御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

八千古嶋コノチカ

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御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

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 初恋の諦め文句といえば『実らない』だ。私は庭に咲く花々を横目にキーボードを叩く。

 月に数回、互いの近状を伝え合うメールも今回が最後になるだろう。

 ーー何故なら私は結婚をする。




「いやぁ、トントン拍子とはこういう事だねぇ」

 ノックもなしに伯父様が書斎へ入ってきた。私の結婚が決まってから出入りが頻繁になり、手土産の洋菓子を掲げると感謝の言葉を引き出そうとする。

「姫ちゃんが好きなケーキを買ってきた。一緒に食べよう、結婚の前祝いだ」

「ありがとうございます。それではお茶を用意しますね」

 一旦パソコンを閉じ、ソファーを勧めた。ここは父の仕事場も兼ね、希少な書籍が多く所蔵されている。室内での飲食は遠慮して貰いたいのだが強く言えない事情があるのだ。

 内線で厨房と連絡を取り、紅茶を手配する。イギリスから取り寄せた茶葉は淹れ方も重要となり、担当者が前もって準備をしていた。
 今、伯父様の気分を害せば我が家がどれだけ不利益となるのか。私を含め、皆が承知する。

「パソコンを触っていたみたいだが、まさか男に連絡していないだろうね? 先方を心配させる真似はよしてくれよ」

 伯父様の正面へ腰掛け、そんな質問に首を振る。

「幼馴染みのーー峯岸斗真さんへ結婚する旨をお伝えしようと。伯父様の顔に泥を塗る真似は誓ってしておりませんので、どうぞご安心下さい」

 伯父様はいわゆる仲人、キューピット。とある日、私の結婚相手を連れてきた。

「峯岸? あぁ、彼も立派になったものだな。経済誌で特集されていたのを読んだよ。彼も結婚式に呼ぶのかい?」

「何せお忙しい方なので。予定が合えば」

「幼馴染みのよしみで参列して貰うといい、世界の峯岸が来れば箔が付くじゃないか。お父さんは出られそうもないんだろう? 峯岸とヴァージン・ロードを一緒に歩くのも面白いな」

 私の結婚を『箔が付く』や『面白そうだ』と言いのける伯父様には魂胆がある。むしろ魂胆しかない。病に倒れた父に代わって私達を支えようとするどころか、投資感覚で私を嫁がせる。端的に説明すると、資金援助と引き換えに私は好きでもない人の花嫁になるのであった。

「私、ヴァージン・ロードは伯父様と歩きたいです」

 メールのやりとりのみ、数年会っていない斗真さんとヴァージン・ロードを歩けるはずがない。それに斗真さんは私の初恋相手であり、どういう心持ちで歩けと言うのだろう。

 伯父様は私の言葉に気を良くし、深くソファーへ沈み込むと、そうかそうかと踏ん反り返った。

 そこへお茶が運ばれてきて、話題は結婚相手の浅田さんの事へ移る。

「なぁ、浅田さんと旅行をしてみてみたらどうだい? ほら君達は出逢って日も浅く、お互いを知る必要があるだろう?」

「申し訳ありませんが結婚式の準備がありますし、父の様態も安定していません。何もこのタイミングで出かけなくとも新婚旅行へ参りますのでーー」

 即答でそこまで告げ、みなまでは言わなかった。
 浅田さんは伯父様を通して用件を伝えてくる。彼もまた忙しい人な故、わざわざ屋敷へ足を運び私を構う時間がないのだろう。

 旅行のお誘いもだが、食事や観劇の招待も愛がない結婚をより良くする手段というより、既成事実を作りたがっているように受け取れた。

「まぁまぁ、そう言わず。伊豆の別荘に行ってきなさい。管理人には連絡をしておいた。温泉地ならば浅田さんも日頃の疲れを癒せるはずだ」

「そ、そんな勝手に困ります!」

「箱入り娘で父親の手伝いしかしていない姫ちゃんに予定などあるのか?」

 それを言われてしまうと返す事が出来ない。伯父様は大きな口でショートケーキを飲み込み、ごくごく紅茶で流し込む。

「今一度、姫ちゃんが置かれている現状を考えなさい。仮にこの縁談が駄目になれば、お父さんの事業は立ち行かなくなる。お母さんが好きだったこの屋敷も手放さないといけないだろうねぇ」
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