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四章
閑話◇魔王の片鱗
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◇side.ウッディ
『こんにちは、ウッディさん。そこの雑木林借りていい?』
「やあミュウ君、今朝ぶりだね」
『うん……』
「少し暗いね。どうしたんだい? 僕でよければ相談に乗るけど。こう見えて人生経験は豊富でね。なんでも頼りたまえ」
『あはは、なんだかウッディさんが頼もしい。それで場所はお借りしても?』
「どうぞ。こちらとしても君に直々に手入れしてもらえるのなら願ったり叶ったりさ。ああ、そうそう。復元の際、気持ち色をつけておいてくれると嬉しいかな?」
『うん、わかった。わたしがこれから何をするかは聞かないの?』
「聞いて欲しいのなら聞くけど、君は聞いてほしくはなさそうだ。だから聞かない。それじゃ納得できないかい?」
『ううん、ありがとう。それじゃあまたね。ちょっとうるさくなると思うから他の人に伝えといてくれる?』
「わかった。みんなにはそう伝えておくよ。あまり根を詰めすぎるのもよくない……と、今の君には余計なお世話かもしれないけどね」
『ふふ、変なウッディさん。でも、そうだね。そうする。それじゃあ』
「うん、またね」
僕は彼女をできる限りの笑顔で送り出し、すぐに背を向ける。
時は再び流れ出し、それと同時に恐怖に飲まれた。心臓は煩いくらいに鳴り響き、生きてる喜びに打ち震えるように体へ血液を送り出す。汗腺からは脂汗が流れ出る。気づけば全身汗びっしょりだ。その不快感よりも、何よりも彼女におきた変化が気になった。
「なんだアレは……」
喉の奥から絞り出した声はいつもより皺枯れていた。喉は渇き切り、水分を求めている。
これがいつのまにかかかっていた<状態異常(バッドステータス):恐慌>による効果だろうか?
その恐ろしい効果を身を以て体験した僕は、脱力した体をなんとか動かそうとアイテムバッグを探り、しかし該当するアイテムが存在しないことに絶望した。
「クソッタレめ。起こしちゃいけないモノを目覚めさせたな。誰が、何の為に……」
ミュウ君……ノワールに連なる伝説にはいくつか目を通した事がある。
しかしその殆どが荒唐無稽な作り話に過ぎず、信憑性も何もないモノだった。
しかし本人に出会ってそれを確信する。
アレは違う。全く別の存在だ。
精霊である事とかどうでも良いぐらいに思考が別ベクトルにある。
だからこそ彼女は英雄足り得たのだろう。それをなんでもないかのように振るう彼女が怒っていた。
それがどれほどの効果を及ぼすかはわからないが、ただ一つわかることがある。
それは彼女があそこまで怒る出来事が午前中に起こった事だ。
それが誰の陰謀かはわからない。それが誰にどれぐらいの規模で振るわれるのかも分からない。
僕が思うのは “余計な真似をしてくれた” ただそれだけだ。
まだほんの初期症状。僕の妻も普段は優しいのに、一度拗れると半年は口を聞いてくれない。それぐらいに怒りが長引くのだ。だからこそわかる怒りの症状。
普通に話しているのにもかかわらず、圧力がすごくて冷や汗が止まらないのだ。
にも関わらず、それがミュウ君の場合は死を悟ったのだ。生き残ったことを喜ぶように心臓は跳ね、呼吸ができることを体が喜んでいる。だがこれだけで終わるはずがないことは火を見るよりも明らか。
見ているのだ。僕は彼女の力を目の当たりにしている。一般常識の斜め上の能力を当たり前のように振るう彼女が激情に任せて力を振るえばどうなるかなんて想像に容易い。
まず最初にフィールド全体に激しい縦揺れが起こった。地震ではない。
イマジンの街に今まで一度も地震など起きたことがないからわかる。
