5 / 6
番外編(悪恋未収録)
番外編1 その後の勇者の話
しおりを挟む
朝目覚めてまず最初に自室の大きな窓から外を見下ろす。
晴れ渡る晴天、こんな日はきっと洗濯物がよく乾くだろう。今日の予定を決めて、勇者はぐぐっと背を伸ばしてから着替える為にベッドから降りる。
念願の見晴らしの良い大きな窓のあるこの部屋に住み始めてから暫く経つが、今だに毎朝ニヤニヤとしてしまう。
「今日の朝ごはんはなんだろう」
空腹を訴え出したお腹に手を当てて、すっかり食堂と化した玉座の間へと足取り軽く向かった。
♦︎
重苦しい扉を開けて、勇者は既に朝食が配膳されている大きな食卓へと足を向ける。すると先に席についていた魔法使いが勇者に気づき朝の挨拶を告げる。
「おはよう、2人共今朝は早いんだね」
「ええ、天気が良いので魔導書の虫干しをしようかと思いまして」
「おう、はよ。つっても俺は今まで起きててこれから寝るんだけどな」
「また魔王と呑んでたの?」
声に促されるままに戦士へ顔を向けると、なるほど顔色が悪い。戦士の前には温かそうな湯気のたつ味噌汁だけが置かれていた。
「いや、ほんと酒の趣味はいいわ、魔王」
「仕方ないなぁ。何か洗濯物あるなら俺やっとくから出しといてよ」
「おう、悪いな…」
勇者を待って朝食を食べ始めた魔法使いと戦士の横で、勇者は手を組んで神へ祈りを捧げてから箸を手に持つ。
と、そこで勇者は今朝の食卓は随分と静かなことに気がついた。
「あれ。ていうかその魔王と聖女は?」
「へっ、30勝15敗3引き分け…今日も奴を沈めてやったぜ…」
「魔王でしたら飲み過ぎてゲロって寝室で聖女に手厚く看護受けてますよ」
「え~またあ?魔王もそんなにお酒強くないんだから程々にしとけばいいのに…。ていうか戦士、そろそろ聖女にボコボコにされるから良い加減魔王と飲み比べするのよしなよ」
味噌汁もそこそこに青い顔で自室へと戻る戦士の背を見て、将来こういう大人にはならないでおこうと勇者が密かに心の中で誓っていると、食卓のすぐ側をかつて自分達の牢番をしていた魔族の彼が通り掛かったことに気づき声を掛けた。
「あ!おはよう!」
「ん?ああ、勇者か。おはよう」
「ねぇねぇ、今日は天気が良いから大洗濯大会やろうと思ってるんだけど、みんなも洗濯物あったら桶と板持って中庭で一緒にやらない?」
「大洗濯大会…?それって何するんだ?」
「ふふん、その名の通り、みんなで一斉に洗濯するんだ!それで、1番がんばった人には何かご褒美…そうだな、今回は聖剣一回利用権なんてどう?」
「まじかっ!?いやー!どうしても切り倒せない魔木が城の裏手にあってよう!畑広げるのに苦労してたんだ!聖剣だったら呪われた魔木でも切り倒せるか!?」
「一刀両断出来ると思うよ」
「よしっ!それなら城中の奴等にその大洗濯大会やるっての言って回っとくよ!」
「ありがとう!じゃあ、あと1時間後に中庭集合で!」
「おー!」
嬉々として去って行く魔族に手を振り再び箸をおかずへと伸ばす。と、魔法使いがなんとも言えない苦笑を漏らす。
「ん?どうした?」
「いえ…随分魔王城に馴染んだな、と思いまして」
良い事なんだか悪い事なんだか、と言いながら魔法使いはコーヒーの入ったマグカップを持ち上げる。
「…勇者という肩書きを持つ人間としては、良い事じゃないっていうのは、まぁ。ていうかほとんどノリと自棄っぱちで言ってた通りに魔王城に住んじゃってるし」
「そうですね。我々が馴染んだのか、無理矢理我々色に染めちゃってるのか判断がつきませんが…」
言って魔法使いは玉座の間をぐるりと見渡す。
今朝食をとっている食卓を始め、ソファーやクッション、カラフルで可愛らしい人間の家具がすっかり我が物顔で居座っている。大多数は聖女の好みだが、所々に勇者や魔法使い、戦士の希望で揃えた物もある。
魔法使いの視線を追って、なんとなく言わんとしていることを察して勇者は苦笑をこぼす。
