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育成1
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無理もないが、ヨリは自身の女性受けを過信している。恋人にしてあげるのに金銭を要求され驚く。
「いくら欲しいの?」
動揺から言い値を払う返し方をしてしまう。言った後で再び焦るも、あかりは身の丈にあった金額を提示した。
「1ヶ月で23万、4万くらい頂けると嬉しいですね」
「……リアルな数字言ってきたね。それだけでいい? あ、1ヶ月も拘束はしないよ、オレもこの企画に掛かりっきりになれないんだ」
「なら日割りで結構です。たくさん頂いても頂いただけ使ってしまうので」
あかりは嘘をついていない。この宵越しの銭は持たない精神、世が世なら粋な江戸っ子となれたろう。
「ふーん」
納得しない様子。ヨリからすれば堅実を装って取り入り、良からぬ事を企むのではないか疑わしい。
二重を見開いて観察する。あかりは目の覚める美人でもなければ可愛らしさもない、プライベートのヨリならば声をかけない。
だが、この何処にでも居そうな女性こそ企画の肝。ヨリはシンデレラを妬かせないシンデレラストーリーを作ろうとしていた。
「あ、あの、何か?」
「金はさっき言った額で払うよ。契約成立! 撮影始めよう」
「いきなりですか! 私、何をしたら?」
「なんにもしなくていい。オレの質問を答えてる所を撮る」
あかりに心の準備をさせず、携帯電話を向け撮影を始める。
「それじゃあ、最初にお姉さんの事を教えて。名前と年齢から」
「え? えっ?」
「編集で都合悪い部分は切るし、自然体で答えて大丈夫」
スイッチを入れたようにヨリは声音を変え、あかりの背後に回る。
強張る肩をポンポン叩き、アドバイスを耳元で囁く。
ゲーム実況に限らず、声は配信者の武器だろう。この点、ヨリは効果的な使い分けが出来ている。
勿論ルックスが良い事に越した事はないが、チャンネルを画面で追うよりラジオ感覚で流したり、何かしながら視聴するリスナーも居るため声色は重要だ。
また声と同様に言葉遣いも大切。場にそぐわないワードを選び、炎上してしまう配信者は少なくない。
「元宮あかり、29歳です」
「ふむふむ、仕事は何を?」
「無職です」
「あー不景気だもんね。住まいは?」
「今月末に退去予定で、次の部屋は決まっていません」
「……今月末って、あと10日しかないね。あぁ、彼氏の家にお世話になるとか?」
「昨日振られてたの見てましたよね? 彼と結婚したくて仕事を辞め、引っ越しも決めたんです」
「でも29歳ならそこそこ蓄えあるでしょ。ゆっくり自分を見つめ直す時期かも」
「いえ、結婚資金に使ってしまったのでありません。お金がないので企画に参加しました」
「……」
矢継ぎ早に質問するヨリだが、斜め上の回答が連続し反応を詰まらせた。
あかりの強烈な近状は調理のしがいがあり、配信者として美味しい。それと同時に扱いが難しい。当たり前だがヨリより目立たれると困る。
「お姉さん、生き方攻め過ぎじゃない?」
ヨリは会話のスピードを緩める。
「いやぁ、昔から猪突猛進というか、思い立ったら吉日というか、後先考えずに行動してしまうんです」
乾いた笑いを浮かべ、あかりは膝の上で拳を握った。
「オレが言うのもアレだけど、そんなに結婚したいの?」
後悔滲む仕草をヨリは見逃さず、掘り下げる。
「まぁ、はい」
「なんで?」
「それは適齢期ですし、周りの皆もしていて。あと家族を安心させたいとか、授かれば孫を見せてあげたいとか……こういう気持ちはおかしくないですよね?」
あかりにだって同年代が抱える悩みは存在する。
そうと分かれば、猪突猛進するあかりと婚期を意識するあかりを天秤にかけ、視聴率が稼げそうな彼女へ傾けるのがヨリの仕事だ。
「うん、おかしくなんかない。オレ、結婚はいまいちイメージがわかないけど、ウェディングドレスっていいなぁと思う」
「は、はい、私もウェディングドレスを着たかったんです!」
狙い通り、あかりからこの言葉を引き出したヨリは微笑む。育成の二段回目が【希望を叶えて自信をつけさせる】がテーマだからだ。
撮影はここで一時中断する。
「よし、休憩しよう」
ヨリは携帯電話を放って背伸びをした。またヘソが覗き、ダルそうな気配を身に纏う。彼のオンオフの切り替えがはっきりしている。
「私、ちゃんとやれたでしょうか?」
「平気、平気。お姉さんは撮れ高なんて気にする必要ないーーあ、名前聞いたけど呼び方はお姉さんにしておく。動画内もお姉さん呼びする」
ホワイトボードにある育成一段回目の欄へ横線が引かれた。
「ところで、何故お姉さん呼びにするか分かる?」
「個人情報だからですか?」
「それもあるけどリスナーに没入感を与える効果を狙ってるの。お姉さん、恋愛シュミレーションゲームとかやる? てかゲーム自体やる?」
その昔、祖父母の家でゲームをした記憶があるにはあるが、人気実況配信者には言いにくい。あかりは首を横に振った。
「恋愛シュミレーションゲームは主人公の名前が変えられて、顔も隠してある作品が多いんだ。プレイヤーが自己投影しやすい配慮ってやつ」
