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第17章 背中を預けるということ
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「このままじゃ大変なの! だから、ギルドで売ってる映像玉をすぐに販売中止に……っ!」
「そう申されましても、こちらではなんとも……」
「だぁかぁらぁ、そこをなんとかって!」
ルルビ村の冒険者ギルドの受付で、小さな騒ぎが起こっていた。
が、ギルドを訪れている冒険者達はそんなことは日常茶飯事とばかりに横目で見て去っていく。
小さな騒ぎの原因となっているツバキは、受付係の下りきった眉を見て、開きかけていた口を一度閉じ、そして「迷惑をかけたいわけじゃないの」と言い直した。
「でも、とにかくフェアリービーを連れた冒険者の映像玉を売るのをやめて欲しいの」
「預かり処さんの仰ることですから、何か理由があるとは思いますが……ギルドの承認を受けた正式な販売物に関する諸々の権利は、あくまでいちギルド支部であるうちにはないんです」
「でも販売を止めないともっと大変なことになるんです!」
「は、はあ?」
すると、平行線をたどるばかりの受付係との問答に、ツバキと共にギルドに来ていたラーハルトが横から口を出した。
「例えばですけど、ギルドの本部へ抗議文のようなものを出すことは可能ですか?」
「抗議文、ですか。まあ、それでしたら……」
受付係は棚から何枚かの書類を取り出すと、二人に向かって記入について説明する。
そして書類に不備がないことを確かめると、念の為の助言ですが、と置いてから話す。
「ギルドで承認を受けている販売物に関して、販売妨害と取られかねない言動は秩序を乱す行為としてご法度ですからね。そこだけは注意してください」
「……分かったわ」
「では、こちらの抗議文はギルド本部へ提出いたします。ギルド本部からの回答が届いたら、預かり処さんへ連絡しますね」
「ええ、よろしく」
結局それ以上は何も出来ず、ツバキとラーハルトはギルドを後にして預かり処へと戻っていった。
♦︎
『あっ! お前らやっっと帰ってきたな!!』
「へっ?」
ギルドから帰ってきた二人が預かり処の扉を開けた瞬間、留守番をしていたサザンカの叫び声がツバと共に降ってきた。
「ぶわっ! きたなっ!?」
サザンカのツバをもろに顔面に浴びて叫びながらごしごしと顔をこするラーハルトを避け、ツバキはサザンカに一体なんの騒ぎだと尋ねる。
『どうしたもこうしたもねえよ! 家の前やら庭やら、フェアリービーの入った容器がめちゃくちゃ放置されてんだよ!!』
「また!?」
サザンカの訴えを聞いたツバキは額を抑えてため息を吐く。そして、とりあえず既にフェアリービーの巣が入った容器を置いている部屋へ運んで、と言った言葉は最後まで紡がれることはなく──
『その容器が壊れて、庭で暴れてんだよ!!』
「……は、はああ!?」
サザンカの大声に遮られていたが、意識を耳へと集中すれば、聞こえてくるブゥン……ブゥン……という羽音に、ツバキとラーハルトは靴も脱がずに庭へと面している部屋へと駆け出した。
「そう申されましても、こちらではなんとも……」
「だぁかぁらぁ、そこをなんとかって!」
ルルビ村の冒険者ギルドの受付で、小さな騒ぎが起こっていた。
が、ギルドを訪れている冒険者達はそんなことは日常茶飯事とばかりに横目で見て去っていく。
小さな騒ぎの原因となっているツバキは、受付係の下りきった眉を見て、開きかけていた口を一度閉じ、そして「迷惑をかけたいわけじゃないの」と言い直した。
「でも、とにかくフェアリービーを連れた冒険者の映像玉を売るのをやめて欲しいの」
「預かり処さんの仰ることですから、何か理由があるとは思いますが……ギルドの承認を受けた正式な販売物に関する諸々の権利は、あくまでいちギルド支部であるうちにはないんです」
「でも販売を止めないともっと大変なことになるんです!」
「は、はあ?」
すると、平行線をたどるばかりの受付係との問答に、ツバキと共にギルドに来ていたラーハルトが横から口を出した。
「例えばですけど、ギルドの本部へ抗議文のようなものを出すことは可能ですか?」
「抗議文、ですか。まあ、それでしたら……」
受付係は棚から何枚かの書類を取り出すと、二人に向かって記入について説明する。
そして書類に不備がないことを確かめると、念の為の助言ですが、と置いてから話す。
「ギルドで承認を受けている販売物に関して、販売妨害と取られかねない言動は秩序を乱す行為としてご法度ですからね。そこだけは注意してください」
「……分かったわ」
「では、こちらの抗議文はギルド本部へ提出いたします。ギルド本部からの回答が届いたら、預かり処さんへ連絡しますね」
「ええ、よろしく」
結局それ以上は何も出来ず、ツバキとラーハルトはギルドを後にして預かり処へと戻っていった。
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『あっ! お前らやっっと帰ってきたな!!』
「へっ?」
ギルドから帰ってきた二人が預かり処の扉を開けた瞬間、留守番をしていたサザンカの叫び声がツバと共に降ってきた。
「ぶわっ! きたなっ!?」
サザンカのツバをもろに顔面に浴びて叫びながらごしごしと顔をこするラーハルトを避け、ツバキはサザンカに一体なんの騒ぎだと尋ねる。
『どうしたもこうしたもねえよ! 家の前やら庭やら、フェアリービーの入った容器がめちゃくちゃ放置されてんだよ!!』
「また!?」
サザンカの訴えを聞いたツバキは額を抑えてため息を吐く。そして、とりあえず既にフェアリービーの巣が入った容器を置いている部屋へ運んで、と言った言葉は最後まで紡がれることはなく──
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「……は、はああ!?」
サザンカの大声に遮られていたが、意識を耳へと集中すれば、聞こえてくるブゥン……ブゥン……という羽音に、ツバキとラーハルトは靴も脱がずに庭へと面している部屋へと駆け出した。
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