ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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152話 封じられた能力

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 新しく出会った加工スキル持ちの少年との出会いにより、俺は新たなメニューの構築に勤しんでいる。

「唐揚げ?」

「どっちかと言えば串揚げかな? 鳥肉に限らず、仕入れた素材を切り分けて串に刺して揚げる。具材もそうだが、衣にも工夫があるんだ」

「へぇ、どれどれ」

 揚がったものからヨッちゃんが味見を試みる。
 紅生姜の串焼きだな?
 脂っこいのを甘じょっぱいのが中和する、なんとも不思議な味わいだ。
 作り置きの紅生姜が余ってたので、串に刺してからモッタリ系の衣で揚げたらあら不思議。意外と合うのだ。

「あー! これは焼酎だわ」

「一本目でもう決めちゃって良いのか?」

「今は焼酎の気分ってだけだが?」

 具材に合わせて飲むのも変えていくが? と強気な発言。
 そうだよね、ヨッちゃんはそう言う人だよ。

「あんまり無駄飲みしないでくれよ?」

「バッキャロイ! 中途半端に封開けすると美味しさも全部飛んじまうだろうが。オレのは善意! 善意で全部飲み干すの!」

 俺の分も残しておけよと思いつつ、自分のジョッキも満たす。
 これで共犯の出来上がりだ。

「ニシシ。ポンちゃんも氷要るか?」

「居る」

 目の前でまんまるな氷が出来上がり、グラスの中に入り込む。
 いつ見ても見事な造形だ。

 これを作るのにも本来職人の技術がいるんだろうが、作る過程で水を丸くできちゃうのはヨッちゃんのすごいところだと思う。

「さっきの美味かった! あれ何?」

「紅生姜だな」

「紅生姜! 牛丼とか焼きそばのお供って気がするけど、揚げるとあんな感じになるんだな!」

「面白いよな。普段違う見た目の物が、主役張るってなると」

「主役って言うほどでもないけどな」

 そう言いながらタコの頭の皮を揚げたものを口に入れるも、すぐに紅生姜へ流れていくヨッちゃん。
 言ってる側から行動が矛盾してるぞ?

「いや、これは違うんだよ。妙にこの酸味が気になるって言うか、あと引くって言うか。これを他の串の間に挟むことで、次も進むって言うか!」

「まぁ、主食にするにはあまりにも王道から外れるからな……」

「ないと妙に寂しくなる。ネギマのネギとおんなじだな。肉オンリーだとなん本も食いつけないって言うか」

「そういえば、そうだなぁ。あのネギがあるとないとでは意外と食いつきに差があるよなぁ」

 考えたこともなかった。
 肉と肉がくっつかないようにするため、とか一本あたりの串を安く下ろすための工夫、とかそんなものだと思ってたが、食べてくうちにあれがちょうどいいバランスを持っていたことを知る。

 意外なところで意見が合致し、じゃあこれならどうだ? なんて意見を出し合う。

 そして、変わり種が油の中へ投下された。
 
 その変わり種とは、焼きそばである。
 鉄板の上でソースをふんだんにかけてモチモチに仕上げた焼きそばを、衣に包んで揚げると言う愚の骨頂みたいなことを仕掛けるヨッちゃん。

「これぜってぇ旨いと思うんだよ!」

「焼きそばだけで満足して欲しいもんだがね?」

 なお、その過程で俺がその焼きそばを作っている。
 むしろ出来上がった料理で遊ばれてる気分なので、なんともしがたい。

「まぁまぁ。食ってみてからのお楽しみってな?」

 ヨッちゃんなりにこだわりを持っているんだろう。
 衣に青のりを混ぜ込み、焼きそばをぐるぐる巻きにして凍り付かせた串に分厚く絡むようにしてから油の中に突っ込むこと5分。

 中身はもうできてるので、衣だけ揚がれば良いので楽なもんだ。

「へへ、じゃあかんぱーい」

「かんぱーい」

 ジョッキを掲げ、いつもの儀式。
 口の中を焼酎で潤わせて、件の焼きそば揚げを口にする。

 どうしてここまで進めてきたのか、なんとなく察する。
 この焼きそば、紅生姜までセットしてあるのだ。
 先ほど気に入った味を、早速自分で作ってみたくなったのだろう。

