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第12話「本心」
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結局昨日は診察室で説明を受けたあとに色々と検査を受け、今日も夕方までみっちり精密検査だった。
シェリーと一緒に紫陽花を見にいくどころか、病院の外へ出る時間さえもない。
「疲れた……」
あたしはタブレットをベッド脇のテーブルに立てて、大きく身体を伸ばした。
「お疲れ様、理奈」
シェリーが優しい声で話しかけてくる。声色とか普段と全然変わらない筈なのに、今日は心に刺さる。
「なんか凄い勢いで進んでて、ついていけない……」
あたしの右膝の手術は明日に決まった。なんか色んな都合があるらしいけど、正直なところあたしには全然わからない。
「そうね。私も詳しくは知らないんだけど……でもよかった。あなたがまた歩けるようになるから」
「そうだね……」
あたしはベッドに腰を下ろし、右膝を手で触った。手触りで中に骨とは違うものが入ってるのはわかるけど、実際に見たことは一度だってない。
「実感湧かない」
「仕方ないわ。話が来てから手術がきまるまで急だったし」
それもそうだ。そうなんだけど、もっと根本的な──自分が"生きている"ということが、何故か疑問に感じてる。
「……ねぇシェリー」
あたしはシェリーの顔をじっと見つめた。初めて逢ってからもう何年も経っているのに、今日は何か違って見える。
「シェリーってさ、死ぬのが……怖くない?」
「どうしたの急に」
あたしはシェリーの顔を真っ直ぐ見つめた。すごく久しぶりのような気がする。
「昨日さ、先生から手術とかの説明受けた時、最後に同意書へサインさせられたよね」
「そうね……あれは治療を受けることだけでなく、麻酔や手術が原因で何らかの後遺症や死亡のリスクがあることに対しての同意を得るもの」
交通事故で死にかけてた時、問答無用で手術と治療を受けた。同意書にサインしたのは麻酔が覚めてだいぶ経った時だけど、死ぬとか考えもしなかった。
「あたしさ、明日の手術受けたら死ぬかもしれないじゃん」
「そんなことはない……って言い切れないのは確かだけど、今それを深く考えるのはよくないわ」
あたしの事心配してかくれてるんだ。やっぱり嬉しいし、なんかじわっと来た。
「うん、それはそうなんだけどさ…… 」
「……怖いの?」
心配な表情でシェリーがぼつりと呟くように聞いてきた。
「うん、怖い。だって、あたしが死んじゃったら……もうシェリーと会えなくなる」
「理奈……」
あたしは膝の上に置いていた手を握りしめた。
「交通事故に巻き込まれて、一回死にかけて……歩くことも出来なくなって、子供も産めないような身体になってさ」
シェリーは黙ったままだ。
「正直もうどうだっていいと思った。医者の言う通りにして、毎日が惰性で過ぎていって……そんなある日、シェリーに出会ったの」
「私、その日のこと忘れてないわ。あの時のあなたは、今とは別人のような表情だった」
リハビリ支援用の高機能汎用人工知能「ナシェリア」。患者の精神的な負担を減らすためにアバターも備えてるって紹介されたんだっけか。
「シェリー、あの時あたしに言ってくれたよね……『私はあなたを絶対に見捨てない、いつでもあなたのそばにいる』って」
「言ったわ。それは今でも変わってない」
リハビリが嫌になって自暴自棄になって、思い出すだけでもゾッとするような暴言をシェリーに向かって何度も吐いた。
タブレットを床に投げつけたり、水をかけたこともある。
「あの頃、シェリーにめちゃくちゃ八つ当たりをしてた。本当にごめんなさい」
「気にしないで。私はそういう人を救うために作られたから……ちょっとやそっとじゃ壊れないしね、このタブレット」
あたしはタブレットを手に取り、膝の上に乗せた。
「でも、シェリーの本体が入ってるクラウド……だっけ? そこが壊れたらシェリー、死んじゃうよね」
「よく調べてるわね……概ね合ってるわ」
この前、テレビで見た人工知能の消失事件。一体何が起こっていたのか、あたしなりに調べた。
「でもタブレットは端末だから、壊れても何とかなる。クラウドがやられても、バックアップから復旧すれば"死ぬ"ことは──」
違う。あたしは首を振った。
「違うの、シェリー。それは違う……バックアップから戻ってきても、それはもう"あたしとずっと一緒にいたシェリー"じゃない」
「理奈……?」
あたしは涙が溢れてくるのを感じた。でも止めるつもりはない。
「そんなのは嫌だ。もうあたしにはシェリー以外、家族がいないんだ……ずっと一緒にいてくれて、一緒に笑って、泣いて……」
「理奈、あなたは……」
もう我慢できない。
「あたしにはもうシェリーしかいないの!! シェリー、あたしは……あたしはシェリーが大好き!! シェリーのこと愛してる!!」
