ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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115話 プロの本気:料理処・鮮焼

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 ファンガスによるあらゆる試行錯誤の末、俺の技量だけじゃプロの指示に従えないのもあって、素材の提供とその動画撮影を各店舗に任せることにした。

 名乗りを上げたのは俺の知り合い。

 ダイちゃんの実家である鮮焼、焼きの師匠でもある菊池さんだ。

 空ウツボ解体を教えた越智間さんのラ・ベットラ越智間。

 そしてモーゼの元オーナーが新しく始めた一期一会。

 この三店に、未知の食材であるファンガスを託した。

 本来それらの技術が表に出ることはなかったのだが、食材の無償提供が相まって向こうの判断で出せる場所と出せない場所を決めての動画公開と会いなった。

 俺も見ていて興奮している。
 店に食べに行っての驚きよりも、調理過程を見て興奮できるのなんて俺ぐらいだろう。

 そうかと思いきや、リスナーからも驚愕の声が届いていた。

 その理由は、なぜか向こうの動画からも俺の中継経由で匂いが届くのだそうだ。

 本人の動画からは見た目と音だけで十分うまそうなのに、俺の動画を通して臭いまで送られてきて、アルコール摂取量も段違いになっている。

 俺も可能な限りで真似して作るが、熟練の技量の前には手も足も出なかった。

 調理器具からして、それ専用のもの。
 俺も居てもたってもいられなくなり、やっぱり調理に赴いちゃうんだよなぁ。

 リスナーはどれを見ていいのかわからなくなってるに違いない。
 完成した品は俺たちの屋台に直接運ばれてくる。

 協賛を募ったわけではないが、食材提供者の権利とばかりにプロの本気調理を堪能した。

 まずは菊池さんの居酒屋メニュー。

 飲兵衛に食べさせるには勿体無すぎるほどの立体的な味の構造である。
 自分の発言を取り消したくないのか、意地でも赤ワインと絡めての味に消化している。

「では、さっそく一品目、実食していきましょうか」

「ワインまでセットで出すなんて、本当に居酒屋なの?」

「一応、俺の師匠です。店舗名に惑わされないでください」

「洋一さんの……わかったわ」

 テーブルの上で俺、ミィちゃん、ヨッちゃん、マイクさん、リンダさんそれぞれの前に〝キノコと秋野菜のオリーブオイル炒め〟が並べられる。

 箸に不慣れなマイクさん向けに、ナイフとフォークも忘れないあたり、フレンチ上がりは伊達じゃない。

 そして一口放り込んだあたりで、見た目から見えるシンプルさとは別の顔が覗いた。

 見た目よりもしっかり目のピリ辛さが強烈な印象。
 オリーブオイル以外の何かが入っているとはソースの時点で感じていた。

 ファンガスを噛み切ると溢れ出る肉汁。

 しかしこれが先ほどのピリ辛ソースとよく合う。
 秋野菜がさらに食感を引き立て、ファンガスの旨みを加速させた。

 全員がそのなんとも言えない旨みの洪水に目を見張る。

 二口目をいただく前に、目の前のグラスに合わせるアルコールを注いだ。
 素直に赤ワインを注ぐ人もいる中で、自分の願望を曲げない存在が一人。

「居酒屋に来たらとりあえずビールっしょ」

 ヨッちゃんである。
 とりあえず、生。
 それが彼女の基本理念だ。

 先にビールで合わせてから、赤ワインで整える寸法だろう。彼女らしいと言えば彼女らしい。

 俺は素直に赤ワインを選択した。
 菊池さんのことだ。これがどう化けるかも計算しての抱き合わせだろう。

 ワインを口に馴染ませてからキノコを口に運び、打ちのめされる。

「こう来たか!」

「これは鹿肉だわ! 見た目はきのこなのに鹿肉の味がする」

「わぉ! こいつはなんとクレイジーな味なんだ。他の酒だとどうなる? Mr.フジモト。俺にもビールをもってこい」

「みんなして何をそんなに驚いてるんだ? まぁ、アルコールはなんでもあ揃えてるけどな。温度調整はどうする?」

「ワインは冷やしすぎても風味が生まれないからな、ぬるめで」

 マイクさんとヨッちゃんのやりとりを聞いて、先ほどのんだ温かすぎるワインを思い返す。

「待ってくれ、これは赤ワインをホットで飲んだからこそ出る現象じゃないのか?」

「そういえば、このワインはホットだわ。常温だとどう変わるのかしら?」

 それは実際に口にしてから確かめてみるしかない。
 菊池さんがそれ以外の仕組みを考えてないわけないもんな。

 ってことで冷やしたワインに、常温、ホットで合わせてみる。

「不思議ね。冷やしたワインでは普通の居酒屋の一品にしか思えないわ。まずいと言うわけではないけど、先ほどまでの驚愕的な味わいが見えてこないの」

 ミィちゃんの発言に俺も同じ意見だ。

 他のみんなも同様。ヨッちゃんだけが頭に疑問符を浮かべている。
 え、こんなもんだろって顔だ。

 つまりは温度での変化だろう。
 店で出すこと前提の味。
 持ち帰りは想定しておらず、その場で食べて初めて共感できる味だ。
 こう言うところで店のスタイルが出るんだなと感心させられる。