次に雑木林の木が一本残らず宙を舞ったのだ。雑木林だと思ったエリアは更地になり、そこにミュウ君が歪な笑いを浮かべて立っていた。
おかしい。精霊に……特にドライアドは表情の変化に乏しいはずなのに。
彼女はとても豊かな表情で笑っていた。三日月を思わせるほど口が裂けていた。
ただそれだけなのに、地の底から滲み出るような笑い声が聞こえた気がした。
そこへ打ち上げた木がミサイルのごとく降り注いだ。だけどミュウ君は一歩も怯まずに降り注ぐ木を浴びていた。
高笑いが聞こえる。いや、笑ってはいない。声は聞こえない。地響きだけがしつこいくらいに鳴り止まない。でも笑っているように口が裂けていた。不安になる。あの顔をずっと見ているのはひどく不安になる。怖い、怖い、怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
音が止んだ時、そこには惨状が広がっていた。雑木林なんてものは地図上から消されてしまったかのように、否。初めから存在しなかったようにそこはほじくり返された土だけが無残に広げられていた。これが一人の人物が引き起こしたことなのか。
同時に絶対に怒らせないようにしようと心に何度も刻み込む。
やがて耕されたエリアは淡い光に包まれた。この光景は知っている。《復元》だ。死の大地に再び緑が咲き誇る。芽が出てそれが大きくなり、成長が早送り再生していくようにそこへ再び雑木林……なんて生易しいものではない。ジャングルが出来上がった。
でも、これで終わりじゃないことはわかる。だって彼女は笑っていたから。可笑しそうに笑っていたから。そして木が、見たこともない生態系の木が、飛ぶのが当たり前のように宙を舞った。次々と宙を舞う姿はまるで曲芸でも見せられているかのような気分にさせてくれる。
けどそれがそういう類のものじゃないことは彼女の顔を見ればわかる。アレは違う。楽しんでいない。いや、愉しんでいる? わからない。僕は彼女が分からない。さっさとこんな場所を逃げ出したいのに、腰が抜けて一歩も動けない。
逃げなきゃ死ぬ。しぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬ
……あっ。
変な声が出た。
それがどんな心境で出た声であったかはわからない。ただ、これが当たれば死ぬなぁ。
そう思わせる巨木が僕とすぐ後ろにあるログハウスに影を落とした。そんな時に喉の奥からそんな声を出していた。
意識が途切れる直前、彼女の声を聞いた気がする。
怒っているような、泣いているような、それを笑ってごまかしているような悲しい声。いつまでも耳に残る声だ。
その声をBGMに、僕の意識はそこで途切れた。
◇side.アーサー
最近は森林フィールドにプレイヤーが持っていかれてしまったが、草原フィールドボス前はそこそこ賑わっている。
「アーサーさん、ちょっとこっち来てください」
「なんだ?」
『こんにちは、アーサーさん。次やりたいんだけどいい?』
「ミュウさんか。悪いけど一番最後に並んでくれ。みんな順番を守ってくれているんだ。たしかにミュウさんは強いけど、そういう問題じゃない。こういうゲームだからこそのルールはある。マリさんもそういうことを教えて欲しいよな」
『わかった』
「そうか、わかってくれるか。それじゃあ最後尾に案内しよう。こっちだ」
『全員居なくなれば良いんだね?』
「は、何を?」
何が起きたかは分からなかった。瞬間ぞくりと肌が泡立ち、気がつけばオレ以外の全員が光の粒子を撒き散らしていた。
『これで順番待ちしている人がいなくなったね。参加していい?』
「何を……あんたは一体何を!」
『……アーサーさんもわたしの敵?』
その言葉を聞いてオレは声を出せなくなった。その目を見て、オレは……オレは? オレは何をしていたっけ?
