ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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125話 特殊変化の真骨頂

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 夢のような時間が終わり、ほぅと一息つく。

「どう、クララちゃん。何か掴めそう?」

 足りなかった総合ステは過剰なまでに上昇した。
 夢心地のまま、今日は帰って終わりじゃない。

 これは彼女にとっての通過点。
 ここから先が本番である。

「わかりません。胸の内で燻ってる違和感、これが形になった時、私は一皮剥ける。そんな感覚がぼんやりとあるだけです」

「スタックは多めにある。どれから行く?」

 菊池さんに呼びに行かせたダイちゃんの仕上げた飾り包丁。
 はたまた俺のミンサーか、腸詰めか。

「ではこちらから、行かせていただきます」

 最初に手にとったのはダイちゃんの飾り包丁で加工されたゴールデンゴーレム。

 どこかで下に見ていた。
 しかし菊池さんの仕事でそれは失礼だったことを痛感し、礼節を持って向き合い、施す。

 すぐに彼女の手のひらの中で光が発した。
 イメージが形作られ、それは一つのガラス瓶を生み出した。

「これは、見たことないものです。なんでしょうか?」

 ガラス瓶の中には虹色の星屑が煌めいている。

「鑑定しよう」

 今まで文句しか言わなかった富井さんが真剣な表情で一歩前に出る。
 クララちゃんは先程までの態度と打って変わって真剣な富井さんに気押され、瓶を手渡した。

 蓋を開け、手で仰いで香りを確かめる。
 酒の目利きをするような真剣な目つきだ。

 手の甲に少量だし、舌先でペロリとなめとる。

 目を見開き、再度舐め取ってゆっくり目を伏せた。
 口の中でたっぷり時間をかけて味わい、そして飲み込む。

「何かわかりましたか?」

「不思議な味じゃ。だが、何にでも合うということだけがわかったわ。カレーなんてチャチなもんじゃない。これには全てをこの味に染めてしまう魔力が込められておる」

「カレー以上の旨味とコクを感じると?」

「カレーですらチープに感じる味じゃな」

 そんなものが出来上がるだなんて。

「これは、あなたにお渡しします」

「俺に?」

 面食らったのは他でもないダイちゃんだ。

「私はずっと、陽一さんと一緒に行動できるあなたを羨ましく思っていました。もっと早く生まれていれば、この身が男であったなら。そう思ったことは一度や二度ではありません。それがきっとこのスキルを開花させる足枷になっていたんだと思います」

「そっか」

 ダイちゃんはそれだけ言って受け取り、富井さんと同じように手の甲に落として味見する。

「うわぁ、なんだろうこの手に余る感じ」

 それほどなの?

「じゃろう? 下手に扱ってもなんでもうまくいきそうじゃ。じゃから腕のないやつが扱うと自分の実力と勘違いしかねない」

「そうそう! 万能調味料みたいなの? 一回これ使ったら、ずっとこれに頼り切りになりそうなの」

「料理人にとっては諸刃の剣だな」

「でも……」

 ダイちゃんは強く握りしめ、懐にしまう。

「俺もいつかこの調味料に負けない料理人になるぜ! その時まで、これは肌身離さず持っておくんだ」

「その時は直々にわしが審査をしてやろう」

 今回菊池さんにしてやられた富井さんが、その伸び切った花をへし折ろうとダイちゃんへ提案する。

 急な提案に苦笑しながらも「望むところだ!」と決意を胸に抱くダイちゃん。

 普段なら「うげぇ」だの「お手柔らかに頼むぜ」だの弱腰な対応をするところ、今日は胸を張って答えていた。

 俺と出会った頃より成長を感じる。
 やはり菊池さんが表に出て自分お仇を取ってくれたからか?

 それともその腕前が全国的に広められたことによって、二代目を掲げる自分の立ち位置が急に不安定になったと自覚したからだろうか?