 次に常温に温めたワインで合わせる。
 冷やしたものより、ワインそのもの風味が出てくるいい塩梅だ。
 その分独特な渋みがこの料理にどう影響を与えるか。

「む、これはこれで……」

「先ほどよりも食が進むわね」

「なんなら、パスタに絡めた方がうまいんじゃねぇの?」

「ヨッちゃん、お湯!」

 その場でパスタを茹でて全員に提供。
 全てを絡めてしまわないよう、少量にとどめる。

 パスタは若干熱めに提供した。
 もし菊池さんの仕掛けが温度に関係してるのなら、これで劇的な変化を生み出すはずだ。

「! なんだこれは!」

「さっきの味が蘇ってきたわ」

「もうこれだけでよくないか? ポンちゃん、パスタおかわり」

 ヨッちゃんはこれこそが至高とばかりにそれ以外を切り捨てる選択をした。
 これはこれでうまいが、先ほど食べたディア肉のような深い味わいを薄めたような物。

 これをストレートで行くのは俺たち的には無しだった。

 嘘だと思って食ってみろと、今度はホットワインにしてから合わせてもらった。
 これこれ! 全員が頷きながら堪能する。

「なんだよこれ、ビールと合わせた時に比べて別もんじゃねぇか! その上でホット限定ときてる! 憎い演出だぜ!」

「ただのキノコと野菜のオリーブオイル和えと思わせておいてからのこの仕掛け、シェフの技術力に脱帽だぜ」

「ノーマルでも普通に酒に合うのがこれまた憎い演出なのがな」

「サラダから一気にメインディッシュに化けたようなものだわ、一度知ったら、絶対これ以外の組み合わせは選ばないと思うの」

「でも不思議なのはなぜ調理過程でこれを組み合わせなかったかよね? 合わせていたらここまで落胆させることもなかったのに」

 ミィちゃんはそれだけが不満と言わんばかりに菊池さんの料理を判定した。

 俺としては菊池さんの判断も分からなくない。
 それが店としての限界だったのだろう。

 ファンガスの仕入れ値、それによって店で扱える分量は決まる。

 今回メインで仕上げず、一見してお通しで出されそうな見た目なのは店の限界。
 ファンガスの量自体も少なめだが、それ以外で味を数段昇華させる仕掛け。

 ワインは合わせたい人だけ合わせればいいという演出。
 それが鮮焼という店のおもてなしなのだ。

「鮮焼は一般人向けの居酒屋だからね。お酒とメニューはあえて教えないでお客さんに組み合わせた時の楽しみを残しておくのがあの店ならではのルールなんだよ。何回も足を運んでもらうためのテクニックとも言えるかな。高級レストランみたいに一回来て、大量な金額を請求して、っていうやり方じゃないからこそのやり方みたいなものだよ」

「そうだったのね、あたしったら何も知らないくせして偉そうなことばかり言ってたわ。ごめんんさい、このお料理、とてもおいしかったわ。次はお店に直接寄らせてもらうわね」

 <コメント>
 :《鮮焼》洋一、うちの仕掛けをこんな公の場で暴露すんじゃねぇ!
 :《一期一会》馬鹿正直にそんな商売してるお前が悪い
 :《ラ・ベットラ越智間》あのー、次はうちのメニュー出すのでそろそろケンカはやめてもらえませんか?
 :草
 :ここの子弟、いつも喧嘩腰だな
 :師匠がこの人だからな
 :仲がいいとはなんだったのか
 :実際めっちゃうまそうだったのがな
 :ホットワインと合わせた時にだけ化ける味が超気になります!
 :制作過程じゃ見えてこない罠を仕掛けるな!
 :それが店のやり方なんですよ
 :《菊池大輝》問題は食材の入荷が不明な点を考えようぜ
 :まだ大量入荷はできないか
 :当たり前のように食ってるけど、食材以外の道が見つかったら、普通に市場に流れないのでは?
 :それなー
 :いっそ流さないでそれぞれのお店に流したら?
 :《ダンジョンセンター武蔵野支部長》国際問題になるわ、アホたれ
 :そりゃそうよ
 :日本じゃないからなぁ、ここ
 :そう言えんばそうだった
 :海路的に到達不可能なんだっけ?
 :武蔵野支部から行けるよ
 :だから卯保津さんが頭抱えてんのか
 :責任重大っすね
 :そりゃこんなところで堂々と国際ダンジョン条約破られたら言い訳もできんか
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