ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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28話 モンスター食材の新境地

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 クララちゃんと無事契約を結び、一度ダンジョンセンターへと戻ると先ほど見かけた一向と出会した。

「倉持さん、無事だったか!」

「ええ」

 何かをアイコンタクトで交わし合う若者達。
 どうやらイレギュラーが出たことを伝え、応援を呼んでほしいみたいだ。

「本宝治さん、お疲れ様です。そちらの子は?」

「ちょいと拾ってね。イレギュラーに食われかけてたのを間一髪で救出した。でも間に合わなかった子もいたみたいでな、これだけ持ち帰ったよ」

 ライセンスを手渡すと、先程の少年達の話と擦り合わせるように何かを確認する。

「了承しました。それでイレギュラーはなんだったのでしょうか? 彼らの言い分はチグハグで、要領を得ないのです」

「よかったら喰います?」

「あ、もう倒された後でしたか」

 話のやり取りで察したのか、ほっとした様子で串焼きを手に取る受付のお姉さん。俺たちとの会話なんてやり慣れてるもんだ。

「倒した? あんなデカブツを?」

「おい、どうする?」

「クソ、こんな冴えないおっさんが凄腕だなんて聞いてないぞ!」

 何やら揉めてる様子。
 確かに逃げられるもんなら逃げてた。

 けど俺がミンチ肉の専門家で、ヨッちゃんの適合食材だって言うんなら話が変わってくる。

 乗り気なヨッちゃんを止められる術を俺は持たない。
 つまりは居合わせた相手が悪いっって奴だ。

「血が出るんなら殺せるだろ? それとも倒されちゃ不都合な事でもあったか?」

 ヨッちゃんが威嚇すると、少年たちはバツが悪そうな顔をして逃げていった。

 どうやら救援を呼んでる間にクララちゃんの事をうやむやにしようという腹づもりだったらしい。

「あの、あの子達はダンジョンの奥で何をしようと? こちらにイレギュラー報告をしたのはいいものの、事情を聞くと言葉を濁すばかりで……」

 どこかで罪の意識はあったのだろう。
 しかし成功体験が彼らを勢いづかせた。

 総合ステータスが高いから後回しにされたと言われたクララちゃん。
 今後のことも含めてダンジョンセンターから厳重注意してもらったほうがいいだろう。

「婦女暴行未遂だよ。彼女の自供で明らかになった事だ。残された仏さんは頭を食われていたが、何故か下半身が丸出しでなぁ。行為に及ぼうとしたところで……」

「イレギュラーに襲われたと?」

「そういう事らしい。俺たちは偶然奴さん達が逃げ出した先に向かってて、この子が食われかけてたから救出した」

「食欲による討伐が初めて役に立ちましたね!」

「それ、褒めてる?」

 受付のお姉さんはなんともいえない顔で俺たちを見据えた。

「それでなんだけどさ、彼女の保護と新規契約をする上でダンジョンセンターに間に入って欲しいんだよね」

「契約とは?」

「彼女の固有スキルに関する事だ。詳しくは彼女から聞いてくれ。俺たちは根っからの料理人で、そこに珍しい食材や調味料があればどこにでもいく。彼女のスキルは巡り巡って俺たちの興味の対象になるものと思ってくれていい」

