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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
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カフェに着いてフレンチトーストを頼むと私達は他愛のない話を沢山した。とにかく色々話をしてみた。
好きな食べ物や休日の過ごし方、最近観た映画の話題等はこれまで遠くで眺めるしかなかった相手を身近に感じさせる。かつリラックスしてやりとりが出来て、自分を飾らないでいい。
「先にフレンチトースト頼んでよかったの?」
「母さんは俺達の顔を見たらすぐに帰るだろう。それに茜が待ち切れないと思って」
「え、また顔に出てる?」
「出てる、ニコニコしてるし」
休日のカフェは賑わい、フレンチトーストの香りで包まれている。まぁ、待ち遠しくないと言えば嘘になるが……。
柔らかく微笑む誠を見れば、つまらない言い訳は溶けていく。
「本当に今日はありがとう、オシャレをしてくれて嬉しい。ワンピース、似合ってるよ」
「そ、そうかな? 服は良くても目は充血してるし、クマもあって」
「寝不足になった事情には今も腹は立つ。でも俺の為に頑張ってくれたんだって思うと、その部分は嬉しい」
「後輩に強く言えない私を頼りないと感じない? みんなに良い顔したいんだとか呆れない?」
「感じないし呆れない。あぁ、でも」
「でも?」
「俺に頼って欲しい、俺だけに良い顔してくれたらいいのにと思った」
誠の『ニカッ』という効果音が付きそうな表情に吹き出しつつ、ドキドキする。
「またまた、誠ってば上手いんだから」
彼には聞こえないボリュームで、自分に言い聞かせるよう呟く。
誠はスーツとは違う色気があり、コーヒーを飲む仕草も絵になる。周りに居るお客さんの視線を集め、芸能人かなと噂する声が聞こえた。
「ん? どうした? 飲まないの?」
傾げながら手付かずの紅茶を促す、誠。
「あ、うん。なんだか緊張してきちゃって」
あははと乾いた笑いを湿らす為、カップを手に取る。
「もしも母さんが茜に失礼したら怒るよ。って言っても緊張するよな? 俺も茜の立場ならするし」
もちろんお母さんに会うのも緊張するが、芸能人と勘違いされる雰囲気の持ち主とお茶をする事自体を意識し始める。
私は誠の彼女役をやれて光栄だ。しかし周囲にはどう映っているのだろう?
「ねぇ、あの人、超カッコ良い! てかアレ彼女? 地味じゃない?」
その声を拾った瞬間、私は一気に不安の波に飲み込まれた。カップをひっくり返してしまい、テーブルの横を通り掛かる声の主の裾を汚してしまう。
「すいません!」
急いで立ち上がり、紅茶がかかってしまったスカートへハンカチを差し出す。
と、そのスカートには見覚えがあった。
「んもう! 最悪、何すんのよ」
機嫌を損ねた声にも聞き覚えがあり、顔を上げてみる。
私からハンカチを乱暴に奪い、拭う人物はーー。
「笠原さん?」
「は? えっ、町田先輩?」
私がすぐ粗相の相手が後輩の笠原さんと気付いたのに対し、笠原さんの方は認識するまで間がある。
パチパチとカールした睫毛を不躾なまで瞬かせ、やっと私の顔を思い出す。
「え、え、なんで先輩が此処に?」
即座に紅茶をかけられた不快感を引っ込め、猫なで声に変わる。
「この人、知り合い?」
連れ立つ女性が私達の関係を尋ねてきた。
「か、会社の先輩なの。いつもお世話になってて」
「あぁ、残業とか代わってくれる先輩だっけ? 今日の合コンも先輩が休日出勤してくれるから行けるんだよね。先輩、ありがとうございます!」
何故か、連れの女性からお礼を言われ、どんな顔をしていいか分からない。
「あー、あー! てか、先輩はデートですか? うわ! よく見たら朝霧さんじゃないですか!」
