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第2章 出会い
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呻き声が聞こえなくなったなと思っていたらいつの間にか気絶していた男を、ほぼ紐と化していたボロボロのカーテンだったものでぐるぐる巻きにしてから改めて小さな男の子に向き合う。
「それで、えーっと…」
「……アル」
「アル!よし。レイチェル」
「……レイチェル」
「うん」
心なしか怯えている謎の男の子、もとい恐らくアルという名前の男の子を怖がらせないように間に距離をおいたままその場に膝をついて視線の高さを合わせる。
「それで、アル…君はここで何をしてたのかな?ここは一応、お姉さんのおうちなんだけど…」
「えっ!?こんなボロッボロで今にも壊れそうな小屋にお姉さんは住んでるの!?」
「うん…正しくは住んでたっていうか、これからまた住むことにしたっていうか…っていうか、小屋?」
大豪邸というわけでは逆さになっても言えないが、一般庶民の家としては特別大きくも小さくもない筈の実家を小屋と形容するとは、もしかしたらアル君は良い所のお坊ちゃんで、今現在ぐるぐる巻きにされているあの男は護衛か何かだろうか。
「あっ!あの、ごめんなさい…!」
「えっ?ああ、いいのいいの!まぁ、廃屋と言っても過言じゃない状態だし…」
そう、問題は家の大きさ云々よりもその中身だ。
これからここに住むつもりで微かな記憶を頼りに遥々縁の薄かった実家へと帰ってきたわけだが、まさかここまで家が荒れ果てているとは思っていなかった。
とっくの昔に家族だった人達は居なくなり、無人となっていることも知ってはいたが、ちょっとやそっと掃除しただけでは今夜ここで寝れるかどうかも怪しい。
「…あ、あの。お姉さん」
「……ん?」
考え事をしていたら、くいくいっと服の裾を引っ張られた。そして。
「ご、ごめんなさい…っ!ごめんなさい!お姉さんのおうちに勝手に入ってごめんなさい!ヨハンの分まで僕が謝るから、だから、許してください…っ、お願い、します…っ」
「え、ええっ!?」
まだ幼い子供が大きな瞳いっぱいに涙をためて謝罪をする姿に困惑する。確かにこちらが被害者という立場だ。けれどどうして、目の前のこの子供を責め立てられるだろう。
ワケありなのは、明らかだ。
「えっと、アル君?怒ってないよ。びっくりしたけど、君にも、あの男の人にも怒ってない」
「…え?な、なんで?」
「……ごめん。あの男の人にはちょっと腹立った」
「…うん、ごめんなさい。…僕のせいなの」
子供の純粋な瞳に見つめられて思わず白状する。
とりあえず安心させようと安易に言った心にもない言葉は、子供相手には通じなかったらしい。
本音を言ったら言ったで、困惑の色は消えたが同時に酷く落ち込んでしまったアル君の肩に手を伸ばそうかどうか考えている間に、後ろから小さく声をかけられた。
「………悪いのは、全部、俺だ」
「っ!!」
突然の第三者の声に驚きの跳ねた肩がそのままアル君に伸ばしかけていた手を引っ込ませる。
後ろを振り向けば、ぐるぐる巻きにして転がしておいた男がいつの間にか目を開けてこちらを凝視していた。
「ヨハン!!」
「…アル、様。申し訳ありません…大丈夫ですか…!?」
「うん!!」
アル君がいよいよ涙を溢しながら男のそばへと駆け寄ると転がったままの男へしがみつく。
「……女。いきなり襲いかかって…悪かった…」
「え?ああ…うん…」
「こんなことを…頼める立場ではないと、分かってはいるが…しかし、どうか今夜一晩だけでも、我々をここに置いてもらえないだろうか…?ゔぅ…っ!」
「ヨハン!?ヨハンっ!!」
「えええー…?」
言うだけ言って再び気を失った男と、それに驚いて泣き出したアル君を交互に見てはあ、とひとつ深く息を吐く。
いきなり襲いかかってきた相手とはいえ、このまま外へ放り出して何かあっても確かに寝覚めが悪いし、それになにより泣いている子供を放置することはもっと出来ない。
「…アル君。とりあえずこの男の人をベッド…がまだあればそこに運ぶから、ちょっとだけどいてくれる?」
「え!?」
私の言葉にこちらを向いたアル君の鼻から鼻水がみょーんと伸びる。
それがおかしくてぷっと小さく吹き出してから今度こそ躊躇わずにアル君の頭を撫でる。
「それから、携帯食で申し訳ないけどごはんにしよう。お風呂…は入れないけど、多分使える毛布があると思うから、今晩はそれであったかくして寝て」
「……いいの?今晩、僕達ここに居ても?」