気づけば天井のシミを数えていた。見渡せばつい先ほどまでボスエリアの前で屯ろしていたパーティが全員ベッドの上で頭に疑問符を浮かべていた。
どうにも思い出せない。
最後に誰かの顔を見た。
そうか、ログを見れば良い。
そう思って、ログを覗いて……
<プレイヤー:ミュウによってキルされました>
その言葉の意味を脳が理解できなかった。
「キル……された? オレが……ミュウさんに?」
いったい、どんな理由で?
「アーサーもか? 一体どういうことだ? 彼女がノワールである事は周知の事実だ。だけど彼女にはちゃんと良心も思いやりもあった。そんな彼女だからこそオレたちは一般プレイヤーとして変に騒ぎ立てるような事はしなかった」
「ああ……」
「だが今日のはどういう事だ? まるで感情だけで動いている獣そのものじゃないか! ただ自分の意見が通らなかっただけでキルされた。
あんたがあの子を一番よく知っているって、だから任せたんだぞ!? どう責任を取るつもりだ!」
「分からない、彼女は本当にミュウさんだったのか? 彼女の目を見ると鳥肌が治らないんだ。頼む、だれかこの症状を止めてくれ、頼む!」
「諦めな。この状態異常に効くポーションはまだ出回っていない。レシピどころか素材もありゃしないんだ」
「そんな……」
「ノワール」
誰かがボソリと言った。興奮したように歓喜の声を上げている。完全に目がイっている。正気じゃない。だけどその声がやけに耳に残った。
「ノワールが復活したんだ! 側だけじゃない、内面も!」
その感情だけで何の信憑性も無い言葉に、妙に納得した自分がいた。
ノワールの復活。誰かが望んでいた未来にたどり着いたのだろう。
それがムサシさんの手によって引き起こされたのなら、遅かれ早かれ至った道だ。
だけど、本当にアレがノワールなのか? 掲示板で噂されているよりも8割り増しで最悪じゃないか。タダでさえ、能力でさえ手に負えないのに、あんな野生の獣みたいなものがノワールだと!?
「ムサシさん、あんたはいったいなんてものを復活させたんだ……」
それがオレを含めた被害者の総意であった。
『こんにちは、ウッディさん。そこの雑木林借りていい?』
「やあミュウ君、今朝ぶりだね」
『うん……』
「少し暗いね。どうしたんだい? 僕でよければ相談に乗るけど。こう見えて人生経験は豊富でね。なんでも頼りたまえ」
『あはは、なんだかウッディさんが頼もしい。それで場所はお借りしても?』
「どうぞ。こちらとしても君に直々に手入れしてもらえるのなら願ったり叶ったりさ。ああ、そうそう。復元の際、気持ち色をつけておいてくれると嬉しいかな?」
『うん、わかった。わたしがこれから何をするかは聞かないの?』
「聞いて欲しいのなら聞くけど、君は聞いてほしくはなさそうだ。だから聞かない。それじゃ納得できないかい?」
『ううん、ありがとう。それじゃあまたね。ちょっとうるさくなると思うから他の人に伝えといてくれる?』
「わかった。みんなにはそう伝えておくよ。あまり根を詰めすぎるのもよくない……と、今の君には余計なお世話かもしれないけどね」
『ふふ、変なウッディさん。でも、そうだね。そうする。それじゃあ』
「うん、またね」
僕は彼女をできる限りの笑顔で送り出し、すぐに背を向ける。
時は再び流れ出し、それと同時に恐怖に飲まれた。心臓は煩いくらいに鳴り響き、生きてる喜びに打ち震えるように体へ血液を送り出す。汗腺からは脂汗が流れ出る。気づけば全身汗びっしょりだ。その不快感よりも、何よりも彼女におきた変化が気になった。
「なんだアレは……」
喉の奥から絞り出した声はいつもより皺枯れていた。喉は渇き切り、水分を求めている。
これがいつのまにかかかっていた<状態異常(バッドステータス):恐慌>による効果だろうか?
