片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

八千古嶋コノチカ

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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして 2

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 誠は悲しい、傷付いたという表情を隠そうともしなかった。仕事上はあまり弱味を見せない彼なのに。やはり勘違いされている旨を話したくとも部長の目もあり、言葉が出ない。

「僕の部下へ頼み事は勝手にしないでくれるかな? するなら上司である僕に一言貰える?」

「ぶ、部長! 朝霧くんにはプライベートでお願いされたので」

「だとしても、だ。町田を困らせるのは止めてくれ。君には万全なメンタルで業務にあたって欲しいからな」

「私は困っているという訳ではーー」

 語尾が曖昧に潰れ、どう伝えればいいのだろう。迷う。
 気付けば私と部長は距離を取りもしないで、交際していると誤解される位置で顔を見合わせた。

 改めて部長は部長で整った顔立ちをしている。

「ん? 僕の顔に何かついている?」

「いえ」

「別に僕は朝霧の妄言を本当にするのもやぶさかじゃないよ。デートはキャンセルして僕と過ごそう。季節限定のパフェが美味しそうな店を見付けたんだ。町田、パフェ好きでしょ?」

 にっこり微笑む部長はまるで誠へ当て付けるみたい。ただし本気で誘われていると感じない。
 でも誠からしたら、仲の良さをアピールされたと受け取り兼ねない。

「部長ってば冗談はよしてーー」

 ここまで言い掛けた時、視界の隅で誠が踵を返すのが見えた。

「待って!」

 私は急いで彼の袖を引き寄せる。

「本当に部長と私はなんでもないの」

「おやおや、なんでもないって言い方は寂しいなぁ」

 すかさず部長がちゃちゃを入れてきて、反射的に睨んでしまう。すると悪びれる様子なくニヤニヤし始めた。

「……もしかして全部分かった上でやってます?」

 私は予感する。部長の勘の鋭さは嫌というほど知っているのだ。

「全部? 僕が把握しているのは一部でしかないよ。町田がこれからデートに行く相手は社内の人物で、その人物は昨日頼んであった件を放り出して帰ってしまった。だから休日出勤してるんだよね?」

 掴んだ誠の腕がピクリ、反応した。どうやら図星らしい。そういえば昨日の彼は残業を切り上げ、私とバーへ行ったっけ。

「おかしいなと思ったんだ。2人とも僕へ資料を提出するのに、なんで協力してやらないのかって不思議だなぁと。こそこそ休日出勤してさ」

 部長は顎に手をやり、私と誠の服装を眺めた。誠もデート仕様で仕事をしにくる格好ではなく、こうして並ぶと揃って出掛けそうだ。

「町田も仕事が残ってたの? 昨日は無いって言ってたのに」

 そう、バーに誘われた時点では抱えている仕事は無かった。

「あの時は無かったんだけど……朝霧くんこそ」

「俺はまぁ……提出は明日でも良かったんだが、眠れなくてさ。あとじっとしても居られなくて先に片付けようと」

 あの後、誠は眠れなかったのか。睡眠不足の理由が私であると言外に込めていて、それは怒りというより、こちらを窺う感じ。

「そうなんだ」

 部長が聞いているので深い事情までは話せない。誠の袖を離さず、もう一段階強く握ることで私の気持ちを表現する。

「町田は後輩のフォローで徹夜だ。目が真っ赤なのもそのせいだよ。今から何処へお出掛けか知らないが、体調は気遣ってあげて」

 助け舟を出してくれた部長。てっきり、からかわれると身構えていたので意外だ。

「常々感じていましたが」

 ここで誠が口を開く。

「管理職ならば部下への仕事配分をしっかりすべきです。現状、町田に偏り過ぎてますよね? 部長こそ彼女の体調を気遣って下さい」

「……これって公私混同じゃない? 肝心な気持ちは伝えられないくせして、僕にはさも正論であるように言って。彼女の前で格好つけたいならデート中にしなよ」

 部長も言われっぱなしじゃなく応戦。他部署のことに口を出すのはビジネスマナーとして宜しくない。しかも相手は誠より職位が高い。
 張り詰めた嫌な空気が充満する。

「さぁ、もう帰った帰った」

 しかし部長はそれ以上の反論はせず、私達を追い払う仕草をした。私は一礼し、誠を外へ連れ出す。すると退出間際、こんな言葉が付け加えられた。

「町田、悪かったね。朝霧の指摘は改善するから」

 わざわざ上司が介入しなくても、仕事を押し付けられそうになったら自分で拒否すればいいだけの話。部長の手を煩わせてしまい申し訳なく感じていると、誠がフォローしてくれる。

「ーーとか言って、次からは茜が後輩にノーを突き付けるだろうと踏んでいる。だから茜が気に病む必要はない。あの人はそういう人なんだ。冷静で計算高く、それでいて恋敵」

「こ、恋敵って」

「そうだろう? 今の茜は俺の彼女だ」

 部署を一歩出れば名前で呼ばれた。それから袖に添えた手を繋いでくる。

「俺達、色々誤解が生じているよな。カフェへ向かいながら話をしないか?」

「う、うん。私も話したいことが沢山あるの」

 提案に頷き、指先を意識する。誠の手は大きくて、包み込むように温かい。
 1日限定の彼女という響きがチクチクしても離したくなかった。 
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