シェリーの微熱 〜人工知能は百合の夢を見るか?〜

TWIN

文字の大きさ
9 / 16

第9話「懺悔」

しおりを挟む
──理奈、なんであんな事を言った?

 もう何回目の自問自答になるだろうか?

 先週末、シェリーに八つ当たり同然の"告白"をしてしまったあたしは、あれから悶々とした日々を過ごしている。

「理奈、部長から名指しでメール届いてるわよ」
「ん…….ありがと」

 週明けから仕事を再開したあたしは、以前と同じように仕事を片付けてるつもりだ。でも、シェリーと話すたび、あたしの胸がモヤモヤする。

「14時から会議だけど……今回も音声のみ?」
「うん……」
「わかった。先方には私から伝えておくわね」

 シェリーがいつもの微笑んだ表情で答えてくる。正直に言うと、彼女の顔を正面から見るのがきつい。あの真摯な目で見られると──

"好きな人を抱きしめたい"

 シェリーに言ってしまった言葉が、自分の耳から離れない。あの言葉は心の底から出てきたんだ……嘘じゃない。

 じゃあ、シェリーと目を合わせられないのはなんで?

「理奈、聞こえてる」
「あ?ああ、ごめん!伝えてもらえると助かる」
「理奈……」

 ダメ。そんな目で見つめないで。

「気分悪いの? 無理そうなら午後半休にする?」
「大丈夫。ちょっとお手洗いに行ってくる」
「わかった。本当に無理しないでね」

あたしは向こう暫く在宅勤務になってることに感謝した。だって、今のあたしの顔……他人に絶対見せられない。

 トイレに逃げ込んだあたしはドアをしめ、便座に座り込んだ。身体の芯が火照って、水とかを飲むぐらいじゃ鎮まらない。

「シェリー……」

 あたしは静かに目を閉じる。
 画面から出てきた彼女の姿を思い浮かべる。
 何も着てないシェリーが笑顔であたしの両腕の間に入ってきた。

"理奈……いいのよ?"

 たまらなくなってシェリーを抱き締めた。
 彼女の柔らかな肌があたしの胸にギュっと押し付けられて──

 手がスウェットの中に、誰かに誘われるように滑り込んだ。トイレの水を流し、声も強引に押し殺す。 

 シェリーを想いながら、あたしは昂った身体を何度も慰めた。

 呼吸が荒くなってきた。自分でもわかる。
 目を閉じ、口をパクパクさせて、声が漏れそうになったらグッと我慢。

 気持ちいいはずなのに、ちっとも気持ちよくない。
 ただただ、心を落ち着かせるためにしているだけ。

──バカじゃないの、あなた

 もう一人のあたしが、息を荒げながらしているあたしを見つめてる。まるで小馬鹿にする感じで語りかけてくる。

──うるさい。好きな人を想ってすることの何が悪い?

 息が止まり、身体が一際大きく仰け反って、あたしは果てた。
 息を大きく吐き出して、今の自分の姿を想像する。

 惨めだ。そう感じた途端、小刻みな震えが収まった。

 これでもう何度目? 考えないようにしてる筈なのに、自分でする度に思い返してる。

──やっぱり、あたしはバカだわ

 自己嫌悪しながら手と顔を洗う。何事もなかったかのように私は仕事机に戻り、席に座った。

「心配かけてごめん」
「謝る必要なんてないわよ、理奈……あなたは今できる事を精一杯やってるから」

 シェリーには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。たった今、あたしは……またあなたを汚してしまったんだよ? 謝らないといけないのはあたしの方だ。

「理奈をご指名で来てるメールも、私が対応出来そうな内容のは全部私の方で回答してるから……本当に無理しないでね」
「ありがとう……」

 ちょっとじわっと来た。そんな言い方されたら泣くじゃない……。

 あたしはシェリーから顔を背けて、目頭の涙を拭った。
カッコ悪すぎて余計に泣いてるかも。

「あと5分で昼休み。昼食の宅配が昼休みと同時に到着しそうだけど、受け取れる?」
「大丈夫。なんかお腹減ってきたし」
「それならよかった」

 ごめん、シェリー。本当はお腹そんなに減ってない。でも、あなたに心配かけたくないから、頑張って食べる。だから、そんな目で見ないでね、お願いだから……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

名もなき春に解ける雪

天継 理恵
恋愛
春。 新しい制服、新しいクラス、新しい友達。 どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。 そんな羽澄が、図書室で出会ったのは—— 輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。 その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。 名前を呼ばれたこと。 目を見て、話を聞いてもらえたこと。 偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと—— 小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。 この気持ちは憧れなのか、恋なのか? 迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく—— 春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...