その恐ろしい効果を身を以て体験した僕は、脱力した体をなんとか動かそうとアイテムバッグを探り、しかし該当するアイテムが存在しないことに絶望した。
「クソッタレめ。起こしちゃいけないモノを目覚めさせたな。誰が、何の為に……」
ミュウ君……ノワールに連なる伝説にはいくつか目を通した事がある。
しかしその殆どが荒唐無稽な作り話に過ぎず、信憑性も何もないモノだった。
しかし本人に出会ってそれを確信する。
アレは違う。全く別の存在だ。
精霊である事とかどうでも良いぐらいに思考が別ベクトルにある。
だからこそ彼女は英雄足り得たのだろう。それをなんでもないかのように振るう彼女が怒っていた。
それがどれほどの効果を及ぼすかはわからないが、ただ一つわかることがある。
それは彼女があそこまで怒る出来事が午前中に起こった事だ。
それが誰の陰謀かはわからない。それが誰にどれぐらいの規模で振るわれるのかも分からない。
僕が思うのは “余計な真似をしてくれた” ただそれだけだ。
まだほんの初期症状。僕の妻も普段は優しいのに、一度拗れると半年は口を聞いてくれない。それぐらいに怒りが長引くのだ。だからこそわかる怒りの症状。
普通に話しているのにもかかわらず、圧力がすごくて冷や汗が止まらないのだ。
にも関わらず、それがミュウ君の場合は死を悟ったのだ。生き残ったことを喜ぶように心臓は跳ね、呼吸ができることを体が喜んでいる。だがこれだけで終わるはずがないことは火を見るよりも明らか。
見ているのだ。僕は彼女の力を目の当たりにしている。一般常識の斜め上の能力を当たり前のように振るう彼女が激情に任せて力を振るえばどうなるかなんて想像に容易い。
まず最初にフィールド全体に激しい縦揺れが起こった。地震ではない。
イマジンの街に今まで一度も地震など起きたことがないからわかる。
次に雑木林の木が一本残らず宙を舞ったのだ。雑木林だと思ったエリアは更地になり、そこにミュウ君が歪な笑いを浮かべて立っていた。
おかしい。精霊に……特にドライアドは表情の変化に乏しいはずなのに。
彼女はとても豊かな表情で笑っていた。三日月を思わせるほど口が裂けていた。
ただそれだけなのに、地の底から滲み出るような笑い声が聞こえた気がした。
そこへ打ち上げた木がミサイルのごとく降り注いだ。だけどミュウ君は一歩も怯まずに降り注ぐ木を浴びていた。
高笑いが聞こえる。いや、笑ってはいない。声は聞こえない。地響きだけがしつこいくらいに鳴り止まない。でも笑っているように口が裂けていた。不安になる。あの顔をずっと見ているのはひどく不安になる。怖い、怖い、怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
音が止んだ時、そこには惨状が広がっていた。雑木林なんてものは地図上から消されてしまったかのように、否。初めから存在しなかったようにそこはほじくり返された土だけが無残に広げられていた。これが一人の人物が引き起こしたことなのか。
同時に絶対に怒らせないようにしようと心に何度も刻み込む。
やがて耕されたエリアは淡い光に包まれた。この光景は知っている。《復元》だ。死の大地に再び緑が咲き誇る。芽が出てそれが大きくなり、成長が早送り再生していくようにそこへ再び雑木林……なんて生易しいものではない。ジャングルが出来上がった。
でも、これで終わりじゃないことはわかる。だって彼女は笑っていたから。可笑しそうに笑っていたから。そして木が、見たこともない生態系の木が、飛ぶのが当たり前のように宙を舞った。次々と宙を舞う姿はまるで曲芸でも見せられているかのような気分にさせてくれる。
けどそれがそういう類のものじゃないことは彼女の顔を見ればわかる。アレは違う。楽しんでいない。いや、愉しんでいる? わからない。僕は彼女が分からない。さっさとこんな場所を逃げ出したいのに、腰が抜けて一歩も動けない。
