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第15話「驚駭」
しおりを挟むあたしは闇の中をぼんやりとした姿のまま、どこかへ吸い込まれるように"落ち続けていた"。
──あたし、ずっとこのまま?
いつ終わるかもわからない、落下している感覚。でも不思議と怖くはなかった。このまま落ちてけば、多分全てが終わる。痛みも悲しみも、全てどうでもよくなっていた。
「……」
何かが聞こえた気がして、あたしは振り返った。もう振り返るような頭も耳もないというのに。
「……ッ!」
誰かがあたしを呼んでる?
「理奈!!」
聞き覚えがあるような、ないような? そう思った瞬間、落ちていく感覚がなくなった。
──あたしの身体が……ある
気がつくと、あたしの身体が元に戻っている。お腹に覚えのある傷があって、右膝の中身が明らかに左膝と違う──
「理奈! ダメ! 戻って!!」
悲鳴にも似たその声があたしの耳を貫いた瞬間、左手首が何かに掴まれた。
あたしの周りは相変わらずの暗闇で、誰が自分の手首を掴んだかは全然わからない。
でも、確信があった。
「きゃっ!?」
ひたりとした冷たいものが、あたしの右足首を掴んだ。
──誰……? いや、これは……
直感でわかった。あたしの足を掴んだのは、あたし自身だ。冷たい感覚が、あたしの頭へ直接語りかけてくる。
手を振り払え、そうすれば"あたし"は楽になれる。誰に気を使う事もなく、誰を失う事に悲しみ、苦しむ事もなくなる。
シェリーの手が僅かに緩み、あたしは闇の底へ引きずり込まれそうになった。その瞬間。
「理奈!」
シェリーがあたしを呼んだ。
「理奈! ダメよ!!」
何がダメなの? あたしはもう疲れているの。だから、もう──
「理奈! 私の理奈!! 戻ってきて!!」
シェリーの声が悲鳴に変わっていく。足首の冷たい感触が右膝の下まで広がってきた瞬間。
「好きなの、理奈! あなたが、欲しい!!」
あたしの中で何かが爆発した気がした。
「……シェリー!!」
あたしはシェリーの手首を強く掴んだ。シェリーの暖かな手も、あたしの手首をしっかり掴み返してくる。
──お前は後悔するぞ……これからも失い、死ぬことを恐れ、苦しむのだ……それでもいいのか
「構わない……!! あたしは……シェリーと共に生きる!!」
振り絞って叫んだ声が虚空に響いた刹那、足首の冷たな感触がすっと消えた。あたしの身体が、理奈の手に引っ張られてぐんぐんと上っていく。
「あれは……」
引っ張られていく方向に小さな光が見えた。それはどんどん大きくなり、やがてあたしの身体全体を包み込む。
例えようのない、大きな音があたしの耳をつんざき──あたしは目を開いた。
「意識レベル、通常に戻りました! 自発呼吸も復活!」
「心拍数、血圧も正常値に戻ってきています!」
「よし! 引き続き生命維持を最優先に!!」
あたしの周りで夏美先生と、看護師さん達の慌ただしい声が聞こえている。
──シェリーは、何処?
声が出ない。でも、夏美先生が気づいてあたしに近づいてきた。
「よかった、理奈ちゃん……本当に危ないところだったんだ」
頭を動かせないので、あたしは目でなんとか周りを確かめようとした。
「理奈ちゃん、シェリーちゃんは居るよ。もう少ししたら、特別に面会させてあげるからね」
──それならいいや
あたしは目を閉じ、息を大きく吐いた。身体の緊張がぬけ、ベッドに沈み込んでいく。
あたしの意識が、静かな眠りに引き込まれていく。だけど怖くはない。すぐ近くにシェリーがいるのはわかった
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