俺だけ✨宝箱✨で殴るダンジョン生活

双葉 鳴

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霊獣は居るだけでお得、それが新常識!

34話 聖地巡礼

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 空港から降りて、俺と要石さんはニュージーランドと南米大陸と南極大陸の中間付近の海上都市へと降り立つ。
 都市の名前はル・ルイエ。

 何か冒涜的な種族が神性復活を企むような陰謀が見え隠れするネーミングだが、そんな事実はない。
 ただその場所が曰く付きで安く売られていたから建造したとはアイリーンさん談。

 この場所はアイリーンさんのプライベート別荘地の一つだったが、あまりに仕事が激務だったために金に物を言わせて作らせた場所らしい。
 何故か建てられた教会は聖女教と呼ばれ、世界中の聖女候補が聖地巡礼として巡りに来てる。
 単純に特級聖女のアイリーンさんにあやかりに来るのだとか。

 ちなみにここを巡礼したかどうかで最終目的地のアメリカでの待遇も大きく変わるそうだ。
 基本的に聖女教は国境なき医師団のような傭兵的存在だ。
 提供するのが戦力ではなく医療なので本当に国境なき医師団に喧嘩を売ってるが、基本的に医療で手に負えない状態でのみ手を差し伸べる。

 何故最初から助けないか?
 力があるのなら無償で配るべきではないのか?
 そうした当たり前の声に耳を貸さないのはかつてそれで搾取の限りを尽くされたから。
 医療と違って聖女の奇跡はそれこそ寿命を削って相手を癒す行為だ。それを安売りしないのは若き聖女の芽を積まない為だったが世間の目はそれを許さなかった。

 世間では金と権力に屈した悪魔の使いと言われてるが、それは身に余る医療行為を引き受けないでいたからだ。
 安請け合いして身を滅ぼさないために、一般医療行為の補助をできる者を下級聖女。
 一般医療の時短とも言える奇跡を起こせるものを中級聖女。
 命の喪失からの復元、蘇生を可能としたものを上級聖女と分けた。

 敢えて分けたのは聖女の身を守るためだ。
 医療従事者だからと全ての分野で活躍できるわけではないのと同様に、聖女と一括りにされてもできることには限りがあるのだ。
 世界中で活躍する聖女は2000人は超えるが、上級に至れるのは20人にも満たない。
 その中で頂点に立つのがアイリーンさん。
 特級という立場の持つ名声と権力は国が動いてようやく受理される。個人からの強制力を撤去した言わば探索者のSランクと似通っていた。

 そんな場所に入り込もうとする彼女の身を守るため、俺は過剰なまでに身を乗り出して周囲に警戒を配っている。
 あまりの不審者っぷりにご本人から突っ込まれてしまった。


「頼っち、空港から出るなりどうしたの? 変なポーズして」

「要石さんが周囲から舐められないように警戒してるんだ」

「あっははは、心配しなくても大丈夫だよ。これからいろんな人の前で仕事をするんだよ? あたしとしてはこれくらいでびびってられないって。ほら、行こ?」

「む、むぅ」


 どうやら考えすぎなのは俺だけだったようだ。
 彼女の方が全然大人だった。
 ギャルの見た目なのに恐るべし、要石カガリ!
 腕を引かれながら全然頼られることもなく聖女教会のエントランスへと赴く。


「日本から来ました要石カガリです」

『要石様ですね、ご予約は承っております。ですがお一人様だったはずでは? そちらさんは』

「付き添いの飯狗頼忠っす。アイリーンさんとは一度お仕事した事があります」

『まぁ、では貴方が噂の? その節はうちのアイリーンがお世話になりました。あれ以降見せつけてきて困ってるんですよ?』


 受付のお姉さんは困ったような、恐れ多いような顔で眉をハの字に曲げた。
 きっとその後個人的に相場で取引したレインボーボックスと虹の鍵の件だろうな。
 きちんと司法を挟んでの取引なので損はない。

 向こうは背中にくっつくコアラ型の霊獣(ユーカリ)を背に、お母さんコアラのように見せつけてくるようになったのだとか。
 普段厳格な彼女が砕けた笑みで迫ってきたらそりゃ誰だって困るだろう。


「うちの子達もよろしくお願いします」

『あら、そう言えば飯狗様も霊獣持ちでいらしましたね……ってえぇええ!』


 受付のお姉さんが俺の後ろにぴったりくっついて目立たないようにしてる6匹のうさぎ(デカい)を見て悲鳴に近い声をあげた。


「ほら、散った散った」

「キュイ」

「キュイー♪ 」


 手を振ると人に慣れた態度で散らばるピョン吉達。
 人見知りする性格ではないと知って二重の意味で驚かれたが、ああまで人間のような仕草をする巨大生物は見慣れてないのか軽く腰を抜かされてしまった。
 もふもふは可愛いだろう?