「うん」
それから結局、私に殴られたせいではなくて、疲労と風邪により寝込んだ男の介抱で一晩といわず一週間があっという間に過ぎた。
「それで、えーっと…」
「……アル」
「アル!よし。レイチェル」
「……レイチェル」
「うん」
心なしか怯えている謎の男の子、もとい恐らくアルという名前の男の子を怖がらせないように間に距離をおいたままその場に膝をついて視線の高さを合わせる。
「それで、アル…君はここで何をしてたのかな?ここは一応、お姉さんのおうちなんだけど…」
「えっ!?こんなボロッボロで今にも壊れそうな小屋にお姉さんは住んでるの!?」
「うん…正しくは住んでたっていうか、これからまた住むことにしたっていうか…っていうか、小屋?」
大豪邸というわけでは逆さになっても言えないが、一般庶民の家としては特別大きくも小さくもない筈の実家を小屋と形容するとは、もしかしたらアル君は良い所のお坊ちゃんで、今現在ぐるぐる巻きにされているあの男は護衛か何かだろうか。
「あっ!あの、ごめんなさい…!」
「えっ?ああ、いいのいいの!まぁ、廃屋と言っても過言じゃない状態だし…」
そう、問題は家の大きさ云々よりもその中身だ。
これからここに住むつもりで微かな記憶を頼りに遥々縁の薄かった実家へと帰ってきたわけだが、まさかここまで家が荒れ果てているとは思っていなかった。
とっくの昔に家族だった人達は居なくなり、無人となっていることも知ってはいたが、ちょっとやそっと掃除しただけでは今夜ここで寝れるかどうかも怪しい。
「…あ、あの。お姉さん」
「……ん?」
考え事をしていたら、くいくいっと服の裾を引っ張られた。そして。
「ご、ごめんなさい…っ!ごめんなさい!お姉さんのおうちに勝手に入ってごめんなさい!ヨハンの分まで僕が謝るから、だから、許してください…っ、お願い、します…っ」
「え、ええっ!?」
まだ幼い子供が大きな瞳いっぱいに涙をためて謝罪をする姿に困惑する。確かにこちらが被害者という立場だ。けれどどうして、目の前のこの子供を責め立てられるだろう。
ワケありなのは、明らかだ。
「えっと、アル君?怒ってないよ。びっくりしたけど、君にも、あの男の人にも怒ってない」
「…え?な、なんで?」
「……ごめん。あの男の人にはちょっと腹立った」
「…うん、ごめんなさい。…僕のせいなの」
子供の純粋な瞳に見つめられて思わず白状する。
とりあえず安心させようと安易に言った心にもない言葉は、子供相手には通じなかったらしい。
本音を言ったら言ったで、困惑の色は消えたが同時に酷く落ち込んでしまったアル君の肩に手を伸ばそうかどうか考えている間に、後ろから小さく声をかけられた。
「………悪いのは、全部、俺だ」
「っ!!」
突然の第三者の声に驚きの跳ねた肩がそのままアル君に伸ばしかけていた手を引っ込ませる。
後ろを振り向けば、ぐるぐる巻きにして転がしておいた男がいつの間にか目を開けてこちらを凝視していた。
「ヨハン!!」
「…アル、様。申し訳ありません…大丈夫ですか…!?」
「うん!!」
アル君がいよいよ涙を溢しながら男のそばへと駆け寄ると転がったままの男へしがみつく。
「……女。いきなり襲いかかって…悪かった…」
「え?ああ…うん…」
「こんなことを…頼める立場ではないと、分かってはいるが…しかし、どうか今夜一晩だけでも、我々をここに置いてもらえないだろうか…?ゔぅ…っ!」
「ヨハン!?ヨハンっ!!」
「えええー…?」
言うだけ言って再び気を失った男と、それに驚いて泣き出したアル君を交互に見てはあ、とひとつ深く息を吐く。
いきなり襲いかかってきた相手とはいえ、このまま外へ放り出して何かあっても確かに寝覚めが悪いし、それになにより泣いている子供を放置することはもっと出来ない。
「…アル君。とりあえずこの男の人をベッド…がまだあればそこに運ぶから、ちょっとだけどいてくれる?」
「え!?」
私の言葉にこちらを向いたアル君の鼻から鼻水がみょーんと伸びる。
それがおかしくてぷっと小さく吹き出してから今度こそ躊躇わずにアル君の頭を撫でる。
「それから、携帯食で申し訳ないけどごはんにしよう。お風呂…は入れないけど、多分使える毛布があると思うから、今晩はそれであったかくして寝て」
「……いいの?今晩、僕達ここに居ても?」
「うん」
それから結局、私に殴られたせいではなくて、疲労と風邪により寝込んだ男の介抱で一晩といわず一週間があっという間に過ぎた。
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