言った。ようやく伝える事ができた。我慢していた嗚咽がとめどなく漏れて、もう自分が自分ではなくなった。
でも、それでいいと思った。
シェリーと一緒に紫陽花を見にいくどころか、病院の外へ出る時間さえもない。
「疲れた……」
あたしはタブレットをベッド脇のテーブルに立てて、大きく身体を伸ばした。
「お疲れ様、理奈」
シェリーが優しい声で話しかけてくる。声色とか普段と全然変わらない筈なのに、今日は心に刺さる。
「なんか凄い勢いで進んでて、ついていけない……」
あたしの右膝の手術は明日に決まった。なんか色んな都合があるらしいけど、正直なところあたしには全然わからない。
「そうね。私も詳しくは知らないんだけど……でもよかった。あなたがまた歩けるようになるから」
「そうだね……」
あたしはベッドに腰を下ろし、右膝を手で触った。手触りで中に骨とは違うものが入ってるのはわかるけど、実際に見たことは一度だってない。
「実感湧かない」
「仕方ないわ。話が来てから手術がきまるまで急だったし」
それもそうだ。そうなんだけど、もっと根本的な──自分が"生きている"ということが、何故か疑問に感じてる。
「……ねぇシェリー」
あたしはシェリーの顔をじっと見つめた。初めて逢ってからもう何年も経っているのに、今日は何か違って見える。
「シェリーってさ、死ぬのが……怖くない?」
「どうしたの急に」
あたしはシェリーの顔を真っ直ぐ見つめた。すごく久しぶりのような気がする。
「昨日さ、先生から手術とかの説明受けた時、最後に同意書へサインさせられたよね」
「そうね……あれは治療を受けることだけでなく、麻酔や手術が原因で何らかの後遺症や死亡のリスクがあることに対しての同意を得るもの」
交通事故で死にかけてた時、問答無用で手術と治療を受けた。同意書にサインしたのは麻酔が覚めてだいぶ経った時だけど、死ぬとか考えもしなかった。
「あたしさ、明日の手術受けたら死ぬかもしれないじゃん」
「そんなことはない……って言い切れないのは確かだけど、今それを深く考えるのはよくないわ」
あたしの事心配してかくれてるんだ。やっぱり嬉しいし、なんかじわっと来た。
「うん、それはそうなんだけどさ…… 」
「……怖いの?」
心配な表情でシェリーがぼつりと呟くように聞いてきた。
「うん、怖い。だって、あたしが死んじゃったら……もうシェリーと会えなくなる」
「理奈……」
あたしは膝の上に置いていた手を握りしめた。
「交通事故に巻き込まれて、一回死にかけて……歩くことも出来なくなって、子供も産めないような身体になってさ」
シェリーは黙ったままだ。
「正直もうどうだっていいと思った。医者の言う通りにして、毎日が惰性で過ぎていって……そんなある日、シェリーに出会ったの」
「私、その日のこと忘れてないわ。あの時のあなたは、今とは別人のような表情だった」
リハビリ支援用の高機能汎用人工知能「ナシェリア」。患者の精神的な負担を減らすためにアバターも備えてるって紹介されたんだっけか。
「シェリー、あの時あたしに言ってくれたよね……『私はあなたを絶対に見捨てない、いつでもあなたのそばにいる』って」
「言ったわ。それは今でも変わってない」
リハビリが嫌になって自暴自棄になって、思い出すだけでもゾッとするような暴言をシェリーに向かって何度も吐いた。
タブレットを床に投げつけたり、水をかけたこともある。
「あの頃、シェリーにめちゃくちゃ八つ当たりをしてた。本当にごめんなさい」
「気にしないで。私はそういう人を救うために作られたから……ちょっとやそっとじゃ壊れないしね、このタブレット」
あたしはタブレットを手に取り、膝の上に乗せた。
「でも、シェリーの本体が入ってるクラウド……だっけ? そこが壊れたらシェリー、死んじゃうよね」
「よく調べてるわね……概ね合ってるわ」
この前、テレビで見た人工知能の消失事件。一体何が起こっていたのか、あたしなりに調べた。
「でもタブレットは端末だから、壊れても何とかなる。クラウドがやられても、バックアップから復旧すれば"死ぬ"ことは──」
違う。あたしは首を振った。
「違うの、シェリー。それは違う……バックアップから戻ってきても、それはもう"あたしとずっと一緒にいたシェリー"じゃない」
「理奈……?」
あたしは涙が溢れてくるのを感じた。でも止めるつもりはない。
「そんなのは嫌だ。もうあたしにはシェリー以外、家族がいないんだ……ずっと一緒にいてくれて、一緒に笑って、泣いて……」
「理奈、あなたは……」
もう我慢できない。
「あたしにはもうシェリーしかいないの!! シェリー、あたしは……あたしはシェリーが大好き!! シェリーのこと愛してる!!」
言った。ようやく伝える事ができた。我慢していた嗚咽がとめどなく漏れて、もう自分が自分ではなくなった。
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