するのは早いですよ。王都に帰ったらその時に改めて感謝を伝えさせて下さい」
戦士と魔法使いが勇者の肩を抱いて今までの健闘を称える。そして3人が聖女を振り返る。
「皆様…私も皆様に感謝しております。ここまでの旅路、いつも迷惑ばかり掛けてしまったけれど、そんな私を見捨てずまた普通の女の子として扱ってくれた事、本当に嬉しかった」
「聖女様…」
まだ最終決戦前だと分かっていても、目に溢れてくるものを止められる者は居なかった。
聖女も3人に近寄り、4人でぎゅうぎゅうと抱きしめ合う。そして誰からともなくそのまま円陣を組むと、拳をぶつけ合う。
「さあ…最終決戦だ!!!」
勇者の雄々しい掛け声と共に大きく豪奢な最後の部屋の扉を開け放つ──
♦︎
大きなダンスホールを思わせる繊細で豪華な装飾が施された部屋の最奥、一段高くなっているその場所に鎮座する玉座に魔王そのひとが座っていた。
肘掛けに片肘をつき、まるで慌てる事もなく至極ゆったりとした動作で居城に押し入ってきた勇者一行を睥睨する。
座っているだけでも分かる鍛え上げられた逞しく、美しく均整の取れた巨躯に、漆黒の艶やかな髪に見え隠れする瞳は鋭く、けれど星々の煌めきを思わせる光を宿した濃紺。
はぁ、と気怠げにため息を吐き出した唇は薄く、その口からは牙とも見て取れる犬歯が覗く。
「…ここまで来たか、人族の勇者を名乗る者共よ」
それぞれ武器を構える勇者一行に対峙しても、魔王は未だ座したまま。まるで隙だらけの様にも見えるが、勇者達はその余りの威圧感、恐怖に額に汗を滲ませた。
「(くっ…!これが、魔王!なんてパワーだ…!)」
勇者は歯を食いしばる。
本能は恐怖を覚え、逃げろと伝えてくる。けれど勇者はここで引くわけにはいかなかった。まだ小さなその肩には王国の、人族の期待が一心に掛かっているのだから。
「魔王!覚悟しろ!」
自分を奮い立たせる為にも大声を出す。
ギッと勇者を睨みつけた魔王が、おもむろに立ち上がる。
「み、皆くるぞ!かまえ──」
──バキイィィッッッッッ!!!!!
破壊音が炸裂する。
しまった、魔王の先制攻撃か!全く見えなかった…!とダメージの無い勇者が状況を確認する為にパーティーの面々を振り返れば、
「……あれ?」
勇者同様、ダメージを受けた様に見えない戦士、魔法使い、そして聖杖を構え…構え……構えてないな?
「うおお!聖女、おまっ、またかよ!」
「そ、それは最終決戦という事で国王様より賜った国宝の…!」
「お前一体何本杖壊せば気がすむんだよ!?」
魔王も勇者もぽかんと口を開けてぎゃあぎゃあと五月蝿い騒ぎの中心、聖女を名乗る少女を見つめる。
「えっ?あ…ごめんなさいっ!嘘!やだー!ごめんなさい!!でも、だって……!!」
ごめんなさいと謝りながら、聖女は手に残っていた聖杖の残骸を更にボキボキボキイイイイ!!!と粉々に握り潰す。
「だって、だって、だって…!魔王!!!」
「!?」
粉と化した聖杖を振り撒き、聖女は魔王を指差す。
「魔王がこんなイケメンなんて聞いてないっっ!!!好きっっ!!!」
…はああああ!!?
