2 / 497
1章 お爺ちゃんとVR
002.お爺ちゃん、スキルを全否定される
道をゆく人々は多種多様で、それに倣って足元もただ踏み固めた土という斬新さ。歩くたびに土埃がたつが、それもまたここの流儀なのだろう。
鳥獣人などは石畳の上では爪が痛んでしまうのだろうか?
詳しい事はわからないが、往来の住民がその事を気にしているようには思わなかった。
街の周囲には遠目に大きな壁が見える。それがぐるりと町全体を覆っていた。あれが外敵から身を守る壁なのだろうか?
普段生活している限りではまずお目にかからない高さだ。高層ビル程ではないが、あれは一体何を警戒した高さなのかも判明していない。
空を飛ぶ種族でもなかなかに届かない距離ではないだろうか?
太陽が中天に登る時間帯であるからこそ、こうして陽の光が町全体を覆っているが、傾けばその限りではないだろう。
やがて意識はその壁の上に向けられる。登ってみたい。
きっとそこからならこの街が一望できる景色が見える事だろう。
しかしどうやってその場所に行くか。足掛かりは未だ掴めずにいる。
物思いにふけっていると、頭の中で電子音がピコンと音を立てる。
みやれば視界の先に赤いランプがチカチカと光っていた。
確かこのゲームは網膜タイピング形式だったか?
パソコンと言えば手打ちの時代の人間なので少しもたつきながらゲーム内システムのコールの欄を開く。
そこには、
[ミサキ:お爺ちゃんもうゲームにログインした?]
孫娘の美咲(みさき)からの個人コールだった。
ゲームにログインしている最中でもこうしてリアルとのやりとりができるのは時代の変化と言うやつだろう。
開いた時と同様に文字を打ち込んで送るが、これも時間がかかってしまう。今の時代の子はこれを巧みに操れるというのだから凄いものだよなぁ。
[ユウジロウ:今チュートリアルを終えたところだ。街の中にいるよ]
[ミサキ:ファストリア? じゃあ街の中心にある噴水前に集合!]
ファストリアと言うのが今のこの場所を指すのかわからないが、道ゆく人に道を訪ねて目的の場所へと歩いていく。
見た目こそ違うのに日本語が通じると言うのは不思議なものだ。
日本から出たことがないから異国の人に対して必要以上に気を使ってしまう私にもみんな優しく接してくれた。いい街だね。
そんな風に思っていると、こちらに向かって手を振る金髪ロングの少女が噴水の前で騒いでいた。その横には見慣れぬ格好の少女達もいる。
彼女がゲーム内での孫娘だろうか?
確認のためにも再度コールを鳴らす。
「ちょっと待って、お家からコール来ちゃった」
案の定金髪ロングの少女は慌ててコールを受け取った。どうやらあの子が目的の孫娘の美咲であるようだ。
随分とまあリアルより胸部を盛っているものだ。やはり大きい方がいいのだろうか?
私は女性ではないからわからないが、妻も慎ましやかだった。娘は少し大きいくらい。代々我が家系の胸の成長は絶望的だとしたら申し訳なく思う。
「こんにちわ、お嬢さん。いいお日柄ですね」
「え、あ、はい?」
「私の名はアキカゼ・ハヤテ。本日ここに来たばかりの新参なのですが見たところお嬢さんはこの世界に詳しそうだ。少し案内してもらえませんか?」
「えと、ごめんなさい。今日は人待ちをしてるので、ここから離れられないんです」
「そうでしたか、無理を言って申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
少し意地悪して素性を明かさず訪ねてみる。すると孫娘は困ったようにしながらペコリと頭を下げて人待ちをしていることを告げた。
娘は過保護に育てていたので悪い男に引っかかってないか心配していたようだが、なんだ随分と礼儀正しい子じゃないか。
ここでネタバラシをしながらお茶を誘う事にしよう。お互いの自己紹介もある。さっきから横でぽやっと見ているだけの少女のことも気にかかるしね。
「冗談だよミサキ。私だ」
「え?」
「君の祖父だと言えばわかるかな?」
顔を赤くしながら瞳に涙を溜める孫娘の攻撃を受け止めながら、私達は最寄の茶店に入った。
店内は吹き抜けのテラスでこの街の様々な人種が寛げるスペースが確立されている。中には種族に対応したテーブルや椅子があり、ドリンクや軽食も様々だ。匂いは独特だが、不思議と腹が減るのだから食欲は人の三代欲求の一つであることを思い出させる。
「ひどいよー、知ってて揶揄うなんて」
「ごめんごめん。由香里も君の事を心配していたからね」