 確かに焼きそばのお供に用意はした。
 だからって余すことなく使うとは思わないじゃないか。

 とはいえ、もちもちとした焼きそばの麺の後に来る独特の甘じょっぱさが癖になる。

 そして、紅生姜単体では物足りないと感じたソース味を感じて、思いの外満足してしまった。

 これに焼酎がまたよく合う。

「どうよ? オレの言った通りじゃね?」

「これには完敗だな。ヨッちゃんの先見の明も捨てたもんじゃない」

「だろ?」

「これで焼きそばも自分で作ってくれたら言うこともないんだが」

「これは、ポンちゃんの焼きそばだから旨いんだよなー。オレのジャコウはならねぇ」

 そんなわけないだろう。
 まぁ、照れくさくはあるが、褒められて満更でもない。

「でさ、こう言うのを今度の炊き出しで出そうと思うんだけど、どうだ?」

「うーん、くどすぎないか? 酒飲みのつまみにゃ良いだろうけど、これだけで推すのは重い気がする」

「串揚げの時点でくどいんだよ。焼きそばだけの問題じゃねーぜ?」

 それはそう。
 女性でありながらそれに付き合ってくれてるヨッちゃんは希少な存在なのだ。他ならぬ飲兵衛だし、脂っこいメニューでも文句言わず付き合ってくれる。

「と言うか、よく飽きないね」

「ポンちゃんの作ってくれる飯にハズレは無いからな。むしろ奪い合いだぜ? それを独占させてもらってるのに、飽きるなんて恐れ多いだろ」

 そんな風に思ってくれてたのかー。
 どこからどこまで本音かわからないけど。

「とはいえ、だ。確かにこう、粉物が続くとお腹が重くなるな」

「軽く運動でもするか」

「だなー」

 ここはダンジョン。
 敵は探せばいくらでもいる。

 探さない限り出てこないのは、俺がダンジョンと契約していることもあってだ。

 一度オリンが取り上げられ、俺たちの手元から離れた時。
 そう言う権限まで剥奪されるのかと思ったが、どうやら向こう(自称父親)の狙いは全くの別のところにあるみたいだった。

 オリンから迷宮管理者の権利の剥奪はせず、ただエネルギーの変換権限を奪っただけと言うお粗末な結果。

 ただしその副次効果で得られるスキルの獲得まで剥奪されてしまったのは今思えばもったいなかったな。

 ずっと気になっていた熟成醗酵。
 こう言う状態でこそ発揮するスキルだったろうに。
 他にもいろんなスキルが、オレの獲得したエネルギーで取得できていたかもしれない!

 あとでいいや、なんて気持ちが今になって募ってくる。
 満たされていると鈍すると言うのはこう言うことかと実感していた。

 だが、それ以外はいつも通り。
 オリンはいつも通りダンジョンの中で活動できるし、分体を使って中継地点を設置、物々交換を円滑に回してくれた。

 また、なぜかジュリの残してくれたサービスも残ってる。
 願ったダンジョンに直接行けるテレポートサービス。

 さすが二番迷宮管理者だな、と思うと同時にどこにどんなダンジョンがあるか事前説明してくれない痒いところに手が届かない仕様。

 全知全能であるが故に、配慮に欠ける。
 俺たち持たざる者への配慮がすぎるのだ。

 そう考えてくれると運用しやすいのはオリンだ。
 
 程よく情報を与えてくれて、ここぞと言うときに引き出してくれる。
 それでオレはここまで成長できた。

 もし最初に出会ったのがジュリだったら、こうはいかなかっただろうな。

 腹ごなしのウォーミングアップを終え、素材を回収してキィ展へと戻る。

 ジュリ、今頃どこで何してるんだろうなぁ?
 オリンは黙して語らず、俺たちは無理に聞き出そうとしない。

 居たら居たでうるさいだけだが、それでも心配してしまうのはその騒がしさを恋しく思っているのだろうか?

 いや、あの人が一体何をしでかそうとしてるのか、さっぱりわかんないけど。ジュリをそばに置いて、計画が頓挫しないかちょっとだけ心配だったりする。

 性格面ではジュリよりオリンの方が優秀だからな。
 扱える権限が高いだけのバカ。それが俺の知ってるジュリだからな。

 良くも悪くも貯蓄型のオリンのストッパーとして浪費型のジュリが現れたと思ってる。

 今でこそ不労債権を多く抱えることになったが、あの子の思い切りの良さで北海道ダンジョンが無理なく運用できてるのも事実なのだ。
 しかしエネルギー管理権限を全回収されたおかげで、俺への負担は0。

 なんの憂いを追うこともなく、料理を作り続けられるって寸法だ。
 肩の重荷が降りたというか、なんというか。

 今はあの人たちがその負債を背負うことになっている。
 別に俺はエネルギーを大量に集めてたわけでも、それを使って何かをしようと思ってたわけでもないんだけど。

 ジュリがバンバン使うから、勘違いさせちゃったんだろうなぁ。

「ジュリがどうなったかより、今はこの料理の提供先をどこにするかだな」

 刻んだ食材を串に刺しながら、俺たちは酒を飲み交わしながら料理の振る舞い先を決める。

 A~Dは物々交換で回していて、F、Eをメインフィールドとしている俺たちだったが、いい加減過剰提供しすぎに感じていた。
 
 これを知った上位ダンジョン放浪者からクレームを受けるかもしれない。そんな予感が、新たなダンジョンへと向かわせる。

 選んだのはDランクダンジョン。
 そこで俺たちは異例の和菓子ブームが到来してることを知る。
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