「まぁ、あれだよね。意外とこんなに馴染んじゃってる1番の理由は──」
「もうっ!!まーちゃん!!呑み過ぎは体に良くないんですよってあれほど!!」
「ええい!別にちょっとくらいいいであろうが!」
「でも、毎回まーちゃんゲロゲロになっちゃってるじゃないですか!怖いんですよ?酔っ払って前後不覚になった挙句階段から転んで全身大怪我しちゃったらどうするんですか!?」
「貴様の回復魔法があれば二日酔いなど即座に治るであろうが!」
「えっ…!そんな、私が必要だっていう口実に…!」
「違うわ!!毎回毎回、何をどうしたらそう自分の都合の良いように物事を解釈出来るのだ!?俺は貴様を利用してやろうと─!」
「あっ、でも二日酔いでグロッキーになってるまーちゃんを1日中看病するっていうのも…」
「貴様の回復魔法を頼りにしている!!だから1日中付きまとうのはやめろ!!」
「もうまーちゃんは私が居ないとお酒呑めないねっ」
「…」
「ふふ、まーちゃんが最近私の回復魔法を頼りにしてお酒を浴びるように呑んでるの知ってるんですからね!」
「…くっ」
バタン!と扉を開け放つ大きな音と共に騒がしく玉座の間へとやってきた魔王と聖女を見つけて勇者と魔法使いは同時に笑みをこぼす。
「俺達がここに馴染んでる1番の理由って、あの2人だよね」
「そうですね。魔族と戦う気なんてものは、あれを見てるとどっかに吹き飛んでしまいますものね」
朝食の最後の一口を飲み込んで、ごちそうさまでした!と大きな声で告げる。
さて洗濯物をまとめて、桶と洗濯板を準備しなければと勇者はまだコーヒーをゆっくり楽しんでいる魔法使いにまたあとで、と声を掛けてから席を立つ。
背中にぎゃあぎゃあと騒がしい魔王と聖女の声を受けて、思ったよりも大分居心地の良い魔王城での暮らしに、勇者は溢れる笑みを隠さずに大洗濯大会へ向けてやる気のサムズアップをした。
晴れ渡る晴天、こんな日はきっと洗濯物がよく乾くだろう。今日の予定を決めて、勇者はぐぐっと背を伸ばしてから着替える為にベッドから降りる。
念願の見晴らしの良い大きな窓のあるこの部屋に住み始めてから暫く経つが、今だに毎朝ニヤニヤとしてしまう。
「今日の朝ごはんはなんだろう」
空腹を訴え出したお腹に手を当てて、すっかり食堂と化した玉座の間へと足取り軽く向かった。
♦︎
重苦しい扉を開けて、勇者は既に朝食が配膳されている大きな食卓へと足を向ける。すると先に席についていた魔法使いが勇者に気づき朝の挨拶を告げる。
「おはよう、2人共今朝は早いんだね」
「ええ、天気が良いので魔導書の虫干しをしようかと思いまして」
「おう、はよ。つっても俺は今まで起きててこれから寝るんだけどな」
「また魔王と呑んでたの?」
声に促されるままに戦士へ顔を向けると、なるほど顔色が悪い。戦士の前には温かそうな湯気のたつ味噌汁だけが置かれていた。
「いや、ほんと酒の趣味はいいわ、魔王」
「仕方ないなぁ。何か洗濯物あるなら俺やっとくから出しといてよ」
「おう、悪いな…」
勇者を待って朝食を食べ始めた魔法使いと戦士の横で、勇者は手を組んで神へ祈りを捧げてから箸を手に持つ。
と、そこで勇者は今朝の食卓は随分と静かなことに気がついた。
「あれ。ていうかその魔王と聖女は?」
「へっ、30勝15敗3引き分け…今日も奴を沈めてやったぜ…」
「魔王でしたら飲み過ぎてゲロって寝室で聖女に手厚く看護受けてますよ」
「え~またあ?魔王もそんなにお酒強くないんだから程々にしとけばいいのに…。ていうか戦士、そろそろ聖女にボコボコにされるから良い加減魔王と飲み比べするのよしなよ」
味噌汁もそこそこに青い顔で自室へと戻る戦士の背を見て、将来こういう大人にはならないでおこうと勇者が密かに心の中で誓っていると、食卓のすぐ側をかつて自分達の牢番をしていた魔族の彼が通り掛かったことに気づき声を掛けた。
「あ!おはよう!」
「ん?ああ、勇者か。おはよう」
