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第4話
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シスターとの若干の気まずさを一方的に感じたまま、また何日か過ぎた。
眩しい西陽が容赦なく差し込む。あれ以来あまり寄り付かなくなった聖堂の入り口から何かが点々と落ちている事に気づいて俺はため息を1つ吐いてそちらに足を向ける。
近寄れば、本が数冊落ちていた。落ちていた一冊を拾い上げ、なんとはなしにめくってみるが、何か丸い記号があるなぁというだけで文字が読めない俺には内容を理解する事が出来ない。
「ああ!すみません!」
「っ!」
突然掛けられれた声にびくりと肩を揺らす。聖堂の中にはシスターが居たらしい。
「良かった、こちらにいらして下さって…!すみません、荷物を落としてしまいまして、拾って頂いてもいいでしょうか?」
ちらりと聖堂の中に目を遣る。膝をついているシスターと、何かが入っていたのだろう箱。その周辺には本や何かがぶちまけられていた。大方箱を持って運んでいる最中に転ぶなりなんなりしたのだろう。
確かに目が視えないシスターには何がどこに落ちているのか分かるまい。無言でもって了承を伝えると散乱している荷物を拾いに聖堂の中に足を踏み入れた。
相変わらず、聖堂の中央には冷たい石が鎮座している。
「ほら、気をつけろよ」
「すみません…。念の為に拾った物と数を言って頂けますか?」
「…蝋燭が5箱、たわしが3、本が9」
「本が9、ですか?まだ1冊どこかに落ちている筈なんですが…」
集めた荷物と数を告げていれば、本の冊数を告げたところでシスターが眉根を寄せる。もう1冊?と顔を箱から上げたところで気がついた。聖堂の入り口で拾い、脇に挟んだままだった1冊を。
「悪い、もう1冊ある。本は全部で10だ」
言いながらその1冊をシスターに直接手渡す。するとその本に触れたシスターがああ、と声を出す。俺が内容も分からずペラペラとめくった本だ。
「これは創世神話ですね」
「…分かるのか?そもそも、本があったところであんたは目が…」
言いかけて、口をつぐむ。
〝リザードマンのくせに勉強なんて〟
〝どうせ魔法は使えないくせに、学校に行きたいだなんて〟
かつて投げつけられた言葉が脳内に蘇って、眉間に皺を寄せる。
「ああ、これは点字で書かれた本ですよ」
「てんじ…?」
耳慣れない言葉に聞き返すと、シスターから目が視えない人々の為に丸い点の凹凸で示された指先で感じて読む書物だという説明を受ける。
成る程、確かに本の表紙にも何やら隆起した点々がある。
「ふふ、懐かしいですね。この本、ここに紛れていましたか」
シスターは本をぱらりとめくり、白いページに指先を這わせる。
「…小さい頃に読んだときは、神はなんて怖い存在なんだろうと思ったものです」
「竜じゃなくて、神が?」
「ええ、たった一声で1つの種族から翼と強さを永遠に奪ってしまえるなんて、なんて恐ろしい力を持っているのだと。そしてその容赦のなさに震え上がりました。まあ、この創世神話は悪さをせず助け合い真面目に生きなさいという子供に向けての教訓でもあるので、悪さをすると怒る人が居るのだと教え込むにはいい教材だと思います」
「…俺は嫌いだ、こんな教訓、反吐が出る。この話の中に出てくる竜を沢山殺した人間も、竜の翼と強さを奪いやがった神も、…勝手に暴れて勝手に地に落ちた竜も」
「あはは、みんな嫌いなんじゃないですか。私は怖いなとは思いますが、嫌いじゃないですよ。皆の為に竜を落とした神も、きっと家族を護る為に竜を殺した人間も、それから全てを手に入れようとした野心を持つ竜も」
笑い声をあげるシスターを見つめる。正直頭にハテナが浮かんだ。ちょっと何を言っているのか理解が出来ない。
俺が見つめている事に気づく事のないシスターは続ける。
「野心って時に充実した人生を送るのに必要だと思うんですよね。何も欲しい物がなかったら、なりたい理想がなかったら、人生ってきっととてもつまらないでしょう」
光が灯らない筈の瞳が、きらりと光って見えた。
「諦めしかない人生より、遥か頂上を目指す人生って楽しそうじゃないですか」