今日はプロポーズされるのでは無かったのかと聞かれる前に話題を移す。遠目でも誠をイケメンと見抜く感性は素晴らしいの一言に尽きる。
カフェに着いてフレンチトーストを頼むと私達は他愛のない話を沢山した。とにかく色々話をしてみた。
好きな食べ物や休日の過ごし方、最近観た映画の話題等はこれまで遠くで眺めるしかなかった相手を身近に感じさせる。かつリラックスしてやりとりが出来て、自分を飾らないでいい。
「先にフレンチトースト頼んでよかったの?」
「母さんは俺達の顔を見たらすぐに帰るだろう。それに茜が待ち切れないと思って」
「え、また顔に出てる?」
「出てる、ニコニコしてるし」
休日のカフェは賑わい、フレンチトーストの香りで包まれている。まぁ、待ち遠しくないと言えば嘘になるが……。
柔らかく微笑む誠を見れば、つまらない言い訳は溶けていく。
「本当に今日はありがとう、オシャレをしてくれて嬉しい。ワンピース、似合ってるよ」
「そ、そうかな? 服は良くても目は充血してるし、クマもあって」
「寝不足になった事情には今も腹は立つ。でも俺の為に頑張ってくれたんだって思うと、その部分は嬉しい」
「後輩に強く言えない私を頼りないと感じない? みんなに良い顔したいんだとか呆れない?」
「感じないし呆れない。あぁ、でも」
「でも?」
「俺に頼って欲しい、俺だけに良い顔してくれたらいいのにと思った」
誠の『ニカッ』という効果音が付きそうな表情に吹き出しつつ、ドキドキする。
「またまた、誠ってば上手いんだから」
彼には聞こえないボリュームで、自分に言い聞かせるよう呟く。
誠はスーツとは違う色気があり、コーヒーを飲む仕草も絵になる。周りに居るお客さんの視線を集め、芸能人かなと噂する声が聞こえた。
「ん? どうした? 飲まないの?」
傾げながら手付かずの紅茶を促す、誠。
「あ、うん。なんだか緊張してきちゃって」
あははと乾いた笑いを湿らす為、カップを手に取る。
「もしも母さんが茜に失礼したら怒るよ。って言っても緊張するよな? 俺も茜の立場ならするし」
もちろんお母さんに会うのも緊張するが、芸能人と勘違いされる雰囲気の持ち主とお茶をする事自体を意識し始める。
私は誠の彼女役をやれて光栄だ。しかし周囲にはどう映っているのだろう?
「ねぇ、あの人、超カッコ良い! てかアレ彼女? 地味じゃない?」
その声を拾った瞬間、私は一気に不安の波に飲み込まれた。カップをひっくり返してしまい、テーブルの横を通り掛かる声の主の裾を汚してしまう。
「すいません!」
急いで立ち上がり、紅茶がかかってしまったスカートへハンカチを差し出す。
と、そのスカートには見覚えがあった。
「んもう! 最悪、何すんのよ」
機嫌を損ねた声にも聞き覚えがあり、顔を上げてみる。
私からハンカチを乱暴に奪い、拭う人物はーー。
「笠原さん?」
「は? えっ、町田先輩?」
私がすぐ粗相の相手が後輩の笠原さんと気付いたのに対し、笠原さんの方は認識するまで間がある。
パチパチとカールした睫毛を不躾なまで瞬かせ、やっと私の顔を思い出す。
「え、え、なんで先輩が此処に?」
即座に紅茶をかけられた不快感を引っ込め、猫なで声に変わる。
「この人、知り合い?」
連れ立つ女性が私達の関係を尋ねてきた。
「か、会社の先輩なの。いつもお世話になってて」
「あぁ、残業とか代わってくれる先輩だっけ? 今日の合コンも先輩が休日出勤してくれるから行けるんだよね。先輩、ありがとうございます!」
何故か、連れの女性からお礼を言われ、どんな顔をしていいか分からない。
「あー、あー! てか、先輩はデートですか? うわ! よく見たら朝霧さんじゃないですか!」
今日はプロポーズされるのでは無かったのかと聞かれる前に話題を移す。遠目でも誠をイケメンと見抜く感性は素晴らしいの一言に尽きる。
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