ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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12話 希望の光

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 あのミィちゃんが轟美玲本人だと知ってびっくりした。

 ヨッちゃんもヨッちゃんで俺の記憶力の悪さは問題だって呆れてたっけ。

 そう言われても、記憶の中のミィちゃんと今の姿が別人すぎるから仕方ないよ。

 昔は誰に対してもオドオドしてて、今は傲岸不遜。
 でも確かに顔立ちは似てた。

 そうか、ステータスが誰よりも上がったからそうなっちゃったんだな。
 俺だってそうなる可能性もあるんだ。
 ミィちゃんばかり責められないな。

 なるべくそうはならない様にしたいが、取り巻く環境次第でそうなりかねないんだろう。俺も気を付けよう。

「いやぁ、ポンちゃんがまさかあの轟美玲と知り合いだったなんて知らなかったな」

「俺自身も驚いてる」

 事実だ。でも、立派に成長した姿を見て俺も負けられなくなった。
 おじさんになってからのスタートじゃ、追いつけないかもしれないけど……挑戦そのものに意味はあると思うんだ。

「けどお土産で過剰にもらったコレ、どうする?」

「良かったら使って」とマジックポーチごと押しつけられた元の原型を留めてないミンチ肉。コレがポーチの中から無尽蔵に出てくる。

 ある意味食材には困らないが、肉が何か特定できない限り困るのは俺たちだ。

 実はドラゴンの肉でした! だなんて判明したら笑えないからな。
 一つの部位だけで時価数億円。

 血の一滴や肉片の一つにまで価値がある。それがドラゴンという存在だった。
 まぁ、そんなわけないな。

 もしドラゴンだったらミンチ肉にだって価値がつく。
 彼女はこの肉素材に価値はないと言い切った上で渡してきたのだ。

 その上でポーチの中はミンチ肉でいっぱい!
 他の何かを入れたらミンチの海に紛れて消える、そんな未来さえ見えた。

 ならここは料理人として料理に仕上げてしまおう。
 そういう意味で手渡してきたんだろうし。

「まずはいろいろ作ってみよう。最初は手ゴネハンバーグ、そのあとはつみれ汁だ」

「どっちみち食ってみなきゃわかんねーもんな!」

「この配信を見てるみんなも、この肉がなんのお肉か考えてみてくださいね」

 一応議題として投げかけておく。
 この問答の有無で視聴者側が率先的に情報を集めてくれるそうだ。

 ほぼ肉だけで練り上げたハンバーグ。
 それを同じ肉の油脂を使って熱した鉄板の上で焼き上げた。
 すごい量の肉汁が溢れる。

 その油だけでハンバーグが焼けてしまうほど。
 焼いてる匂いにいつも以上にゴブリンが襲ってきた。

「ヨッちゃん! 俺は今手が離せない!」

「まかしとけ! 晩酌のお供にしてやるぜ!」

 すっかりゴブリン肉に味を占めたヨッちゃんはいつも以上にキレッキレの動きで氷魔法を投げつけた。

 なんだったら当てた場所を起点に氷結させまくる離れ技で一網打尽にした。

 やっぱりヨッちゃんは凄い。ヨッちゃんのお陰でいつもキンキンに冷えた発泡酒をいただくことができるのだ。
 やっぱり俺には欠かせない相棒だ。

「討伐完了! 先に解体しちまうな!」

「了解! こっちも仕上げに入る!」

 ハンバーグはあまり押し込まず、鉄板に蓋をして余熱で焼き上げた。

 こんなにふわふわでとろとろにお肉を扱うのは初めてだ。
 綺麗な赤みにサシが入っている。

 もう見てるだけで美味そうだが、ここで刻んだ玉ねぎと肉汁、卯保津さんが差し入れで持ってきたワインを合わせたソースを作ってハンバーグに合わせてかけた。

「…………」

「…………」

 二人して無言でハンバーグの匂いを満喫する。
 どちらが先に手をつけたか記憶にない。
 口の中の涎が最大限に溜まって決壊しそうになった方から先に動いたのは確かだ。

 一口食べた後は、褒め言葉ひとつ浮かべず、無言で食べ勧めた。

 美味い、それに尽きる。

 あんまりの美味さに皿を舐める程。
 視聴者に行儀の悪いところを見せてしまったが、俺が今まで食ったどの肉よりも格別だったので許して欲しい。

「気がついたらオレのハンバーグが消えてる」

「俺もだよ」

 以前の空ウツボ同様、鉱物を目の前にしたときの現象をオレは体感していた。
 しかし、レベル上限が上がる素振りは見せない。
 あまりの美味さに好物と錯覚してしまったようだ。

 もっとゆっくり味わっておけば良かったという後悔と、誰かが盗んだ! という猜疑心で頭の中はいっぱいになっている。

 が、謎肉のミンチはまだまだ大量にある。

「とりあえず、おかわりいるか?」

「10個くれ!」

「じゃあ俺は12個食おう。と思ったが鉄板が小さいな。コレじゃあそんなに並べられないぞ」

 サイズは手のひらぐらい。なんならもっと大きくてもいいが、ここにきて鉄板のサイズが小さいと思うとは、とんでもない食材と出会ってしまったものだ。

 もし俺が食うだけの客だったら、もっと無理強いしたと思う。
 それほどの美味だった。

 多少塩コショウは振ったがそれだけだ。それ以上に肉が何物も寄せ付けないくらいに美味かった。そのまま食べたいほどに夢中にさせる。
 まるで麻薬の様だった。

「ヨシ、思い切って鉄板買うぞ鉄板! もっと大きな奴だ。コレで十数人分まで同時に焼けるぞ! ガハハ!」

「その荷物を誰が持つと思ってるんだよ?」

 ほろ酔い配信なのでいつも気の大きなことを言うヨッちゃんだったが、この日ばかりは思わず賛成しかけた。

 で、鉄板が小さいなりに焼きまくって食いまくった。
 そこに食材があるならなりふり構わず作る。当たり前だよなぁ?

 最初こそツミレ汁も予定していたが、その日はハンバーグ以外のメニューが思い浮かばないほど魅了されていた。

 腹が膨れるほどにハンバーグを食い、不思議なことにヨッちゃんは魔法の使用回数が尽きずにゴブリンを討伐し切った。

 どうやらこの肉で作ったハンバーグは、魔法の使用回数を回復する効果を持ち合わせていたらしい。

 そして俺の中でも、小さな変化を起こしていた。

 ──────────────────────
 名称:本宝治洋一《ぽんほうちよういち》
 年齢:30
 職業:ダンジョンシェフ、配信者
 ──────────────────────
 レベル1/100
 筋力:F★【⬆︎】
 耐久:F★
 魔力:E★
 精神:F★
 器用:E★【⬆︎】
 敏捷:F★
 幸運:F★【⬆︎】
 総合ステータス:E-
 ──────────────────────
 <固有スキル:特殊調理>
 包丁捌き、目利き、料理バフ
 ──────────────────────

「えっ!?」

「どうした、ポンちゃん!?」

「レベルが……レベル上限が上がってる!」

「な、なんだってー!?」

 まさかこの謎肉が俺の適合食材だったとは。
 一体なんの肉なんだ?

 謎が謎を呼ぶ、謎のミンチ肉。
 ただ俺たちはその場に立ち尽くす他なかった。
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