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五章

15_勇者教会を立て直そう⑤

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 敵上視察、ならぬバザーで今取り扱われてる素材をそれぞれ買い揃える。
 あらかじめユースキーに禁製品が何かを聞いた上での買い付けだ。

 まだ貨幣に代わるものがないために龍果料理での買い付けになるが、これが結構喜ばれた。

「意外とお肉料理は豊富なのね」

 委員長の言うように、バザーでは肉料理が多く出回っている。
 ただ、あまりにも失われた絶滅作物が多くそれらによる工夫が見られなかった。

「お米は案外出回ってるのね」

「麦もあるよな、鶏卵も。新鮮さは分からんけど」

「識別で見てみたけど、新鮮さに問題はなさそうよ。お好み焼きみたいに焼いてる料理もあるし粉物が多い理由もそれでしょうね」

「意外と海産物がないのな」

「海ってモンスターの巣窟だし、腕のいい冒険者でもない限り……ってそう言えば冒険者らしい人って見かけないわね?」

 そう言えば、街に入ってからその手の人達を見かけてない。
 教会関係者に屈強な神官が居たぐらいだ。
 もしかして、全員が神官になったか追放されてるのか?

「昼間っから酒飲んで暴力振るうことでしか己の存在価値を示せない人は街から追放されてるだろうね」

「街の外で出会った山賊さん達のことですね」

「世知辛ぇ」

「でもそうすると、モンスターの脅威はどうやって追い払ってるんだ」

 三上が心配そうに街の様子を見回す。
 冒険者のような暴力装置を失って、誰が面倒ごとを片付けるのだろうと言う疑問は多く残っていた。

「あちこちに教会があるように、教会関係者が何かしらの治安維持をしてくれてるんじゃねーの? 以前宣教師っぽい奴らがそれで武力行使による下剋上を果たそうとしてたけど、返り討ちにされてたぞ」

 ゼニスキー率いる教会内の不穏分子。
 禁製品をちらつかせて甘い蜜を吸うことに特化したクズだ。
 ユースキーはそんな奴らに頭を抱えていると言う愚痴をこの前吐き出していたっけ。
 俺だったら潰れてる自信がある。でもユースキーはアンドロイドなので人間の心がわからないで済むのかな?
 いや、性格は俺そっくりだから普通に潰れてると思う。南無。

「教会に武力か。勇者を奉る教会だから俺もありうるが……」

「何か不満でもあるのか?」

「不満というか、不安というか。かつて権力者が暴力を手に入れたことによって民達が圧政を強いられた事何度も起きてるように、近いうちに同じことが起きるんじゃないかと思ってな」

「もう起きてるけどね」

「じゃあどうしてお前達は悠長にことを構えてるんだ? それこそ俺たち勇者に案件じゃないか!」

「てい!」

 べし、とイキリ立つ三上の頭部にチョップを落とす。

「大昔の人物が、当時の肩書きを使って武力介入する時代じゃねーんだよ」

「阿久津君の言う通りよ、三上君。誰かが暴力を振るった、それを暴力を振い返すことで守るのは当事者にとっては立派かもしれないけどそれで通じる時代ではなくなってるの」

「詳しく」

 軽率すぎたと反省する三上の横で問題はどこにあるんだよ、と木下が尋ねてくる。

「問題は国が壊滅状態で教会が一強である事。逆らえばそれに楯突く反乱分子として追い出されかねない事。街で暮らす以上、教会の世話になっているから刃向かった住民も追放されかねないこと」

「うへぇ、国があった時の権力者となんら変わってねぇ」

「そこなんだよね。働くのが嫌いで、暴力を振るってれば飯を食えた人たちは街から追い出されて山賊まがいのことをやっている。勇者教会は山賊から目の敵にされてるんだ。それに伴って追い出した住民にも恨みの目は向いてるよ」

「楽をして甘い蜜を吸おうって奴も多く教会に紛れてるから、俺たちはとあるイベントを起こそうと思った」

「成る程、阿久津の考えがようやく分かった。お前が料理のイベントを開いたのは民の不満の解消や教会の不穏分子を炙り出す仕掛けがあるんだな?」

「もしかして禁製品のばら撒きもそれが狙いか?」

「よく分かったな。教会の一部が禁製品をちらつかせて方々で権力を翳してるから、それでうまい蜜吸ってる輩はそのイベントそのものを中止しに進言しに来るだろう?」

「そうか。その上で優勝者にエルフの技術を含ませた屋台の提供、あれはアクセスキーがないと本人の許可した人以外は入れないから外部の工作は出来ないと?」

「それもあるが、俺以外分解できないから武力行使が通用しないんだ」

「でも街の人、バザー参加者はどうなるんだ?」

「そのために審査員をこの街の住民全員にしている。イベント中はタダで教会に認められて実力者の料理、それも禁製品が食べられるんだ。移住してくる民は多いと思うぞ?」

「そこまで考えてたのか、恐れ入る」

 考えたのは委員長と薫だ。
 俺の頭から出てくるわけないだろ?
 三上と木下は納得し、杜若さんはただにこやかに俺たちの後をついてくる。
 チラチラとバザーの商品を見つめては何か考え込んでるようだった。

