暴力的衝動的不治の病、もしくは愛と呼ばれる類のそれについて

KUZUME

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番外編(悪恋未収録)

番外編1 その後の勇者の話

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 朝目覚めてまず最初に自室の大きな窓から外を見下ろす。
 晴れ渡る晴天、こんな日はきっと洗濯物がよく乾くだろう。今日の予定を決めて、勇者はぐぐっと背を伸ばしてから着替える為にベッドから降りる。
 念願の見晴らしの良い大きな窓のあるこの部屋に住み始めてから暫く経つが、今だに毎朝ニヤニヤとしてしまう。

 「今日の朝ごはんはなんだろう」

 空腹を訴え出したお腹に手を当てて、すっかり食堂と化した玉座の間へと足取り軽く向かった。



♦︎



 重苦しい扉を開けて、勇者は既に朝食が配膳されている大きな食卓へと足を向ける。すると先に席についていた魔法使いが勇者に気づき朝の挨拶を告げる。

 「おはよう、2人共今朝は早いんだね」
 「ええ、天気が良いので魔導書の虫干しをしようかと思いまして」
 「おう、はよ。つっても俺は今まで起きててこれから寝るんだけどな」
 「また魔王と呑んでたの?」

 声に促されるままに戦士へ顔を向けると、なるほど顔色が悪い。戦士の前には温かそうな湯気のたつ味噌汁だけが置かれていた。

 「いや、ほんと酒の趣味はいいわ、魔王あいつ
 「仕方ないなぁ。何か洗濯物あるなら俺やっとくから出しといてよ」
 「おう、悪いな…」

 勇者を待って朝食を食べ始めた魔法使いと戦士の横で、勇者は手を組んで神へ祈りを捧げてから箸を手に持つ。
 と、そこで勇者は今朝の食卓は随分と静かなことに気がついた。

 「あれ。ていうかその魔王と聖女は?」
 「へっ、30勝15敗3引き分け…今日も奴を沈めてやったぜ…」
 「魔王でしたら飲み過ぎてゲロって寝室で聖女に手厚く看護受けてますよ」
 「え~またあ?魔王もそんなにお酒強くないんだから程々にしとけばいいのに…。ていうか戦士、そろそろ聖女にボコボコにされるから良い加減魔王と飲み比べするのよしなよ」

 味噌汁もそこそこに青い顔で自室へと戻る戦士の背を見て、将来こういう大人にはならないでおこうと勇者が密かに心の中で誓っていると、食卓のすぐ側をかつて自分達の牢番をしていた魔族の彼が通り掛かったことに気づき声を掛けた。

 「あ!おはよう!」
 「ん?ああ、勇者か。おはよう」
 「ねぇねぇ、今日は天気が良いから大洗濯大会やろうと思ってるんだけど、みんなも洗濯物あったら桶と板持って中庭で一緒にやらない?」
 「大洗濯大会…?それって何するんだ?」
 「ふふん、その名の通り、みんなで一斉に洗濯するんだ!それで、1番がんばった人には何かご褒美…そうだな、今回は聖剣一回利用権なんてどう?」
 「まじかっ!?いやー!どうしても切り倒せない魔木が城の裏手にあってよう!畑広げるのに苦労してたんだ!聖剣だったら呪われた魔木でも切り倒せるか!?」
 「一刀両断出来ると思うよ」
 「よしっ!それなら城中の奴等にその大洗濯大会やるっての言って回っとくよ!」
 「ありがとう!じゃあ、あと1時間後に中庭集合で!」
 「おー!」

 嬉々として去って行く魔族に手を振り再び箸をおかずへと伸ばす。と、魔法使いがなんとも言えない苦笑を漏らす。

 「ん?どうした?」
 「いえ…随分魔王城ここに馴染んだな、と思いまして」

 良い事なんだか悪い事なんだか、と言いながら魔法使いはコーヒーの入ったマグカップを持ち上げる。

 「…勇者という肩書きを持つ人間としては、良い事じゃないっていうのは、まぁ。ていうかほとんどノリと自棄っぱちで言ってた通りに魔王城に住んじゃってるし」
 「そうですね。我々が馴染んだのか、無理矢理我々色に染めちゃってるのか判断がつきませんが…」

 言って魔法使いは玉座の間をぐるりと見渡す。
 今朝食をとっている食卓を始め、ソファーやクッション、カラフルで可愛らしい人間の家具がすっかり我が物顔で居座っている。大多数は聖女の好みだが、所々に勇者や魔法使い、戦士の希望で揃えた物もある。
 魔法使いの視線を追って、なんとなく言わんとしていることを察して勇者は苦笑をこぼす。

 「まぁ、あれだよね。意外とこんなに馴染んじゃってる1番の理由は──」
 「もうっ!!まーちゃん!!呑み過ぎは体に良くないんですよってあれほど!!」
 「ええい!別にちょっとくらいいいであろうが!」
 「でも、毎回まーちゃんゲロゲロになっちゃってるじゃないですか!怖いんですよ?酔っ払って前後不覚になった挙句階段から転んで全身大怪我しちゃったらどうするんですか!?」
 「貴様の回復魔法があれば二日酔いなど即座に治るであろうが!」
 「えっ…!そんな、私が必要だっていう口実に…!」
 「違うわ!!毎回毎回、何をどうしたらそう自分の都合の良いように物事を解釈出来るのだ!?俺は貴様を利用してやろうと─!」
 「あっ、でも二日酔いでグロッキーになってるまーちゃんを1日中看病するっていうのも…」
 「貴様の回復魔法を頼りにしている!!だから1日中付きまとうのはやめろ!!」
 「もうまーちゃんは私が居ないとお酒呑めないねっ」
 「…」
 「ふふ、まーちゃんが最近私の回復魔法を頼りにしてお酒を浴びるように呑んでるの知ってるんですからね!」
 「…くっ」

 バタン!と扉を開け放つ大きな音と共に騒がしく玉座の間へとやってきた魔王と聖女を見つけて勇者と魔法使いは同時に笑みをこぼす。

 「俺達がここに馴染んでる1番の理由って、あの2人だよね」
 「そうですね。魔族かれらと戦う気なんてものは、あれを見てるとどっかに吹き飛んでしまいますものね」

 朝食の最後の一口を飲み込んで、ごちそうさまでした!と大きな声で告げる。
 さて洗濯物をまとめて、桶と洗濯板を準備しなければと勇者はまだコーヒーをゆっくり楽しんでいる魔法使いにまたあとで、と声を掛けてから席を立つ。
 背中にぎゃあぎゃあと騒がしい魔王と聖女の声を受けて、思ったよりも大分居心地の良い魔王城しんきょでの暮らしに、勇者は溢れる笑みを隠さずに大洗濯大会へ向けてやる気のサムズアップをした。
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