孤空のカケラ――エルセナ王国物語――

珠月

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第2章 暗闇の中の光

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 まるで競い合うかのように色鮮やかに花々が咲き乱れている庭園の中、円卓が設置され、そこに色とりどりのドレスをまとった少女たちが座っている。白い布がかけられたテーブルの上には、軽食やティーセットが所せましと並んでいる。その様子は華やかで、まるで絵本の一場面のよう。

 ミリアーナはこの国で最も高貴な女性にあたるため、彼女がこのお茶会の場にやってきた時には参加者はみなそろって談笑していた。
 ミリアーナが庭園の中に入ってきたことに気が付くと、少女たちは――ミリアーナよりも明らかに年上の女性も多いが――おしゃべりをするのをやめ、一斉にこちらを向いた。そしてなぜかぽーっとした憧れのような表情を浮かべる。

 ん? 何だろう? 普段、向けられている表情とは違いすぎて、少々戸惑う。

「遅くなってごめんなさいね」

 そんな内心を顔に出さないよう気を付けながら、ミリアーナは声をかけ、準備された席へ静かについた。

「お初にお目にかかります」

「お会いできて光栄ですわ」

 参加者たちは小鳥がさえずるかのように話しかける。

「こちらこそ、あなた方にお会いできて光栄です」

 ミリアーナはそっとやわらかい笑みを浮かべた。



 一通りの自己紹介が終わると趣味の話や、噂話などになった。
 場が何となく温まったと感じたころ、傍で控えていたエレノアがすぐ近くまでやってきた。

「申し訳ございません。席を外すことをお許しいただきたいのですが……」

 職務を全うできないことを申し訳なさそうになさそうに告げてきた。確かエレノアはこの後、ジークフリートやオルガータと打ち合わせがあったはず……。

「もう、そんな時間なのね。大丈夫よ」

「終わるころには戻ってまいりますので……」

 エレノアはペコリと頭を下げると、城内へと向かっていた。
 責任感が強すぎるのも考え物だね……。少々離れてはいるが護衛の騎士たちも控えている。曲者が表れても対処できるだろう。それにもしそんな事態になったらエレノアでは役に立たない。私用ではなく次期国王との約束なのだから、もっと堂々と行けばいいのに……。
 そんなことをつらつらと考えながらエレノアの去って行った方を眺めていた。

「なぜあなたがジークフリート様の婚約者なのかしら」

 ひやりと肝が冷えるような音が聞こえ、慌てて振り向いた。
 女性たちは可憐な笑みを浮かべている。先ほどの言葉は聞き間違いだろう。

「ほんと。なんで罪人の娘がそんな高待遇なのかしら」

「流れる血にしか価値がないんだから、ジークフリート様はもったいなさすぎるわ」

「子供を産みさえすればいいのだから、地下牢に罪人たちと一緒に突っ込まれればいいのよ。彼らに犯されればいいんだわ」

 名案とばかりに手を合わせながら言う。

「あら、リーシアはしたないわよ」

 年長者がたしなめるがそれは内容ではなく、言葉遣いの方。くすくすと笑いながら発するにしては毒がありすぎて、先ほどまでの友好的な態度からの変わりように呆然とする。
 その様子に一人の女性が気付いた。

「何かございまして?」

 笑みを浮かべるその様子は艶やかで、しかし多分に毒が含まれている。
 彼女をじっと見つめた。紫色のドレスをまとった彼女ははっとするくらい美人で、だからこそ毒々しさが際立っている。

 わずかな時間が流れた後、女性はすっと目をそらした。そして何事もなかったように――ミリアーナなどその場に存在しないかのように――他の少女たちと談笑を始めた。



「あら、エレノア様お疲れ様です」

 かん高い少女の声で飛ばしていた意識を戻した。振り返るとすぐそばまでエレノアが来ていた。

「お待たせしてしまい、申し訳ございません」

「ご苦労さま。そろそろこのお茶会もお開きにしましょうか」

 エレノアがやってきたのでちょうどいいと合図をかけた。

「もうそんな時間ですの? また開くのでぜひいらっしゃってくださいね」

 あまりにも白々しい。返事をするのも億劫で曖昧な笑みを返した。
 そして、静かに立ち上がると色とりどりのその場を後にした。


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