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保健医 柊

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「四鬼病院?」

【さて病院に行こう。僕の家、病院を経営していてね、少し距離はあるけど車で送っていく】

 あの時、四鬼さんが言っていた。先生の言う病院だろう。

「先生も四鬼さんもどうしてこんなに親切なんですか? わたしは学園の生徒じゃないし、良くして貰う理由が分かりません」

「困っている人が居れば助けるのは当たり前でしょう? 私で力になれるなら手を貸したいのです」

「じゃあ困っている全員、親切にするんです?」

 カウンセラーという立場上、奉仕精神をより宿しているにしろ、いち生徒に対しての配慮が行き過ぎている。
 正直怪しく、身構えてしまった。

「あらら、また警戒させてしまいましたか。手強いですね。しかしながら、ここで校訓を持ち出す方が疑わしいと思いまして……」

「校訓?」

「【鬼と桜は縁深い】、鬼月学園では桜を大切にしています。だから浅見さんに親近感を覚えました」

「え? 桜ってーーもしかして、わたしの名前のことを言ってます?」

「はい、そういう事になります。簡単に言えば桜はラッキーアイテムでして、桜を模した物を身に付ける生徒も沢山おりますよ。校章も桜の花弁なのです」

「……いや、それはこじつけですよ」

「引いてます?」

 わたしは頷いた。

 理由はどうあれ人助けするのは素晴らしい。わたしに出来るかと言われれば出来そうない。でも妙に何かが引っ掛かり、裏がありそうだ。

「はぁ、桜がつく名前ーー例えば桜井さんや桜木さんにも同じような対応をするの? との疑問が顔に出てますよ。桜井さんや桜木さんでなくとも日常生活に支障をきたす貧血をわずらっていれば、保健医ですので病院を勧めます」

 先生は空となった紙コップを回収すると、時刻を確認した。

「校訓の話をしたのは浅見さんも縁(えにし)を感じてくれたら良いと考えからですが、予想した通りの拒絶反応でしたが。
あなただから親切にしたなどと言おうものなら、シャッターを閉じてしまうのでしょう」

 つまり、わたしはまた試されたのか。

「先生の気持ちは嬉しいですが、そこまでして貰うのは気が引けます」

「でしたら気が引けないよう、お友達になりませんか?」

「先生と生徒で友達?」

「私は葉月学園の保健医ではありません。友達となってもいいじゃないですか? それとも私と友達になるのは嫌ですか?」

 この質問の仕方はずるい、嫌と言わせない。先生は沈黙を肯定と受け取ってにっこり微笑む。

「今日はここまでにしますか。お迎えがいらしたみたいなので」

「迎え?」

 振り向くと同時にノックもなくドアが開いた。

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