捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第17章 背中を預けるということ

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「まっ、またフェアリービーの巣ですかぁっ!?」
 助けてください! と預かり処の扉がダンダンと遠慮なく叩かれる。
 扉を開けて早々、目の前に突き出された容器に、ラーハルトはげえっ! と思わず冒頭の言葉を口に出してしまった。
「なっ、なんとか自分で、巣はこの容器に、押し込めたんですが、その、けっこう攻撃をくらって……ゔっ……」
「うわああああ!? うちよりも先に医者か薬師の所に行ってください!!」
 ブウウン! ブウウン! と羽音が響いている容器をラーハルトに押し付けたまま、その男性はふらりふらりと足元をよろつかせている。
 巣は預かるから、あなたは早く医者に……とラーハルトが対応していると、再び助けを求める叫び声がかかる。
「ああっ! 預かり処さんっ! 変な巣が家の裏に出来てるんです! 助けてください!!」
「えっ、ええっ!? 変な巣、ですか!?」
「なんか周りに、羽根のはえた小人みたいなのがブンブン飛び回って襲ってくるんです!」
「またフェアリービー!?」
 後からやって来た女性が、グイグイとラーハルトの服の裾を引っ張る。
 と、更に再びの助けを求める声。
「預かり処さああああん!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 今、ツバキ師匠が村のギルドの方に行っちゃってて、」
「すみませーん! 預かり処さんいますかー!?」
「うわっ! またっ!?」
 ツバキが不在の中、ラーハルトは1人次から次へとやってくる人々の対応に目を回す。
 そうして預かり処を訪ねてくる人の波が去ったのは数時間後のこと。
 人々が去った後の預かり処には、ブンブンと羽音の響く大小様々な容器が山となって置かれていった。

 ♦︎

「……ただーいまぁ~」
 朝から村の冒険者ギルドに呼ばれていたツバキが預かり処に帰ってきたのは、すっかり陽が落ちてからだった。
 ヨロヨロとした足取りで居間までやってきたツバキは、そのままソファへと顔から突っ込むようにして倒れ込む。
「つ、疲れた……水……」
「し、師匠! 大丈夫ですか!? 水です!」
「あ、ありがと……あと、なんか甘いもの……」
「甘いもの!? あ、ジェームズがエレーナに買ってきたマカロンの残りが!」
「と……」
「と!?」
「白米と肉とスープとサラダ……」
「夕飯ですね!? お腹空いたんですね師匠!?」
 すぐに準備しますー! と台所へ駆けていくラーハルトと入れ替わるように、サザンカがマカロンの皿を頭に乗せて居間に走ってきた。

「ふう……満腹満腹っ」
 ラーハルトが急いで用意してくれた夕飯をぺろりと平げ、にこにこ笑顔に戻ったツバキは食後の熱いお茶を飲んで一息つく。
「随分戻るのが遅かったですね。ギルドからの依頼はなんだったんですか?」
「それが、村の中にも外にも、フェアリービーの巣が大量に発生しているらしいの。それの駆除依頼をギルドから出すそうなんだけど、その前に対策とか注意事項とか、預かり処うちの意見を聞きたかったみたいなんだけど……」
 そこで1度区切ったツバキは「はああ」と盛大にため息を吐く。
「ギルドから話を聞いている最中にも、巣がある、フェアリービーが暴れてるって連絡があっちからこっちから、あっちこっちから!」
「はあ……」
「もう話が進まないったら! しかも結局、フェアリービーの巣をそのままいくつか預かる事になっちゃって」
「へ、へえ」
「ところで、預かり処こっちは特に問題なかった? ほぼ丸々1日空けちゃったけど」
「えーっと……」
「?」
 歯切れの悪いラーハルトに、ツバキは首を傾げる。
 すると、居間の端でくつろいでいたサザンカがのっそりと頭を上げ、欠伸をしながら口を挟む。
『見せたほうが早いんじゃねえの?』
「あ、うん……」
「え?」
 頭にハテナマークを浮かべるツバキに、ラーハルトは「すみません、ちょっとこっちに」と空き部屋へと来るように促す。
「ねえ、何が……ん?」
 ツバキはとりあえずラーハルトについて行くが、ふと微かに耳に届いた音に眉をひそめる。
「ねえ、ちょっと、この音って」
「……」
 ラーハルトはツバキの問いに答えぬまま、ある空き部屋の前で足を止める。
「……実は、師匠が留守の間に魔物を預かって欲しいという依頼というか、助けを求める人が沢山きまして」
「ま、まさか……!?」
 ラーハルトは空き部屋の扉を勢いよく開ける。
「うわあっ!?」
 ツバキの目に映ったのは、部屋の天井すれすれまで積み上げられた様々な容器、容器、容器。
「フェアリービーの巣が、巣が! めちゃめちゃ大量に置いていかれちゃったんですう~!!」
 どうしましょう!? というラーハルトの叫びが預かり処中に響き渡った。
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