知性が高く武器の扱いに長けた人族と、野蛮だが魔力が高く長命な魔族。
2つの種族は争い続けながらも常に絶妙な均衡を保っていたが、その均衡が敗れたのは突然の事だった。魔族側に魔王と呼ばれる絶対強者が誕生したのだ。
人族は強大な魔王の力の前に成す術もなく倒れていった。
けれど神もまだ人族を見捨ててはいなかった。それは魔王が誕生したのと同じように、ある日唐突に神より託宣を受けたのだという。
1人はまだ年若い少年で、神より特別な力を授かった勇者だと名乗った。
1人は花も恥じらう少女で、神より聖なる力を授かった聖女だと名乗った。
かくして、人族の王様は2人と人族の王国でも指折りの戦士数人を勇者パーティーとして魔王討伐へと旅立たせたのだった──
♦︎
「よし、皆ここまでよくやってくれた。いよいよ魔王城最上階だが、魔王の前に行く前に俺の話を聞いてくれないか?」
「お、勇者サマのご高説か?いいぜ、ここらで気合い入れてこうぜ」
「そうですね。これが最終戦でしょう…各自思い残す事のないように、勇者の後に一言ずつ言っていこうではありませんか」
絶対強者、魔王が座して待つ最後の部屋の前で勇者は笑顔で一行の面々に振り返った。
勇者の提案に調子良く答えながらおちゃらけてみせるのは、パーティ1の年長者で戦士。
周囲を良く観察して調和をもたらしてくれるのは魔法使い。
そして最後尾で微笑んでいるのは勇者一行の紅一点、聖女である。
「…今まで本当にありがとう、皆。俺、皆が居たから今までの辛くて大変な旅を乗り越えてこられたと思うんだ。正直、魔王との戦いはどうなるか分からない…でも、でも俺は、皆と一緒なら今度も乗り越えられると思ってる…!!」
勇者の今までの想いが沢山込められた言葉はパーティの面々の心を深く打つ。
「勇者…!あったり前だろ!ちゃちゃっと魔王に勝って、皆で凱旋パレードしようぜ!!」
「ふふ、まだ泣いて感謝するのは早いですよ。王都に帰ったらその時に改めて感謝を伝えさせて下さい」
戦士と魔法使いが勇者の肩を抱いて今までの健闘を称える。そして3人が聖女を振り返る。
「皆様…私も皆様に感謝しております。ここまでの旅路、いつも迷惑ばかり掛けてしまったけれど、そんな私を見捨てずまた普通の女の子として扱ってくれた事、本当に嬉しかった」
「聖女様…」
まだ最終決戦前だと分かっていても、目に溢れてくるものを止められる者は居なかった。
聖女も3人に近寄り、4人でぎゅうぎゅうと抱きしめ合う。そして誰からともなくそのまま円陣を組むと、拳をぶつけ合う。
「さあ…最終決戦だ!!!」
勇者の雄々しい掛け声と共に大きく豪奢な最後の部屋の扉を開け放つ──
♦︎
大きなダンスホールを思わせる繊細で豪華な装飾が施された部屋の最奥、一段高くなっているその場所に鎮座する玉座に魔王そのひとが座っていた。
肘掛けに片肘をつき、まるで慌てる事もなく至極ゆったりとした動作で居城に押し入ってきた勇者一行を睥睨する。
座っているだけでも分かる鍛え上げられた逞しく、美しく均整の取れた巨躯に、漆黒の艶やかな髪に見え隠れする瞳は鋭く、けれど星々の煌めきを思わせる光を宿した濃紺。
はぁ、と気怠げにため息を吐き出した唇は薄く、その口からは牙とも見て取れる犬歯が覗く。
「…ここまで来たか、人族の勇者を名乗る者共よ」
それぞれ武器を構える勇者一行に対峙しても、魔王は未だ座したまま。まるで隙だらけの様にも見えるが、勇者達はその余りの威圧感、恐怖に額に汗を滲ませた。
「(くっ…!これが、魔王!なんてパワーだ…!)」
勇者は歯を食いしばる。
本能は恐怖を覚え、逃げろと伝えてくる。けれど勇者はここで引くわけにはいかなかった。まだ小さなその肩には王国の、人族の期待が一心に掛かっているのだから。
「魔王!覚悟しろ!」
自分を奮い立たせる為にも大声を出す。
ギッと勇者を睨みつけた魔王が、おもむろに立ち上がる。
「み、皆くるぞ!かまえ──」
──バキイィィッッッッッ!!!!!
破壊音が炸裂する。
しまった、魔王の先制攻撃か!全く見えなかった…!とダメージの無い勇者が状況を確認する為にパーティーの面々を振り返れば、
「……あれ?」
勇者同様、ダメージを受けた様に見えない戦士、魔法使い、そして聖杖を構え…構え……構えてないな?
「うおお!聖女、おまっ、またかよ!」
「そ、それは最終決戦という事で国王様より賜った国宝の…!」
「お前一体何本杖壊せば気がすむんだよ!?」
魔王も勇者もぽかんと口を開けてぎゃあぎゃあと五月蝿い騒ぎの中心、聖女を名乗る少女を見つめる。
「えっ?あ…ごめんなさいっ!嘘!やだー!ごめんなさい!!でも、だって……!!」
ごめんなさいと謝りながら、聖女は手に残っていた聖杖の残骸を更にボキボキボキイイイイ!!!と粉々に握り潰す。
「だって、だって、だって…!魔王!!!」
「!?」
粉と化した聖杖を振り撒き、聖女は魔王を指差す。
「魔王がこんなイケメンなんて聞いてないっっ!!!好きっっ!!!」
…はああああ!!?
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