 どちらにせよ、今まで以上にレベルアップしなきゃいけないと自覚できたのは間違い無いだろう。

 俺もまた、まだまだ足りないことばかりだ。

「そういう意味では、私はずっと洋一さんに引け目を感じていたんですね。もうすでに完成しているミンサー、そして腸詰め。これに手を加えるなんてとんでもないと、心のどかかでブレーキがかかっていたんだと思います」

 クララちゃんが己の心理状況を分析し、そして俺の加工からさらに新しい調味料を生み出した。

 それはダイちゃんのに比べて黄金色に光る星屑の入った瓶だった。

「ワシが鑑定してやろう」

 またもやズイッと身を差し込んでくる富井さん。

 けど俺はそれを遠慮して、自分の舌で評価を伝えたかった。
 感謝の言葉を直接送りたいからだ。

 ミンチ肉から生み出されたそれは、きっと肉料理によく合うだろう。

 なんとなく、いつものハンバーグを作る手順で少量黄金スパイスを混ぜ込み、鉄板焼きで仕上げる。

 皆はもうお腹いっぱいだろうに、匂いに釣られてヨダレを垂らすんだから現金なもんだ。

 <コメント>
 :あー、あー、これはいけません
 :これは飯テロ定期
 :鉄板焼きの煙は反則
 :肉汁だけでご飯三杯いけますわ

「最初に口にするのはクララちゃんじゃなくちゃね」

「あの、私なんかが先にいただいちゃってもよろしのでしょうか?」

 戸惑っている彼女に、俺は優しく微笑みかける。

「何言ってるのさ、君が生み出した調味料だよ? 君以外これを生み出すことはできないんだ。俺のスキルありきだとしても、君以外ではここに至れない。だから頼むよ」

「そこまでお願いされたら、断るのも悪いですし? いただきましょう」

 先ほどから彼女のお腹の虫が早くそれを食べさせろと大合唱を奏でている。

 なお、彼女だけに限らずコーラスを奏でているので誰の腹の虫かわからないほどだ。

「あっこれ……ふぅ」

 立食した状態で気絶した。
 美味しさが天元突破してしまったのだろうか?

 スパイダーツリーの時とは違い、一気に手が進むことはない。
 ゆっくりと咀嚼しながら全身で味わってるかのようだった。

 何も言葉を発さず、どころか言葉を発することすら無礼だと言わんばかりの食事。

 菊池さんのように手を込んではいない。
 調味料はそのスパイスだけ。

 ミンサーにかけた肉をただこねて丸めて鉄板で焼き上げただけのシンプルな料理。

 だというのにずっと楽しそうに体を揺らしている。

 周囲の視線が俺へと向かう。
 全員の顔が俺にも食べさせろと言っていた。

 香りだけで喧嘩になるのが見えていたので、全員の分を一気に焼き上げる。それを目の前で均等分するのだ。

 皆が一斉に箸でつまみ、そして一斉に立ったまま動きが止まる。

 <コメント>
 :これが飯テロですか
 :誰もなんも発さないのくさんよ

「俺も食うのが怖くなってきたよ」

 <コメント>
 :おい! 料理人
 :この放心状態を作り出した張本人がそれをいうかー?
 :表情から伝わる絶対美味いやつ
 :これ、ポンちゃんも同じ状態になったら放送事故でしょ

「早くクララちゃんカムバックしてこないかな」

 コメントに相槌を送りながら様子を見守る。
 下手をしなくてもダイちゃんはこれ以上のものを手渡されたのだ。
 みんながこれに夢中になっても、安易に使っちゃいけない調味料であることは容易にわかる。

「これ、腸詰めでも似たような調味料出来上がったらどうしよう?」

 <コメント>
 :放送事故確定ですね
 :これ以上ない宣伝もないからな
 :さっきのフルコースに何気なく使われてた高級食材よりは安価だが
 :素材、ゴールデンゴーレムなんですよね
 :ひえっ
 :安くなっても60万すっからな

「俺的にはそれでもお釣りが来るくらいの調味料だと思ってるよ?」

 <コメント>
 :むしろこの調味料だけくれってレストランが増えそうな件
 :コストかかりすぎ問題
 :クララちゃんが引き受けるかじゃね?
 :そこは総合ステなりで圧力かけて
 :今クララちゃん幾つだっけ?
 :CだったのがA煮上がったまでは聞いた
 :そのあとなんだかんだでポンちゃんの飯食ってるし
 :本人の自己申告待ちですね
 :Aの時点で圧力かけられるの限られてて草

「卯保津さんもバックにいるし、この調味料の良さは富井さんも目をつけた。その人たちに喧嘩を売れる人だけ挑戦してみたら?」

 <コメント>
 :はい、詰んだー
 :赤鬼に喧嘩売れるやつ数えるくらいしかいなくて草
 :伝説の生き字引なんだよなー
 :90超えてまだ元気な化け物爺さんだぞ?

「あれ、私一体……」

 放心状態から復帰したクララちゃんを介抱しながら、他の全員が正気に戻るのを待つ。

 これ、下手すりゃ悪用されかねないから販売禁止した方がいい気がするな。
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