二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

魔術協会制圧

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 カフェから出た僕らは、協会目指して走りながら再度作戦を話し合う。

「当初の予定通り、裏口をロックしたら正面に回ってもらう方法で良いですか?それともマスター室で落ち合います?」

「襲撃から少々時間が経ってしまっている。罠を仕掛けるには十分な時間もあったことだし、下手な小細工よりもこちらの戦闘力で一気に制圧した方が良いな。」

 カフェは完全他人事です……

「了解しました。
 目的はマスターの捕獲?
 職員も含めた制圧?」

「……殲滅」

「職員もいるんですよ!
 しかも事情も聞かなければなりませんから、協会全体を無力化して制圧しますからね」

「尊い犠牲も覚悟している。」

「いや、手加減できるでしょ!
 殺しは無し!分かりましたね?」

 そんなやりとりをしていると協会前だが、やけに静かだ、扉が閉まり人が出入りをしている様子が無い。

 一声かけて単独で扉に近づく。師匠は後方で待機だ。

 近づくと出入口には「close」の看板。
 こんな昼間から閉めてるのは、あまりにもおかしい。

……待ち伏せされてる?

 魔術協会の建物には、古代魔法文明の魔力阻害魔法が施してあり、中をうかがい知る事が出来ない。

「師匠、待ち伏せの可能性があります。」

「気配は感じるな。数は二十前後固まっている様だ。入口から五メートル。」

 こういう時は、本当に頼りになる。
 古代魔法文明時代の高名な魔法使いが施した魔法刻印は魔力を完全シャットアウトする。
 言うなれば魔術協会の保安システムだ。
 全ての魔術協会に備え付けられており、魔法による外部からの如何なる干渉も受け付けない。
 それを完璧で無いとはいえ、突破するのだから、師匠の偉大さと自分との差をまざまざと見せつけられる。

「まだまだ、修行が足りないな」

 僕が呟くと師匠から指示が飛ぶ。

「ここはやはり正面突破と行こうか。カウントは私がやる!」

「はい、いつでもどうぞ!」

 改めて杖を握りしめ、師匠の合図を待つ。
 二人同時に建物に突入する場合、師匠の位置どりで、その後の動きが決まる。
 カウントが始まり僕の左斜め後方に陣取る。

「……ゼロ!」

 この位置どりの場合、僕が先頭で二人が展開出来るまで切り開く。
 その後展開出来る広さが確保出来たら、師匠が左なら僕は右に距離を取る。

 今回の場合、扉を力技で蹴破り突入したらすぐ開けたロビーだ。
 建物内に一歩を踏み出したら二歩目で右に移動、師匠が左に移動するスペースを作る。
 その後互いの位置と敵の布陣を確認しながらら魔法の斜線が敵中央で交わる様、左右に展開する。

 鮮やかに展開した僕らの射線上には

 マスターを筆頭に職員が全員

 ……土下座をしていた。


「申し訳ございませーん!」



「つまり、古代魔法文明の遺跡を偶然見つけて、潜ってみたら守護者も魔物もいなくて、あっさり魔法陣が描かれたスクロールと換金性の高いアイテムを手に入れたってことなの?」

 詳しく聞いてみると、棚ぼたで価値ある物を手に入れたのがバレて、本部から回収に来たと思ったらしい。
 なんとか誤魔化そうと思ったが、やって来た特級魔術士がなんたるかの説明を受け、観念したらしい。

 抵抗しても無駄、それどころか協会ごと制圧される……

 あれ?襲撃して来たヤツらは???

 えっ、知らない?

 師匠はすでに明後日の方向を向いて出された紅茶を飲んでいる。
 我関せず、ブレない
 流石だ!

 コホン!咳払いして姿勢を正す。
「とりあえず、そのスクロールを出して貰いましょうか」

 恐る恐る取り出したスクロールを受け取る。

「本物を出せ!」

 中身も見ずに師匠から鋭い声が飛ぶ。

「くっ!流石は特級魔術士というところか」

 この後に及んで誤魔化そうとするとは……
 しかもなんか偉そうだし。

「タナティスさん。マスターの役職にありながらまだ、良く理解してないようですから、少し説明しましょうか。
 特級魔術士は各地の協会に所属する魔術士とも、本部管轄の上級以上の魔術士とも違う、独立した役職です。
 僕らの上司は唯一協会会長職にあるものだけであり、逮捕権はもとより、独断での執行権や各支部長以下の人事権も有します。
今この時より、エテルナ魔術協会を私の指揮下とする事も可能です。」

 一息いれ、カップをソーサに戻す。

「つまり私達は、この場で貴方を処刑できる。」

 線が細く、神経質な印象も受けるマスターは、ようやく理解したようだ。

「ほ、本当に申し訳ありませんでした。しょ、職員には何の罪もありません……
 スクロールの件を黙っておく代わりに金銭を渡すと提案したのも私です。
 処罰はいかようにも……」

「これは、単なる虫除けだ」

 いつも師匠は唐突だ。

「どういう事でしょうか?」

 消えそうな声でマスターが問いかける。

 「そのままの意味だ。古代魔法文明の遺跡から出てきた事と欲に目が眩んでスクロールの価値を見誤ったな。これは少し複雑な術式を施しているが、単なる虫除けだ。畑一面を害虫から守るぐらい強力ではあるが。一度作動させると数ヶ月で使い物にならん。まぁ良い所で金貨二枚だな」

 新人職員の月収ぐらいか。
 労せず手に入れたものだからこんなものか。

「こっちの宝石もルビーに見えるが魔石を加工した模造品で、王都でも普通に売っているクラスだな。質は良いが、金貨一枚ちょっとか」

指で弾いた二枚の金貨がマスターの前に落ちる。

「私がそれで宝石は買い取ってやるから、迷惑をかけた職員に分けてやれ。」

「しかし、それでは」
 いきなりの事にマスターが慌てる

「そもそも口止め料を渡すと言っていたのだから、それでみっともない身内の恥はだまらせろ。これでこの件は終わりだ。誰かに本部までスクロールの発見だけ、現物を持って報告に行かせれば、通常の手続きだしな」

「はい!それは私がやります!」
 
 受付にいた獣人のあの子だ!

「あ、ありがとうございます!本当に、本当に申し訳ありませんでした。」

 涙ながらに何度も謝罪する。

 職員もわざわざ自分の落ち度を口外しない。
 何より臨時ボーナスという名の口止め料が払われるのだから、すぐさま通常営業だ。

 スクロールの件も明日、受付のシャナが協会本部がある王都に向けて出発する事になった。


 最後は師匠に美味しいところを全て持って行かれたが、あの裁きは男前すぎる!

 本当にこれで解決だ。

 何か忘れてる気がするが……
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