「お母さんが? え、じゃああそこで私がホイホイついて行ってたら……」
「事細かく伝えるつもりだったよ。ゲームのログイン時間も減らされていたかもしれないね」
「横暴だー」
喚く孫娘をあやしながら注文を取りに来たウェイトレスさんに注文を頼んでいく。
私はまだこのゲームのことを色々わからないから、そのことを聞きながら今回は奢る事にした。
孫に奢るのは祖父の楽しみの一つだ。娘からは甘やかしすぎないでくださいねと言われているが、孫にいいところを見せたがるのは老後の楽しみの一つなんだ。諦めてくれ。
「それで、お爺ちゃんはどんな風なビルドを組んだのー?」
「私かい?」
「うん」
だらっとしながら美咲が食後のドリンクをストローで啜る。ビルドというのはスキルの組み合わせのことを指すのだろう。このゲームは基本的にスキルの組み合わせ次第で職業という概念が存在しない。
スキル骨子の三つ「アタック」「サポート」「パッシヴ」の系統からいくつかを選択していくゲームである。
【アタック】
主に攻撃を主軸とした任意発動スキル。
物理、魔法の他に近距離、中距離、遠距離など武器種によって大きく異なる。
【サポート】
主に補助を主軸とした任意発動スキル。
身体活性、スピード上昇を自分で任意に操作することができる。
自身、他人、複数とかけられる範囲は無限大。
相手にかけるデバフもこの系統だ。
生産などもこちらに分類される。
【パッシヴ】
主に耐性に主軸を置く常時発動スキル。
目に見えるゲージであるLP、SP、ST、ENの消費軽減やゲージ増加、回復に大きく関わる。
中には行動制限のかかるフィールドへの足掛かりとされるのもあるとか?
どれか一つに特化してもいいし、まばらにとってもいい。非常に特色のあるスタイルだってスキルの構成次第で自由自在だ。
ただし設定で最初に選べるスキルは5つ。
基本的に後から違うスキルは取れないが、派生先でそこへ繋げる道もあるのだとか。
しかしアタックスキルからサポート、パッシヴが派生しないように、均等に割り振るのが現実的とされているらしい。
ここら辺はチュートリアルでネコ妖精のミーから詳しく聞いていた。
そんな中、孫娘は私のスタイルが気になったようだ。
それというのも私が数十年ゲームに触れてなかった人間だからだろう。彼女なりの気遣いに触れ、すべてを語る事にした。
別にこのスキル骨子で悪目立ちたいわけではない。
ただ写真を撮るためだけの、それだけのスキル骨子。
=================
■スキル骨子
◎アタック〈戦闘スキル〉
┗なし
◎サポート〈生産スキル〉
┗なし
◎パッシヴ〈自動スキル〉
┣持久力上昇《微》
┣木登り補正《微》
┣水泳補正《微》
┣低酸素内活動
┗命中率上昇《微》
==================
「なにこれ、全然戦えないじゃん?」
それが私のスタイルに対する孫娘の率直な感想だった。
あなたにおすすめの小説
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
無実の罪で謹慎中ですが、静かな暮らしが快適なので戻る気はありません
けろ
恋愛
王太子妃候補だった伯爵令嬢エレシア・ヴァレンティスは、ある日突然、身に覚えのない疑いをかけられ、婚約破棄と無期限謹慎を言い渡される。
外出禁止。職務停止。干渉禁止。
誰がどう見ても理不尽な処分――のはずだった。
けれどエレシアは、その命令を前にして気づいてしまう。
誰にも呼ばれない。誰にも期待されない。誰にも干渉されない。
それは、前世で決して手に入らなかった“静かな時間”そのものだと。
こうして始まった、誰にも邪魔されない穏やかな謹慎生活。
一方その頃、彼女を切り捨てた王城では、思わぬ方向へ事態が転がり始めて――?
これは、無実の罪で閉じ込められた令嬢が、皮肉にも理想の生活を手に入れてしまう物語。
叫ばず、争わず、ただ静かに距離を取ることで完成する、異色の婚約破棄ざまぁです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「あなたのことは、もう忘れました」
まさき
恋愛
試験前夜、親友が私の十年を盗んだ。
笑顔で。優しい言葉と共に。
私は泣かなかった。怒らなかった。ただ静かに王都を去って、一人で成り上がることにした。
やがて辺境から王都へ、私の噂が届き始める頃——かつての親友が、私の前に現れた。
後悔しても、もう遅い。