「杜若さん、何か買いたいものがあるなら言ってよ」

「ああ、いいえ。わたくが見ていたのは人々です。髪のお手入れなどを気にかけてる方はあまりお見かけしなかったので、ここでお店を開くのが少し心配で」

 そんなことを考えてたのか。

「別にそれは私達が体験してもいいのよね? いくらでも付き合うわよ?」

「ありがとう由乃。でもできるだけ現地の人に喜んでもらいたくて、天然の石鹸やシャンプーの構築も試みてるの」

「どっちも劇薬だから取り扱いは難しいわよ?」

「そこが懸念案件なのです」

「なになに、何の話?」

 坊主頭の木下が、女子の会話に食いついた。
 女子二名は木下の頭を一瞬見た後、すぐにいなかった人物として扱って会話に戻る。
 美容師を志す彼女にとって木下は魅力的な客ではなかったようだ。南無。

「雄介のガチャ見たいに原材料をセットするだけで勝手に出来上がる機械を笹森さんに頼んでみたら? 何だったらそれを売り出すところから始めてもいいし」

「そうしてみます。ありがとう冴島さん、少し希望が持てましたわ」

「ねぇ、何で俺はいなかったもの扱いされて冴島のコメントは拾うんだよ! おかしくない? 不条理だ!」

 嘆く一人の男を俺と三上は顔を見合わせた後そっと木下の肩に手を置く。

「お前彼女達の顧客足り得ない、そう言うことだ諦めろ」

「そうだぞ木下。諦めが肝心だ」

「せめて理由を言えよなぁ!」

 ギャーギャーと騒ぐ木下を宥めつつ俺たちはバザーを回る。


 その少し後ろからこちらを着けている人物に気付きながらも気付かないフリをして歩いた。



 ◇◆◇


「あの者たちが?」

「ええ、教会に楯突く不穏分子です。言葉巧みに教祖ユースキー様をたらし込み、私を不穏分子として扱った極悪人たちですよ! だからあなたたち天罰執行者『極天』に頼みました」


 極天。それはかつての勇者の子孫が守護者としてこの地を守ってきた団体だった。
 今では多くの地域に根付く教会の暗部として身を置いているが、今回のターゲットは教会の宣教師ですら手を焼く部外者だと言う。
 権力に楯突く犯罪者というからどんな手合いかと思えばまだ子供だと知り、依頼を受けたラディクスは肩を落とした。

 暴力を振るうことでしか生を実感できなくなっていたラディクスにとって、戦いとはあっさり勝負がついてはダメなのだ。
 ひりつくような痛みと殺意。これが相まって脳汁が垂れ流されてるような興奮状態の果てに掴む勝利こそが至高だと考えている。

「それで報酬の件なのですが、禁製品を二品ご用意します」

「秘匿主義の教会が随分と大盤振る舞いじゃないか。何か裏があるのか?」

 ラディクスは秘匿主義でケチな教会のことを胡散臭く思っていた。ゼニスキーからは特にその気配を強く感じている。
 成功報酬というからには、成功して当たり前。
 禁製品を二つも譲るとは、それほどまでに腸を煮え繰り返した出来事でもあったのだろうな。
 失った地位にしがみつくものか。

「分かった、依頼は引き受けた」

「あ、息の根を止めるチャンスは私にくださいよ?」

「生け捕りか、まああのくらいなら手を焼くこともない」

「流石神速のラディクス様」

「やめろ、まだ受注しただけで仕事は終わってない」

 既に教会を追い出されたゼニスキーが、禁製品を持っているわけがない。そう思いつつも、この男なら過去の権力を使って他の教会員を脅して持って来させるくらいはするだろうなと当たりをつけるラディクス。

「それではお願いします。くれぐれも、殺さないようにお願いしますよ!」

 秘密裏の相談だと言うのに声の大きい依頼者に頭を悩ませ、早速足取りたどるも……

「あれ、あいつらどこに消えた!?」

 亜空間に入り込まれてすぐに消息を失った。
 



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