 ◇


 そのまま案内人に引き受けされて俺たちは聖地という名のリゾートホテルを案内される。
 どこでアイリーンが寝たとか、戯れたとか。
 あやかった商品がそれぞれ独立する抱き合わせ販売で利益を得ているようだ。
 要石さん以外の聖女見習いがこぞって買い込んでいた。


「何か欲しいのある? あるなら出すぞ?」

「知り合いの顔写真入りマグカップとか流石にいらないかなぁ」

「だよなぁ」

「私はこういうのでいいよ?」


 手に取ったのがお土産売り場で売られている安っぽいアクセサリー。歪な形の水晶のネックレスで、それは合わせるとピッタリとハマり、水晶の中にハートを浮かび上がらせる。

 うちの彼女ときたらなかなかにロマンチストじゃないでしょうか?
 それに比べて俺ときたら金に物を言わせて豪遊しようだなんて彼氏失格だぜ。


「俺も、それが良いな。気に入った」

「良かった、アイリーンさんの顔に見惚れてあたしを見てくれなかったら嫉妬するところだったよ」

「えっ」


 そういう理由?
 恋人のちょっとした言葉に頭を殴られた気分になる。
 それってつまり寝ても覚めても要石さんの事を思い浮かべてて欲しいって事?


「えへへ、ちょっとクサかったかな? 頼っちってば本気にしてる? 冗談だよ、ジョーダン」

「だよなぁ、分かってるよ」


 冗談だと言いながらもやたら意識してるのは理解してる。
 言ってる本人の耳が茹で上がりそうなほど真っ赤だったから。
 お揃いのネックレスはお互いに付け合って、それを大事そうに実った胸の上に載せているときは思わずドキッとした。

 半身とも言えるネックレスをそこに置くということは……そういう事?
 期待しちゃっても良いのか?
 むくむくと膨れ上がる期待に俺は上機嫌で行動し、そして聖女の正装姿に着替えた彼女に見惚れた。

 この場所は聖女のための聖地であり、そしてこれから聖女になる卵に聖女になった後の正装姿も堪能できる写真館まで揃っていた。

 いつかその場所にまで上り詰めるぞ、と聖女候補は皆意気込みを胸に抱いていた。
 要石さんもまた、負けないようにと唇を引き締めている。
 しかしそんな彼女に向かってくる集団があった。

 妙に聖女服を着慣れた一団だ。


『彼氏連れとか随分と余裕だね。聖女教はそんな甘いとこじゃねーぞ?』

「何故、そんな事を聞いてくるんですか?」


 聖女、と言われるように女社会で成り立つ教会本部。
 突然の乱入者に困惑するのは俺たち以外にももう一人。
 案内役を応せつかさった案内人のお姉さんもである。

 一眼見て相手が下級聖女と知り、どう説明したものかと逡巡してるところで迎え撃ったのが要石さんという感じだ。
 ここは本当に聖女の巡礼地なのか? というほどヤンキー漫画の世界のような様相を呈している。


『んなもんさぁ、聞かれなくてもわかんじゃん? あんたは一生絶対下級聖女に上がれない』

「何故そんな事がわかるんです?」

『あたしらは家族と男捨ててこっちで生きてるからだ。だから男にかまけてるあんたに負ける道理はないね!』

「そもそも勝ち負けに何の意味があるんです? あたし達は他人の命を導く尊き存在であるべきです。残念ながらあなた達からはそのような意志は感じ取れません。失礼ですが貴女達が未だに下級聖女で燻っている理由はそんな精神性でいるからではないですか?」

『なんだぁ、テメェ?』


 瞳孔が開かれ、人一人殺してきたようなさっきを載せる自称下級聖女の集団に全く動じない要石さん。
 そういえば彼女もヒュドラゾンビを100戦して生き残ったメンタル持ってんだよな。
 そりゃちょっとやそっとの威圧でビビるわけないわ。

 エダとの配信でも言われて気がついた。
 それを言われたらメンタル面での慎の成長も目を見張るものがあったしな。
 俺が前に出るまでもない。
 そんな時に背後から声がかかった。


