強くてニューゲームな契約彼氏ー恋も愛も無理ゲーではありません

八千古嶋コノチカ

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育成1

育成1

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 指定された場所は高級マンション、あかりは最上階を仰ぐ。

 春と言えど朝は肌寒い。トレンチコートを羽織ってきて正解、ポケットへ手を突っ込む。と、中から折れ曲がった名刺が出てくる。
 じっとそれ見つめるうち、約束の時間となった。

 マンションは入口に警備員を配備し、住人側からセキュリティ解除がなされないと中に入れない仕様だ。名刺に部屋番号の記載がない為、ヨリと連絡を取る方法は電話しかない。
 最初のコールが空振りに終わり、待たされる事となったあかりは近くの公園へ移動する。

 ベンチに座ろうとしたが遊具の利用者が少ないのに気付き、久し振りにブランコを漕ぎ、滑り台をすべって、ジャングルジムに登る。なんだか公園を征服した気分になれ、すがすがしい。
 ただ無職のアラサーが童心にかえる姿は傍からみると少し怖い。

 そして、太陽が昼の位置に辿り着くとヨリから折り返しの着信が入る。

「誰?」

 開口一番、これだ。

「あの、私は昨日カフェで」
「カフェ?」
「9時にマンションに来てと呼ばれたんですが?」
「はぁ」

 間があく。

「あぁ! 9時ってさ、夜の9時なんだけど……ま、いいや。今から部屋まで来てよ」

 鍵開けておくと告げ、一方的に通話が切れる。ヨリとは住む世界が違うと思ったが、時間軸もずれているようだ。
 待たせておいて詫びの一言もないのにモヤモヤしつつ、指示通りマンションへ向かった。


 なんとヨリはマンションの最上階を貸し切っているようで、エレベーターの目的階の名称が【studioヨリ】となっている。

 自宅兼仕事場という使い方をしても豪勢だ。マンションの立地や規模、設備を考慮すると、あかりの貰っていた給料では一室すら借りられないだろう。

「あ、どうも」

 フロアへ出るとスウエット姿のヨリに出迎えられた。

 ヨリはトレードマークのピンクに染めた襟足を明後日方向へ跳ねさせ、明らかに起き抜けな出で立ち。面接の体で身なりを整えるあかりとの対比は成功者とそうじゃない者、もしくは雇用主と労働者の関係性を感じ取らせる。

「こんにちは、今日は宜しくお願いします。その、眠そうですね」
「昨日は遅くまで配信してたんだ。それより育成の話をしてもいい? こっち来て」

 挨拶もそこそこに、ヨリはあかりを機材が所狭しと置かれた部屋へ招く。

「凄い量ですね、お仕事用ですか?」
「配信用の機材。もう使ってないけど」

 配信機材と言われてもマイクやヘッドホンの用途しか分からないが、使わなくなった道具を保管する部屋は倉庫と呼ぶと承知している。
 まぁ、倉庫でもあかりの部屋より広いが。

 あかりが部屋ーーもとい倉庫の片隅で立っている中、ヨリは奥から椅子とホワイトボードを持ってきた。
 椅子が一脚しかないのは流れ的に嫌な予感がしたが、ここは流石にあかりを座らせてくれる。

「失礼します」

 採用試験よろしく、一礼して着席。

「畏まらなくていいってば。コート脱がなくていいの? 寒い?」
「寒くありません!」
「敬語やめない?」
「そういう訳には……」

 あかりはヨリに雇われる立場。フランクに接するのは気が引ける。

「まっ、お姉さんがいいならいいや」

 あかりが脱いだコートをヨリは素早く回収し、ホワイトボードの上にかけた。その際、ボード表面を袖口で拭いホコリがつかないよう気遣う。

「オレを知らなかったみたいだけど、あれから検索とかしてくれた?」
「はい」
「ならオレがどんな活動してるか理解して、協力してくれると思っていい?」

 頷く、あかり。ヨリスのブログ以外はオリーブオイルや水を宣伝している動画を観た。

「ありがとう助かるよ。ゲームチャンネルがマンネリ気味で挽回しないとやばいんだ」

 ヨリはヘソを出しながら腹をかく。ボードに寄り掛かり気怠さも隠さない。

 本当に有難がっているか定かじゃないものの、話は進められていく。

「育成っていうのはね、オレがお姉さんの彼氏になって、あ、彼氏っていっても期間限定彼氏だよ」

 ボードへあかりの育成計画を書き出し、滑らかな説明をする。
 ヨリの声は聞き取りやすく、しっかりコンセプトを固めているのが伝わる。

 計画によれば育成には三段階のプロセスがあり、最初はあかりの紹介動画だ。

「簡単な話、恋愛も結婚もできるお姉さんにする作戦」
「あ、あの」

 話の切れ間に挙手する、あかり。

「質問? どうぞ」
「報酬はどのくらい頂けるんでしょう?」
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