逃げなきゃ死ぬ。しぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬ
……あっ。
変な声が出た。
それがどんな心境で出た声であったかはわからない。ただ、これが当たれば死ぬなぁ。
そう思わせる巨木が僕とすぐ後ろにあるログハウスに影を落とした。そんな時に喉の奥からそんな声を出していた。
意識が途切れる直前、彼女の声を聞いた気がする。
怒っているような、泣いているような、それを笑ってごまかしているような悲しい声。いつまでも耳に残る声だ。
その声をBGMに、僕の意識はそこで途切れた。
◇side.アーサー
最近は森林フィールドにプレイヤーが持っていかれてしまったが、草原フィールドボス前はそこそこ賑わっている。
「アーサーさん、ちょっとこっち来てください」
「なんだ?」
『こんにちは、アーサーさん。次やりたいんだけどいい?』
「ミュウさんか。悪いけど一番最後に並んでくれ。みんな順番を守ってくれているんだ。たしかにミュウさんは強いけど、そういう問題じゃない。こういうゲームだからこそのルールはある。マリさんもそういうことを教えて欲しいよな」
『わかった』
「そうか、わかってくれるか。それじゃあ最後尾に案内しよう。こっちだ」
『全員居なくなれば良いんだね?』
「は、何を?」
何が起きたかは分からなかった。瞬間ぞくりと肌が泡立ち、気がつけばオレ以外の全員が光の粒子を撒き散らしていた。
『これで順番待ちしている人がいなくなったね。参加していい?』
「何を……あんたは一体何を!」
『……アーサーさんもわたしの敵?』
その言葉を聞いてオレは声を出せなくなった。その目を見て、オレは……オレは? オレは何をしていたっけ?
気づけば天井のシミを数えていた。見渡せばつい先ほどまでボスエリアの前で屯ろしていたパーティが全員ベッドの上で頭に疑問符を浮かべていた。
どうにも思い出せない。
最後に誰かの顔を見た。
そうか、ログを見れば良い。
そう思って、ログを覗いて……
<プレイヤー:ミュウによってキルされました>
その言葉の意味を脳が理解できなかった。
「キル……された? オレが……ミュウさんに?」
いったい、どんな理由で?
「アーサーもか? 一体どういうことだ? 彼女がノワールである事は周知の事実だ。だけど彼女にはちゃんと良心も思いやりもあった。そんな彼女だからこそオレたちは一般プレイヤーとして変に騒ぎ立てるような事はしなかった」
「ああ……」
「だが今日のはどういう事だ? まるで感情だけで動いている獣そのものじゃないか! ただ自分の意見が通らなかっただけでキルされた。
あんたがあの子を一番よく知っているって、だから任せたんだぞ!? どう責任を取るつもりだ!」
「分からない、彼女は本当にミュウさんだったのか? 彼女の目を見ると鳥肌が治らないんだ。頼む、だれかこの症状を止めてくれ、頼む!」
「諦めな。この状態異常に効くポーションはまだ出回っていない。レシピどころか素材もありゃしないんだ」
「そんな……」
「ノワール」
誰かがボソリと言った。興奮したように歓喜の声を上げている。完全に目がイっている。正気じゃない。だけどその声がやけに耳に残った。
「ノワールが復活したんだ! 側だけじゃない、内面も!」
その感情だけで何の信憑性も無い言葉に、妙に納得した自分がいた。
ノワールの復活。誰かが望んでいた未来にたどり着いたのだろう。
それがムサシさんの手によって引き起こされたのなら、遅かれ早かれ至った道だ。
だけど、本当にアレがノワールなのか? 掲示板で噂されているよりも8割り増しで最悪じゃないか。タダでさえ、能力でさえ手に負えないのに、あんな野生の獣みたいなものがノワールだと!?
「ムサシさん、あんたはいったいなんてものを復活させたんだ……」
それがオレを含めた被害者の総意であった。
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