「自己投影……」
「まっ、難しく考えないで。それよりお腹空かない? 着替えてピザでも食べようよ」
「いくら欲しいの?」
動揺から言い値を払う返し方をしてしまう。言った後で再び焦るも、あかりは身の丈にあった金額を提示した。
「1ヶ月で23万、4万くらい頂けると嬉しいですね」
「……リアルな数字言ってきたね。それだけでいい? あ、1ヶ月も拘束はしないよ、オレもこの企画に掛かりっきりになれないんだ」
「なら日割りで結構です。たくさん頂いても頂いただけ使ってしまうので」
あかりは嘘をついていない。この宵越しの銭は持たない精神、世が世なら粋な江戸っ子となれたろう。
「ふーん」
納得しない様子。ヨリからすれば堅実を装って取り入り、良からぬ事を企むのではないか疑わしい。
二重を見開いて観察する。あかりは目の覚める美人でもなければ可愛らしさもない、プライベートのヨリならば声をかけない。
だが、この何処にでも居そうな女性こそ企画の肝。ヨリはシンデレラを妬かせないシンデレラストーリーを作ろうとしていた。
「あ、あの、何か?」
「金はさっき言った額で払うよ。契約成立! 撮影始めよう」
「いきなりですか! 私、何をしたら?」
「なんにもしなくていい。オレの質問を答えてる所を撮る」
あかりに心の準備をさせず、携帯電話を向け撮影を始める。
「それじゃあ、最初にお姉さんの事を教えて。名前と年齢から」
「え? えっ?」
「編集で都合悪い部分は切るし、自然体で答えて大丈夫」
スイッチを入れたようにヨリは声音を変え、あかりの背後に回る。
強張る肩をポンポン叩き、アドバイスを耳元で囁く。
ゲーム実況に限らず、声は配信者の武器だろう。この点、ヨリは効果的な使い分けが出来ている。
勿論ルックスが良い事に越した事はないが、チャンネルを画面で追うよりラジオ感覚で流したり、何かしながら視聴するリスナーも居るため声色は重要だ。
また声と同様に言葉遣いも大切。場にそぐわないワードを選び、炎上してしまう配信者は少なくない。
「元宮あかり、29歳です」
「ふむふむ、仕事は何を?」
「無職です」
「あー不景気だもんね。住まいは?」
「今月末に退去予定で、次の部屋は決まっていません」
「……今月末って、あと10日しかないね。あぁ、彼氏の家にお世話になるとか?」
「昨日振られてたの見てましたよね? 彼と結婚したくて仕事を辞め、引っ越しも決めたんです」
「でも29歳ならそこそこ蓄えあるでしょ。ゆっくり自分を見つめ直す時期かも」
「いえ、結婚資金に使ってしまったのでありません。お金がないので企画に参加しました」
「……」
矢継ぎ早に質問するヨリだが、斜め上の回答が連続し反応を詰まらせた。
あかりの強烈な近状は調理のしがいがあり、配信者として美味しい。それと同時に扱いが難しい。当たり前だがヨリより目立たれると困る。
「お姉さん、生き方攻め過ぎじゃない?」
ヨリは会話のスピードを緩める。
「いやぁ、昔から猪突猛進というか、思い立ったら吉日というか、後先考えずに行動してしまうんです」
乾いた笑いを浮かべ、あかりは膝の上で拳を握った。
「オレが言うのもアレだけど、そんなに結婚したいの?」
後悔滲む仕草をヨリは見逃さず、掘り下げる。
「まぁ、はい」
「なんで?」
「それは適齢期ですし、周りの皆もしていて。あと家族を安心させたいとか、授かれば孫を見せてあげたいとか……こういう気持ちはおかしくないですよね?」
あかりにだって同年代が抱える悩みは存在する。
そうと分かれば、猪突猛進するあかりと婚期を意識するあかりを天秤にかけ、視聴率が稼げそうな彼女へ傾けるのがヨリの仕事だ。
「うん、おかしくなんかない。オレ、結婚はいまいちイメージがわかないけど、ウェディングドレスっていいなぁと思う」
「は、はい、私もウェディングドレスを着たかったんです!」
狙い通り、あかりからこの言葉を引き出したヨリは微笑む。育成の二段回目が【希望を叶えて自信をつけさせる】がテーマだからだ。
撮影はここで一時中断する。
「よし、休憩しよう」
ヨリは携帯電話を放って背伸びをした。またヘソが覗き、ダルそうな気配を身に纏う。彼のオンオフの切り替えがはっきりしている。
「私、ちゃんとやれたでしょうか?」
「平気、平気。お姉さんは撮れ高なんて気にする必要ないーーあ、名前聞いたけど呼び方はお姉さんにしておく。動画内もお姉さん呼びする」
ホワイトボードにある育成一段回目の欄へ横線が引かれた。
「ところで、何故お姉さん呼びにするか分かる?」
「個人情報だからですか?」
「それもあるけどリスナーに没入感を与える効果を狙ってるの。お姉さん、恋愛シュミレーションゲームとかやる? てかゲーム自体やる?」
その昔、祖父母の家でゲームをした記憶があるにはあるが、人気実況配信者には言いにくい。あかりは首を横に振った。
「恋愛シュミレーションゲームは主人公の名前が変えられて、顔も隠してある作品が多いんだ。プレイヤーが自己投影しやすい配慮ってやつ」
「自己投影……」
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