『ちょっと、私の滞在中に何の騒ぎ? 揉め事とかやめてよね?』


 聖女の頂点であるアイリーン・クルセイドその人である。
 下級聖女の一団からしてみれば天上の上の存在の降臨に心臓を鷲掴みされるが如く。
 たちまち恐縮しながら縮こまった。
 それに比べてうちの彼女ときたら肝の座り方が素人の域にいない。


「あ、アイリーンさん。聞いてくださいよ、この人達が突然突っかかってきて!」

『あら、ミスカガリじゃない。聖女になるって話は引き受けてくれたのね。そしてミスターヨリタダ、あなたも同伴? 久しぶりね、元気してた?』


 特に驚くこともなく、プライベート中の彼女は変装用のサングラスをとって髪をかき上げた。
 中身の銭ゲバ具合を知らなければ一目で恋に落ちそうな美貌である。相変わらず顔がいい。
 が、背後に構える霊獣は暗殺者のような硬い表情をしていた。
 仕事モードのアイリーンさんのようである。


「アイリーンさんも相変わらずのようで。そっちの子も太々しい顔してますね。やっぱり飼い主に似るんですか?」

『あら心外ね。普段からこんな気難しい顔してるわけじゃないのよ?』

「俺も周囲からの要求が多すぎてそんな顔したくなりますよ」

『聞いたわよ、Sランクに昇格したんですって?』

「そうなんですよ。彼女が聖女になるのにいつまでも探索者のままじゃヒモ扱いされそうなんで」

『あら【勇者】からの話では政府にこき使われたくないからだと聞いたけど?』

「そりゃ誰だって仕事とはいえこっちに労りゼロの依頼なんて受けたくないですよ」

『アッハハハハハ、言うわね。私もそれくらい強気の姿勢で断れば良かったのだけど、流石にそこまで開き直れなかったわ。私にはこの癒しの力しかなかったもの』

「俺は身近に苦労人が多かったので特にそっちが突っぱねてずっとCに居座ってました」

『本当貴方は規格外ね。それで、何かトラブル?』

「いえ、先輩方とちょっとおしゃべりしてただけですよ。な、カガリ?」

「はい。ただ少しだけ聖女に対する解釈違いがあったの熱が入ってしまっただけです」

『ふぅん、私が介入する必要はないわけね?』

「一つの貸しがとんでもない物要求してくる人相手に貸しは作れないですからね」

『あらバレちゃった? 実はオーストラリアのダンジョンにSクラスのダンジョンができたのだけど、メンバーを募集してたのよね』

「ほらー、断って正解なやつ!」

『アメリカのジェイムス氏は志願したらしいわよ? 貴方はどうかしらと話を振っただけじゃない。当然私も政府からの要請で行かざるを得ないのよ。貴方がきてくれたら随分と進行が楽になると思ってのお誘いだったのに』


 やっぱり恩に着せて行動を共にしろって無茶振りしてくるやつだったじゃねーか!
 危ねぇ。
 アイリーンさんを見送り、俺は要石さんとポケっとしてるヤンキー聖女集団に意識を戻す。


「で、まだ俺たちに何か用がありますか?」

『ひ、ひえええええ! お助けーーー!』


 にっこり微笑んだだけなのに化け物に遭遇したように逃げ出された。失礼しちゃうな、ただこの能力のおかげでやたら権力者が寄ってくるだけだってのに。
 いいこと以上に厄介ごとが舞い込んでくるからメンタルはだいぶタフになったよな。


「頼っち、さっきはありがとね?」

「ん、何が?」


 要石さんなら余裕で乗り越えられただろうに、何故か感謝されてしまう。え? ちょっと意味がわからないですね。
 それとも人の悪意に触れすぎてちょっとしたことでも気にならなくなっただけか?
 やべぇ、普通の神経がどんなもんだったか忘れて来てるぞ?


「な、何でもないよ。カッコよかったなって、それだけ!」

「そりゃよかった」


 それからは俺は余裕の態度を醸し出し、彼女と手を繋いで聖地を巡礼した。
 このプライベート施設の代表と顔見知りという免罪符は案内人のお姉さんどころか、先ほどいちゃもんをつけてきた巡礼中の下級聖女にもその日のうちに広まったとか何とか。

 ま、それも彼女の実力があってからこそのモンだけどな。
 俺? 俺は彼女を信じて待つのみだよ。
 アメリカにある聖女協会の支部でも暮らしは清貧だと聞くし、男子禁制の場所。

 会えない時間が多いからこそ、一緒に買ったネックレスが相手をより思い出させるのだ。
 確かにこれでアイリーンさんの顔写真入りマグカップを買おう物なら浮気を疑われるわ。
 彼女がいい顔しないのもわかる気がした。
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