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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
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私が後輩のフォローするよう、部長が私のフォローをするのは組織として当たり前であるものの、じゃあよろしくお願いしますとはならない。
部長は席に付き、パソコンを起動する。
「ここまでやってくれたら後は僕でもやれる。ありがとう、助かった。それとデートに行けなんて意地悪な言い方して大人気なかったな」
「いえ、そんなことは……」
私の仕事への貢献度は知れているが、それでもコツコツ積み上げてきた部分を部長は評価してくれる。
その信頼を裏切るのは心苦しく、私もパソコンを開いた。
「町田?」
「修正をやらせて下さい!」
「デートはどうするの?」
「間に合うようにやります! デートには絶対に行きたいので!」
決心したなら、お喋りをする暇はない。ワンピースの袖を捲くるとセットした毛先を束ね、画面に集中する。
「こんな頑張り屋の部下を奴に取られるのは癪だね」
そんな部長の声は私に届かなかった。
ーーそれから数十分後。
「で、出来た!」
なんとか作業を終えた。すぐさま資料をプリントアウトし、もう一度チェックをしておこうとしたらサッと奪われる。
「ありがとう、これは僕が見ておく。時間迫ってるんじゃない?」
「で、でも……」
「僕はそのままで可愛いと思うが、化粧直しをした方がいいかも。目も真っ赤だし」
部長は私の空いた手にカフェオレを握らせた。温かい缶で緊張感を解され、安堵が漏れてくる。
「もう! 可愛いとか冗談言わないで下さい。私には仕事しかないんですから」
だから部長に呆れられてしまうと居場所が無くなる気がして。
「仕事しかないと言わせるのは上司として嬉しくあり、寂しいぞ。一生懸命、仕事する町田は当然魅力的だが、そうしてオシャレをした町田も素敵だ」
「ーーありがとう、ございます。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃないって。町田はもっと自信を持ちなさい」
身に余る言葉を贈られ、涙が滲む。普段の私を知るからこそ、そんな風に言って貰えて光栄で。
「お、おい、目を擦ったりするな。あっ、睫毛がーー」
部長が私の泣き顔を覗き込んだ時だった。
「部長と町田さんって付合っていたんですか?」
背後のドアが開く。
わざわざ町田さんと、さん付けする声は振り返らなくても誰か分かる。誠の場所から私達がどんな体勢で映ったのか察し、訂正しなくてはと思うものの身体が動かない。
何故なら誠は明らかに怒っていた。
「作業効率が下がるから社内恋愛は否定的だった部長が部下に手を出すなんて。示しがつかないのでは?」
食って掛かる誠。それに対して部長は冷静に返す。
「君こそ、休日出勤をするほど作業効率が落ちているじゃないか。営業部のエースがこんなことで目くじら立てている暇はないはず。なぁ、町田もそう思うだろう?」
話を振られ、戸惑う。
確かに部長は私に睫毛がついているのを指摘しただけで、やましい所はない。こういった場合、理由をいちいち説明する方が逆効果となったりする。
私も恐る恐る誠へ振り向き、目で訴えてみた。
「……泣いてたのか」
しかし、充血した瞳はますます誠の誤解を深めるのであった。
「え、違うーー」
「そんなに俺の頼み事が迷惑なら最初から断ってくれれば良かったのに。部長に相談してたんだろう?」
部長は席に付き、パソコンを起動する。
「ここまでやってくれたら後は僕でもやれる。ありがとう、助かった。それとデートに行けなんて意地悪な言い方して大人気なかったな」
「いえ、そんなことは……」
私の仕事への貢献度は知れているが、それでもコツコツ積み上げてきた部分を部長は評価してくれる。
その信頼を裏切るのは心苦しく、私もパソコンを開いた。
「町田?」
「修正をやらせて下さい!」
「デートはどうするの?」
「間に合うようにやります! デートには絶対に行きたいので!」
決心したなら、お喋りをする暇はない。ワンピースの袖を捲くるとセットした毛先を束ね、画面に集中する。
「こんな頑張り屋の部下を奴に取られるのは癪だね」
そんな部長の声は私に届かなかった。
ーーそれから数十分後。
「で、出来た!」
なんとか作業を終えた。すぐさま資料をプリントアウトし、もう一度チェックをしておこうとしたらサッと奪われる。
「ありがとう、これは僕が見ておく。時間迫ってるんじゃない?」
「で、でも……」
「僕はそのままで可愛いと思うが、化粧直しをした方がいいかも。目も真っ赤だし」
部長は私の空いた手にカフェオレを握らせた。温かい缶で緊張感を解され、安堵が漏れてくる。
「もう! 可愛いとか冗談言わないで下さい。私には仕事しかないんですから」
だから部長に呆れられてしまうと居場所が無くなる気がして。
「仕事しかないと言わせるのは上司として嬉しくあり、寂しいぞ。一生懸命、仕事する町田は当然魅力的だが、そうしてオシャレをした町田も素敵だ」
「ーーありがとう、ございます。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃないって。町田はもっと自信を持ちなさい」
身に余る言葉を贈られ、涙が滲む。普段の私を知るからこそ、そんな風に言って貰えて光栄で。
「お、おい、目を擦ったりするな。あっ、睫毛がーー」
部長が私の泣き顔を覗き込んだ時だった。
「部長と町田さんって付合っていたんですか?」
背後のドアが開く。
わざわざ町田さんと、さん付けする声は振り返らなくても誰か分かる。誠の場所から私達がどんな体勢で映ったのか察し、訂正しなくてはと思うものの身体が動かない。
何故なら誠は明らかに怒っていた。
「作業効率が下がるから社内恋愛は否定的だった部長が部下に手を出すなんて。示しがつかないのでは?」
食って掛かる誠。それに対して部長は冷静に返す。
「君こそ、休日出勤をするほど作業効率が落ちているじゃないか。営業部のエースがこんなことで目くじら立てている暇はないはず。なぁ、町田もそう思うだろう?」
話を振られ、戸惑う。
確かに部長は私に睫毛がついているのを指摘しただけで、やましい所はない。こういった場合、理由をいちいち説明する方が逆効果となったりする。
私も恐る恐る誠へ振り向き、目で訴えてみた。
「……泣いてたのか」
しかし、充血した瞳はますます誠の誤解を深めるのであった。
「え、違うーー」
「そんなに俺の頼み事が迷惑なら最初から断ってくれれば良かったのに。部長に相談してたんだろう?」
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