「なるほど、ご本人は同意の上ですか?」

「ああ。今日は色々考えることもあるだろうし、一度家に帰してからうちらに連絡をよこしてくれ。連絡係をダンジョンセンターに任せたい。大丈夫かな?」

「承知しました。個人的にお酒のつまみを二品差し入れてくれたらこの件を飲みましょう」

「道中のやつで良かったら作り置きがあるぜ。ゴーストの刺身とゴーレムソーセージ、リビングアーマーハンバーグ。どれがいい?」

「名前からは味が想像できませんねー」

 どれも実態の無いものだ。なんだったら食おうだなんて選択肢のない奴。

 しかしつまみを所望する時点で飲み仲間。
 三つともくれてクララちゃんを任せた。
 こういうのは同性同士の方が気を許せるからな。

 翌日、クララちゃんが待機してると連絡を受けて接触。

 もう気持ちの整理は落ち着いたかと尋ねれば、気落ちしてる時間も惜しいと見た目からは想像もできないタフネスを見せた。

 それに救出時に分け与えた食事が忘れられないそうだ。
 妹の分も稼ぐべく、今は休んでいる時間さえ惜しいらしい。

 若いってのはいいね。
 俺たちはそういう情熱をどこかにおいてきちまった気がするんだよな。

「まずは性能評価も込めて行使してくれるか?」

「性能評価と言いますと?」

「相手が絶対に死んでる必要があるのか、気絶してるモンスターにも通用するかの確認だ。俺は包丁で切り付けることでモンスターを活け〆できるスキルがある。一度目は倒し切ったモンスターに使い、二度目は気絶中のモンスタに使う。それで全く同じようなものが出るならそれでもいいが、味の差を確かめる意味でも確認して欲しいんだ。もちろんそれぞれにお金は支払うよ」

「やります」

「よーし、ヨッちゃん! サクサク倒そう」

「オッケー」

 軽いノリに軽い反応。
 今日は女の子が同伴なので乾杯は控えめに。
 料理中以外での飲酒は控える方針だ。

「まずはゴースト、いっちょ上がり」

「はい! このモンスターに使うのは初めてですが……えい!」

 シビビビ!
 クララちゃんの手から光が溢れ出し、モンスターの居た場所に瓶詰めの塩が落ちた。以後、これらをゴーストソルトと呼ぶ。

 続いてエレメンタルボディに隠し包丁を入れてからの活け〆。
 この状態でスキルを使ってもらうと、少しだけ色味の強い瓶詰めの塩が落ちた。

「死んでなくても使えちゃいました!」

「今までもったいないことしてたね」

「でも、倒さずに気絶させるのは至難の業では?」

「駆け出しの子達には無理だし、効率は悪い。こういうことに意味を求めるのはうまく食べたい俺たちくらいのもんさ。さて手始めにハンバーグを作ろうか」

「食材はなんですか?」

「リビングアーマー」

「え、それって鎧を食べるってことですか?」

「まぁ、最初はそう思っちゃうよなー。これは食べてみてからのお楽しみって奴さ」

 ゴーストソルトを振ると、不思議と余計な水分が落ちる感じがした。
 揉み込むごとにもっちりとした感触。

 これはきっと美味いハンバーグができるぞ、という確信。
 これは是非蒸し焼きにしたい。

 ヨッちゃんにお願いして空気の層で蓋をしてもらい、火入れする。

 肉汁が溢れる事を予想して、深皿に盛り付けて提供した。

 ただこれだけじゃ見栄えの問題もある。溢れた肉汁でニンジンをグラッセにし、ポテトも合わせて提供。

 肉汁の残りでソースも作り、それぞれ実食。

 あ、これは新食感。
 ゴーストの独特の食感がリビングアーマーのミンチ肉に程よいアクセントを加え、更にはどんな原理で旨味を出してるかわからないソルトが肉の旨みを一層引き立てる。秒で皿の中身が消えた。

 誰もがおかわりを追求する中、俺は勿体ぶったようにもう一本のゴーストソルトを取り出した。

「一般のゴーストソルトでこれだけ美味いやつが、活け〆ゴーストソルトで調理したらどうなると思う?」

 今この瞬間、俺たちの気持ちは一つにまとまった気がした。

 さっきのでさえ秒で食べ尽くした。
 だがそれ以上のものがここにある。

 試さずにはいられない。
 そのために俺たちはここにいるのだから。

 味はここでは語り尽くせないほどの美味だった。
 これに単価¥5000は失礼に感じて、今日は5万円持たせて帰らせた。

 たった二回、スキルを使わせてもらっただけで俺たちは満足してしまった。

 やばい掘り出し物を見つけた。
 興奮冷めやらぬとはこの事か。
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