「ねぇねぇ、今日は天気が良いから大洗濯大会やろうと思ってるんだけど、みんなも洗濯物あったら桶と板持って中庭で一緒にやらない?」
「大洗濯大会…?それって何するんだ?」
「ふふん、その名の通り、みんなで一斉に洗濯するんだ!それで、1番がんばった人には何かご褒美…そうだな、今回は聖剣一回利用権なんてどう?」
「まじかっ!?いやー!どうしても切り倒せない魔木が城の裏手にあってよう!畑広げるのに苦労してたんだ!聖剣だったら呪われた魔木でも切り倒せるか!?」
「一刀両断出来ると思うよ」
「よしっ!それなら城中の奴等にその大洗濯大会やるっての言って回っとくよ!」
「ありがとう!じゃあ、あと1時間後に中庭集合で!」
「おー!」
嬉々として去って行く魔族に手を振り再び箸をおかずへと伸ばす。と、魔法使いがなんとも言えない苦笑を漏らす。
「ん?どうした?」
「いえ…随分魔王城に馴染んだな、と思いまして」
良い事なんだか悪い事なんだか、と言いながら魔法使いはコーヒーの入ったマグカップを持ち上げる。
「…勇者という肩書きを持つ人間としては、良い事じゃないっていうのは、まぁ。ていうかほとんどノリと自棄っぱちで言ってた通りに魔王城に住んじゃってるし」
「そうですね。我々が馴染んだのか、無理矢理我々色に染めちゃってるのか判断がつきませんが…」
言って魔法使いは玉座の間をぐるりと見渡す。
今朝食をとっている食卓を始め、ソファーやクッション、カラフルで可愛らしい人間の家具がすっかり我が物顔で居座っている。大多数は聖女の好みだが、所々に勇者や魔法使い、戦士の希望で揃えた物もある。
魔法使いの視線を追って、なんとなく言わんとしていることを察して勇者は苦笑をこぼす。
「まぁ、あれだよね。意外とこんなに馴染んじゃってる1番の理由は──」
「もうっ!!まーちゃん!!呑み過ぎは体に良くないんですよってあれほど!!」
「ええい!別にちょっとくらいいいであろうが!」
「でも、毎回まーちゃんゲロゲロになっちゃってるじゃないですか!怖いんですよ?酔っ払って前後不覚になった挙句階段から転んで全身大怪我しちゃったらどうするんですか!?」
「貴様の回復魔法があれば二日酔いなど即座に治るであろうが!」
「えっ…!そんな、私が必要だっていう口実に…!」
「違うわ!!毎回毎回、何をどうしたらそう自分の都合の良いように物事を解釈出来るのだ!?俺は貴様を利用してやろうと─!」
「あっ、でも二日酔いでグロッキーになってるまーちゃんを1日中看病するっていうのも…」
「貴様の回復魔法を頼りにしている!!だから1日中付きまとうのはやめろ!!」
「もうまーちゃんは私が居ないとお酒呑めないねっ」
「…」
「ふふ、まーちゃんが最近私の回復魔法を頼りにしてお酒を浴びるように呑んでるの知ってるんですからね!」
「…くっ」
バタン!と扉を開け放つ大きな音と共に騒がしく玉座の間へとやってきた魔王と聖女を見つけて勇者と魔法使いは同時に笑みをこぼす。
「俺達がここに馴染んでる1番の理由って、あの2人だよね」
「そうですね。魔族と戦う気なんてものは、あれを見てるとどっかに吹き飛んでしまいますものね」
朝食の最後の一口を飲み込んで、ごちそうさまでした!と大きな声で告げる。
さて洗濯物をまとめて、桶と洗濯板を準備しなければと勇者はまだコーヒーをゆっくり楽しんでいる魔法使いにまたあとで、と声を掛けてから席を立つ。
背中にぎゃあぎゃあと騒がしい魔王と聖女の声を受けて、思ったよりも大分居心地の良い魔王城での暮らしに、勇者は溢れる笑みを隠さずに大洗濯大会へ向けてやる気のサムズアップをした。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した
無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。
静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる