1 / 1
倒置法探偵・置田倒次郎
しおりを挟む
「この中にいる、犯人は!」
叫び声を上げた、商店街のど真ん中で、ひとりの探偵が。襟を立てていた、彼は、トレンチコートの。名探偵と呼ばれていた、もちろん自称ではあったが、そのつけ髭の男は。
「名にかけて、じっちゃんの!」
決め台詞だった、それが置田倒次郎の、名探偵と自ら呼ぶ男の。
しかし漁師だった、彼の祖父は、探偵でもなんでもなく。ふぐの毒を喰らって死んだ、そのじっちゃんは、てめぇで釣ったふぐの、丸々と太ったふぐの。つまり実の祖父ではなかった、彼がその名にかけたのは、彼の言うじっちゃんは。それは名探偵だった、見知らぬどこかの、たぶんフィクションの、本か漫画か何かで読んだ。
とはいえどうでも良かった、そんなことは、この切羽詰まった状況においては。いたのだ、目の前に、犯人が、むろん彼の推理によればだが。握っていたのだ、バールのようなものを、その男は、間違いなく。そして起きていた、近辺に。近ごろは、連続で。抜き取る、金銭を。破壊して、ATMを――つまりそんな事件が。
しかしいた、ほかにもたくさんの人が、周囲には。だがひとりだけだった、持っているのは、バールのようなものを。しかし言った、バールのようなものを掲げて、その覆面をかぶった、いかにも犯人らしき男は。
「待ってくれ、これは正真正銘の『バール』なんだ! 『のようなもの』なんかじゃない!」
首をひねった、首が凝っていたからじゃない、たしかに首は凝っていたが、それを聴いた置田は。ざわつきはじめた、周囲にいたやじうまたちが、交互に指さして見ながら、覆面男と名探偵を。
「ほな違うかぁ」
思わずそう口にした、置田は。それはツッコミの口調だった、ミルクボーイ内海の。しかし角刈りではなかった、置田は。ここは逆にすべきだった、「違うかぁ」と「ほな」の順序を、彼の流儀では。しかし思ったのだ、気づいてもらえないだろうと、咄嗟に彼は。その元ネタに誰も、もし逆にしてしまったら、語順を。
つまり乱されていたということだ、それほどまでに、名探偵のペースが。なぜならば、聴いたことがなかったからだ、バールそのものであったケースを、犯行に使われた凶器が。
そしていた、包丁を持った女と、ゴルフクラブを持った男が。改めて良く見ると、バールのようなものを持っている男の両脇に。さらには血がついていた、そのどちらにも、ついていないのに、バールのようなものには。
しかし殺人事件でも、傷害事件でもなかった、置田が追っているのは。それに怪我人はひとりもなかった、これまでのATM強盗事件には。だから犯人から除外したのだ、無意識のうちに、彼らを、置田は。設置されていたから、狙われたATMは、どれも無人の場所に。
つまり正しかった、彼の推理は、ATM強盗に限って言えば。無視して、両脇の二人を、話しかけた、改めて、バールを持った男に、置田は。
「あるのか、証拠は? 『ようなもの』でないという、そのバールが。レシートか何か、たとえば」
すると差し出してきた、上着のポケットから、金物屋の領収書を、男が。書かれていた、そこには男の苗字と金額と、「バールのようなもの代」と。
「そんなはずはない! もう捨ててしまったが、商品のパッケージにはたしかに『バール』と書いてあったし、そもそも俺は『バールはあるか?』とその店員に訊いて、奴が持ってきたのがこの商品だったんだ!」
「だとしたら、その男だったというわけだな、本当の名探偵は。そう書いたんだ、見抜いて、彼は、連続強盗犯であることを、お前が。そしてなることを、ニュースに、犯人の凶器が、『バールのようなもの』であると!」
そうして解決した、この事件は、置田の推理によって、いやひとりの金物屋店員の推理によって。しかしもちろん起きていた、二件の殺傷事件が、直前に、その付近で、なにしろそこにはいたのだから、奴らが、血のついた凶器を持った。
だが担当ではなかった、それらの事件は、置田の。だから名にかける必要はなかった、それらの事件には、じっちゃんの、どこのじっちゃんだか知らないが。そうなればもう別のお話、それはまた、それはまた。
叫び声を上げた、商店街のど真ん中で、ひとりの探偵が。襟を立てていた、彼は、トレンチコートの。名探偵と呼ばれていた、もちろん自称ではあったが、そのつけ髭の男は。
「名にかけて、じっちゃんの!」
決め台詞だった、それが置田倒次郎の、名探偵と自ら呼ぶ男の。
しかし漁師だった、彼の祖父は、探偵でもなんでもなく。ふぐの毒を喰らって死んだ、そのじっちゃんは、てめぇで釣ったふぐの、丸々と太ったふぐの。つまり実の祖父ではなかった、彼がその名にかけたのは、彼の言うじっちゃんは。それは名探偵だった、見知らぬどこかの、たぶんフィクションの、本か漫画か何かで読んだ。
とはいえどうでも良かった、そんなことは、この切羽詰まった状況においては。いたのだ、目の前に、犯人が、むろん彼の推理によればだが。握っていたのだ、バールのようなものを、その男は、間違いなく。そして起きていた、近辺に。近ごろは、連続で。抜き取る、金銭を。破壊して、ATMを――つまりそんな事件が。
しかしいた、ほかにもたくさんの人が、周囲には。だがひとりだけだった、持っているのは、バールのようなものを。しかし言った、バールのようなものを掲げて、その覆面をかぶった、いかにも犯人らしき男は。
「待ってくれ、これは正真正銘の『バール』なんだ! 『のようなもの』なんかじゃない!」
首をひねった、首が凝っていたからじゃない、たしかに首は凝っていたが、それを聴いた置田は。ざわつきはじめた、周囲にいたやじうまたちが、交互に指さして見ながら、覆面男と名探偵を。
「ほな違うかぁ」
思わずそう口にした、置田は。それはツッコミの口調だった、ミルクボーイ内海の。しかし角刈りではなかった、置田は。ここは逆にすべきだった、「違うかぁ」と「ほな」の順序を、彼の流儀では。しかし思ったのだ、気づいてもらえないだろうと、咄嗟に彼は。その元ネタに誰も、もし逆にしてしまったら、語順を。
つまり乱されていたということだ、それほどまでに、名探偵のペースが。なぜならば、聴いたことがなかったからだ、バールそのものであったケースを、犯行に使われた凶器が。
そしていた、包丁を持った女と、ゴルフクラブを持った男が。改めて良く見ると、バールのようなものを持っている男の両脇に。さらには血がついていた、そのどちらにも、ついていないのに、バールのようなものには。
しかし殺人事件でも、傷害事件でもなかった、置田が追っているのは。それに怪我人はひとりもなかった、これまでのATM強盗事件には。だから犯人から除外したのだ、無意識のうちに、彼らを、置田は。設置されていたから、狙われたATMは、どれも無人の場所に。
つまり正しかった、彼の推理は、ATM強盗に限って言えば。無視して、両脇の二人を、話しかけた、改めて、バールを持った男に、置田は。
「あるのか、証拠は? 『ようなもの』でないという、そのバールが。レシートか何か、たとえば」
すると差し出してきた、上着のポケットから、金物屋の領収書を、男が。書かれていた、そこには男の苗字と金額と、「バールのようなもの代」と。
「そんなはずはない! もう捨ててしまったが、商品のパッケージにはたしかに『バール』と書いてあったし、そもそも俺は『バールはあるか?』とその店員に訊いて、奴が持ってきたのがこの商品だったんだ!」
「だとしたら、その男だったというわけだな、本当の名探偵は。そう書いたんだ、見抜いて、彼は、連続強盗犯であることを、お前が。そしてなることを、ニュースに、犯人の凶器が、『バールのようなもの』であると!」
そうして解決した、この事件は、置田の推理によって、いやひとりの金物屋店員の推理によって。しかしもちろん起きていた、二件の殺傷事件が、直前に、その付近で、なにしろそこにはいたのだから、奴らが、血のついた凶器を持った。
だが担当ではなかった、それらの事件は、置田の。だから名にかける必要はなかった、それらの事件には、じっちゃんの、どこのじっちゃんだか知らないが。そうなればもう別のお話、それはまた、それはまた。
3
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
25歳までに
朔名美優
ホラー
もうすぐ25歳になる白石沙也加。
ある日、25歳の誕生日を迎えたばかりの同期・村田悠斗が突然退職し、行方不明になる。
沙也加はこの町の「25」にまつわる秘密を知り、その運命に巻き込まれていく。
「25」テーマのホラー・ミステリーです。
後宮に棲むは、人か、あやかしか
由香
キャラ文芸
後宮で消える妃たち。
それは、あやかしの仕業か――人の罪か。
怪異の声を聞く下級女官・鈴華と、
怪異を否定する監察官・凌玄。
二人が辿り着いたのは、
“怪物”を必要とした人間たちの真実だった。
奪われた名、歪められた記録、
そして灯籠に宿るあやかしの沈黙。
――後宮に棲むのは、本当に人ならざるものなのか。
光と闇が交差する、哀切の後宮あやかし譚。
二丁目の駐車場
雨後乃筍
ホラー
【閲覧注意】その契約は、昭和から続いている。
板橋区二丁目、月極駐車場の第十三区画。 泥と埃にまみれ、数十年前から動くことのない一台の廃車。 近隣住民の間で囁かれる「車内に人影が見える」という噂。しかし不可解なことに、この車の契約は今も継続されており、なぜかドアノブだけが綺麗に磨かれているという。
興味本位で車内に潜入した配信者を襲った、想像を絶する結末とは? 古い契約書に貼られた「解約不可」の付箋と、昭和64年から隠蔽され続ける戦慄の真実。
日常の隙間に潜む狂気と、決して触れてはいけないタブー。 この話を読み終えた後、あなたは二度と、路地の奥に停まる車を覗き込めなくなる。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
『バールのようなもの』ネタ、いいですね! (^^♪
『バール』は見たことありますが、『バールのようなもの』ってどんなものでしょうね?
期待してます。置田探偵の!! ('ω')ノ
感想ありがとうございます!
「バールのようなもの」っていうと非売品というか、なんか手作りで名前がついてない感ありますよね。鉄パイプを勝手に曲げたものであるとか。
夏休みの自由工作で作れば良かったかも……。