チカリと閃光に目が痛む。
光って見えたものはきっと、西陽の欠片だった。
眩しい西陽が容赦なく差し込む。あれ以来あまり寄り付かなくなった聖堂の入り口から何かが点々と落ちている事に気づいて俺はため息を1つ吐いてそちらに足を向ける。
近寄れば、本が数冊落ちていた。落ちていた一冊を拾い上げ、なんとはなしにめくってみるが、何か丸い記号があるなぁというだけで文字が読めない俺には内容を理解する事が出来ない。
「ああ!すみません!」
「っ!」
突然掛けられれた声にびくりと肩を揺らす。聖堂の中にはシスターが居たらしい。
「良かった、こちらにいらして下さって…!すみません、荷物を落としてしまいまして、拾って頂いてもいいでしょうか?」
ちらりと聖堂の中に目を遣る。膝をついているシスターと、何かが入っていたのだろう箱。その周辺には本や何かがぶちまけられていた。大方箱を持って運んでいる最中に転ぶなりなんなりしたのだろう。
確かに目が視えないシスターには何がどこに落ちているのか分かるまい。無言でもって了承を伝えると散乱している荷物を拾いに聖堂の中に足を踏み入れた。
相変わらず、聖堂の中央には冷たい石が鎮座している。
「ほら、気をつけろよ」
「すみません…。念の為に拾った物と数を言って頂けますか?」
「…蝋燭が5箱、たわしが3、本が9」
「本が9、ですか?まだ1冊どこかに落ちている筈なんですが…」
集めた荷物と数を告げていれば、本の冊数を告げたところでシスターが眉根を寄せる。もう1冊?と顔を箱から上げたところで気がついた。聖堂の入り口で拾い、脇に挟んだままだった1冊を。
「悪い、もう1冊ある。本は全部で10だ」
言いながらその1冊をシスターに直接手渡す。するとその本に触れたシスターがああ、と声を出す。俺が内容も分からずペラペラとめくった本だ。
「これは創世神話ですね」
「…分かるのか?そもそも、本があったところであんたは目が…」
言いかけて、口をつぐむ。
〝リザードマンのくせに勉強なんて〟
〝どうせ魔法は使えないくせに、学校に行きたいだなんて〟
かつて投げつけられた言葉が脳内に蘇って、眉間に皺を寄せる。
「ああ、これは点字で書かれた本ですよ」
「てんじ…?」
耳慣れない言葉に聞き返すと、シスターから目が視えない人々の為に丸い点の凹凸で示された指先で感じて読む書物だという説明を受ける。
成る程、確かに本の表紙にも何やら隆起した点々がある。
「ふふ、懐かしいですね。この本、ここに紛れていましたか」
シスターは本をぱらりとめくり、白いページに指先を這わせる。
「…小さい頃に読んだときは、神はなんて怖い存在なんだろうと思ったものです」
「竜じゃなくて、神が?」
「ええ、たった一声で1つの種族から翼と強さを永遠に奪ってしまえるなんて、なんて恐ろしい力を持っているのだと。そしてその容赦のなさに震え上がりました。まあ、この創世神話は悪さをせず助け合い真面目に生きなさいという子供に向けての教訓でもあるので、悪さをすると怒る人が居るのだと教え込むにはいい教材だと思います」
「…俺は嫌いだ、こんな教訓、反吐が出る。この話の中に出てくる竜を沢山殺した人間も、竜の翼と強さを奪いやがった神も、…勝手に暴れて勝手に地に落ちた竜も」
「あはは、みんな嫌いなんじゃないですか。私は怖いなとは思いますが、嫌いじゃないですよ。皆の為に竜を落とした神も、きっと家族を護る為に竜を殺した人間も、それから全てを手に入れようとした野心を持つ竜も」
笑い声をあげるシスターを見つめる。正直頭にハテナが浮かんだ。ちょっと何を言っているのか理解が出来ない。
俺が見つめている事に気づく事のないシスターは続ける。
「野心って時に充実した人生を送るのに必要だと思うんですよね。何も欲しい物がなかったら、なりたい理想がなかったら、人生ってきっととてもつまらないでしょう」
光が灯らない筈の瞳が、きらりと光って見えた。
「諦めしかない人生より、遥か頂上を目指す人生って楽しそうじゃないですか」
チカリと閃光に目が痛む。
光って見えたものはきっと、西陽の欠片だった。
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