ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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5話 誤算(side葛野洪海)

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 万全を期すために俺は全ての不安要素を取り除き、その時に対応した。

「今日はSSSSランク探索者の、轟美玲様がお越しくださる。俺の代でも変わらぬご愛顧をしていただくために誠心誠意の真心を込めて接客するように」

「「「「はい!!」」」」

 スタッフの気合いは十分だ。問題はないだろうが、一応調理場も覗くか。
 そう思った俺の耳に入ったのは、新しく雇い入れたスタッフに対しての非難だった。

「おいテメェ! この食材は轟様がお口に入れる大切な食材だぞ!? 何白く濁らせてんだボケェ!」

「は? だったらおまえがやってみろよ! こんな透明な体に透明な肝! 特殊調理食材を下っ端にやらせんじゃねーよ! それともお前ら何か? こんなものは下っ端の仕事だとかほざくのか? だったら手本見せてくださいよ、手本をよ!」

 総合ステータスBのスタッフが、親父の肝煎りスタッフに喧嘩腰の場面と出会した。
 総合Bにも関わらず、ダンジョンセンターで燻っていた男をヘッドハンティングしてきた俺に落ち度はない。
 あるとしたら親父のスタッフの方だろう。

「一体何の騒ぎだ。今日は大切なお客様を迎え入れる日だと言うのに」

「オーナー、それがあの新入り、全く使えないやつでして……」

「俺の目利に問題があるって言いてぇのか。一体何のヘマをやらかした。正直に言えよ? 俺も気が長い方じゃない」

「今日ご用意した空ウツボが全部ダメになりました」

「だったら今すぐ買い付けて来い! まだ市場にいくつか出回ってんだろ!」

 ついつい大声になってしまう。こんなの冷静で居られるか。
 まさか代を継いだ側からの失態なんて笑い話にもなりゃしねぇ。

「それが、今日は地域おこしの誕生祭でツテを回りましたが全て品切れらしく……屋台を回ってもすべて下処理されたあとらしくて」

「下処理されてんならうってつけじゃねーか。それを買い付けて来い」

「あんなゲロまず食材を買えと? 俺たちプロの料理人を舐めないでください! そもそもこうなったのは全部あんたの低ステータス嫌いが原因だろ! うちの店は本宝治の下処理があって回ってたんだ! よそ者が勝手に現場を仕切ってメチャクチャにしやがって! 今日のディナーを失敗したら俺たちは料理人としてやってけなくなる!」

「はぁ?」

 何を寝ぼけたこと言ってんだ。
 あいつは総合Fのクソ雑魚じゃないか。
 そんなとろくさいやつが厨房に入ったって足を引っ張るだけ。
 なのにどうして親父の肝煎りスタッフはあいつを庇いやがる?
 あいつが出て行く時、誰も引き留めなかっただろ?
 所詮その程度の間柄ってやつだと踏んでたが、まさか揃いも揃って腰抜けだとは。
 これは俺もヤキが回ったか?

「どちらにせよ、今ある食材でどうにかするしかないんだ。俺の方でもあいつの代わりを見つけてきてやる。特殊調理食材の講習だってお前らやってるだろ?」

 この場にいる調理スタッフの全員が黙り込む。

「おいおいお前らマジかよ。それでこのレストラン回せんのか! 今から本でもなんでも読んで頭に叩き込んでこい!」

「本宝治を戻すと言う考えにはなりませんか?」

「なるわけねーだろ! あんなクソ無能。無能が一匹いるだけでパーティ全体が足を引っ張られる。お前らは腐った食材と一緒だ。無能に触発されて楽を覚えちまった腐った食材になっちまってるんだよ! だが腐っていても上手く食おうとするのが日本人だろ? このまま腐ったままでいることを俺は許さん! 熟成調理なりなんなりして己の限界を見極めろ! 出なきゃ総とっかえだと思え、いいな!」

 我ながらいいセリフを言ったと思った。
 あのクソ親父、俺には散々厳しく接してきやがって。
 親父のスタッフは全員腑抜けじゃねーか?

 無能でも使えればステータスが低くても使う?
 それですっかり優秀なスタッフが腐っちまってんじゃねーか!
 こりゃ洗い直したところでぐずぐずのドロドロだ。
 そのまま奪えば元手0で楽できると思ったが、とんでもねぇ爆弾を抱えてやがった。

 だが、今日を乗り越えればまだチャンスはある。
 世界的探索者の轟美玲さえ上手く騙くらかしゃ、資本金はガッポガッポ。
 所詮適合食材なんざ味まで求められてねーからな。

 レベル上限さえ上がれば、味は不味くても食う他ない。
 探索者に取ってそれが一番辛いところだぜ。
 レベル50の俺が言うのもなんだが、我慢の果てに強さが手に入るんだから我慢してでも食うよなぁ?

 そんな俺の考えが表情に出てたのかホールのスタッフに注意を受け、改めて貸し切り相手を迎え入れた。

「お待ちしていました、轟様」

「誰? オーナーはご不在?」

「前オーナーの正式後継者である葛野洪海と言います」

 チッ、本国のAランクの顔くらい覚えとけよ。
 内心舌を打ちつつ、表情は変えずに接客する。

「そう、極さんはご病気で?」

「事故で下半身付随で」

「そう、それは知らなかったわ。5日前に予約を入れた時はピンピンされていたから」

 迂闊! そんな直近にアポ取ってたのか、この女。
 予約なんて毎年のことなんだからその時にするもんじゃねーのか?
 俺以上に常識ねーぞ?
 だが、常識がないからこそ、付け入る隙がある。
 そう思って俺は我慢をした。

 スタッフに発破をかけてなんとか誤魔化す。
 所詮味なんか気にしちゃいねーんだ。ここで上手く騙くらかせば……そんな俺の考えを見抜いたか、女が不満そうにフォークで刺したそれを見せつけた。

「ねぇ、なんでこれこんなにゴムみたいなの? いつもの空ウツボはナイフを使うまでもなく解けるのよ? これは一体何? フォークで刺して持ち上がる商品なんて頼んでないのだけど?」

「今すぐ作り直させます!」

「そうして頂戴。次あたしの前に不快な物体を持ってきたらどうなるか覚えておいて頂戴?」

 不気味な女だ。
 生まれながらにSになる素質を持ち、初期ステータスがFからスタートだった癖に瞬く間に日本のトップを背負って気にくわねぇ!

 本来そこは俺の席だろうがよ!
 女なら男の後ろに下がってろってんだ。

 イライラが限界突破する。
 あとでダンジョンによってモンスターにストレスをぶつけねぇと。
 そう思ってる俺だったが、ついにあの女は俺の堪忍袋の緒をぶち切らせる行為に出た。

 作り直させた料理に一切口をつけず、サービスにクレームを入れ、更には俺の管理がなってないことを指摘。
 結局さんざん俺を揶揄った後に金も払わず店を出て行きやがった!

 違約金を訴えようにも、相手は世界的トップ。
 親父の時はうまくいってたのに、俺がオーナーになった途端にこうなるなんて、誰かが裏で手を回してるに違いない!

 そう憤る俺は、鬱憤を晴らすように厨房のスタッフを総とっかえするのだった。

 中途半端に一人入れ替えるからダメだったんだ。
 全部俺の意見を聞く部下を入れるのが一番いい。
 親父の顧客は失うが、あのクソ女が離れた時点でどうせ遅かれ早かれ客は離れる。新生モーゼは、俺の代は新規顧客を開拓することを決意した。

 親父ぃ、テメェの店は俺がうまく活用してやるからヨォ、あの世で俺の出世を見守っててくれよな!

 ※死んでません
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