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1章 お爺ちゃんとVR
010.お爺ちゃん、ログインの理由を探す
翌日。
腰に負担をかけない起床とともに娘一家に挨拶をして回る。
孫は未だ夢の中なのか、家の中は静寂が勝る。
キッチンからは朝食の支度をする娘の姿。おはようと声をかけるとおはようと帰ってくる。ゆっくりしてたらいいのにと続けられるが、昨日のゲームの余韻がまだ続いていたのかあまり寝付けないというのが本音だった。
玄関に赴き、郵便受けから新聞と配達された牛乳を取り出す。
今の時代新聞よりもデジタル化されたニュースペーパーで事足りる娘一家だが、昔ながらの暮らしをしている私に合わせてこの度取ることになったのだとか。そこまで気を回してくれなくともいいのにと思いながらもありがたく受け取っておく。
朝イチの牛乳は目覚めの活力源になっていた。
「お爺ちゃん、おはよー」
まだ目覚めて間もないだろう孫は、起き抜けなのかひどい寝癖をつけながら洗面所へと向かう途中に私を見つけて挨拶してくる。
「おはよう美咲。時間は大丈夫かい?」
「ダメー、このままじゃ遅刻だよー」
中学に上がったばかりの孫は、未だ小学生気分が抜けないまま来てしまっている。確か部活動の朝練があるとかで普段より早い登校をしているらしい。
とはいえ今はVR時代。フルダイブでなんでもできるので、家から学校に通うということもなく、全部VR空間で行われる。
ゲームで体感したように、飛んだり跳ねたりを得意とする孫は優秀な成績を保持しているのだと聞く。
「なら急ぎなさい。私も何か手伝えることがあれば言ってくれ」
「大丈夫。お爺ちゃんの手を煩わせるほどのものはないよ。あとは私の気持ち次第だから」
そうは言いつつもふにゃふにゃとし出す孫娘。これはまだ半分寝ているな? 背中を軽く押しつつ意識を覚ます手助けをしてやる。
「お父さん、ありがとう。こら美咲、お食事中にあくびしない。お行儀悪いわよ?」
「だって~」
「だってじゃありません」
朝も早くから口論会。どちらかと言えばしつけ云々の話だが、そう思えばうちの妻も娘の由香里とよく口論をしていたなと思い出す。
「朝から騒がしいね。何かあった?」
「あなたからも言ってくださいよ、この子が」
「パパには関係ないよ、なんでもないの」
あまり父親にはだらしない姿を見せたくないのだろう、孫はシャキッとしながら朝食をかっこんだ。ガツガツと食べてる姿は相変わらず微笑ましい。夜は一緒に卓を囲むが、朝はそれぞれのタイミングで食事をする。みんなが違う時間帯で生きているからこそだろう。
婿殿の秋人君も出社ではなくフルダイブで仕事先に向かう。
昔では考えられない世界だ。私のような古い人間には生き辛い生活。
定年まで置いてくれた会社には感謝してもし足りないぐらいだ。
「お父さん、どうかした?」
「いや、なんでもないよ。ふと昔を思い出してしまってね。あれは由香里が美咲くらいの頃だったかな」
「ちょっとお父さん!?」
「ははは、大丈夫ここでは言わないよ」
そう言いつつも興味を示した瞳が二人分こちらに向く。
婿さんの秋人君と孫娘の美咲だ。
「この話は後で。美咲は部活の時間に間に合わせないと」
「そうだった!」
「じゃあ僕も家族を支える為に一仕事してきますか」
「世話になってる身でいうことじゃないが、お疲れ様です」
「いえ、家族を守るのは当たり前ですから。特にお義父さんからはかなり影響を受けてますよ?」
なんだか照れ臭いが、そうかいと返しておく。
二人を送り出し、家事をする娘の後ろ姿を見ながらテレビをつける。
今やテレビも一人に対して一台。
専用のホログラフテレビがつく。人によって趣味が違えば見たいものも違う。昔のようにチャンネルの奪い合いもなく、皆がのほほんと暮らす。いい時代なのかもしれないが、家族の会話が希薄になっていくのに肩身の狭い思いをした。
テレビを見終わり、見たい番組がなくなったことに気づく。
気分は既にゲームに向いているものの、勝手にログインするのも悪い気がして実行できない。
「お父さん、暇だったらゲームでもしたらいいじゃないですか」
「そうだが……」
部屋を掃除がけする娘の言葉に対して言葉をつまらせる。
「フレンドはできたが、アポイントメントをとってないことに気がついてしまってな。今ログインしたところで彼には事情があるだろう。もし一人になったら私はそこでも手持ち無沙汰になるかなと、そう思うんだ」
「ならこの後私がログインするのに付き合って貰える?」
「いいよ。付き合おうじゃないか」
「じゃあお洗濯を干した後お願いするね」
「手伝おうか?」
「今はカゴに入れておくだけで自動で干してくれるんだよ。ほんと便利な世の中」
便利になりすぎて人の手が入る場所がなくなってきている。
体を酷使してきた時代を懐かしく思いながら、与えられた部屋でログインしておく。
娘からコールがかかってから会うことに。場所は孫と出会った噴水前。この場所は待ち合わせによく使われるのだろうか?
「お父さん、こっちこっち」
「こっちでお父さんはよしてくれよ。一応この見た目だし」
私の見た目は既に孫経由で彼女に伝わっていたようだ。
ひと目で私だと判断し、呼びかけてくる。
初心者装備に身を包んだ今の私はどう見ても10代かそこいら。
それにお父さん呼びした少女も同世代にしか見えない。
周囲からは少し注意をひいたが、特に気にせずにそれぞれの行動に移った。親子でゲームを遊ぶのはそこまで珍しいことでもないようだ。
「ごめんなさい、つい」
娘の由香里はこちらではパープル。人間にウサギの耳をはやした見た目をしていた。装備は私とは違い、それなりに豪華だ。
やや布面積の薄いお腹周りから視線を逸らしつつ話題を投げる。
「君の種族は獣人かな?」
「そのハーフだね。人の形を残したまま、獣人と同系統の補正を受けるの。私の場合は聴覚に少しだけ補正がかかるんだよ」
そう言って腰に装備していた自動弓を構えてから射つ姿勢をとる。
矢は装填してないので射つフリだ。
「お父……ハヤテさんの武器は?」
「ないよ。私は冒険をするつもりはないのでね。こちらでも風景の撮影でもしようかとパッシヴにのみ振っている」
「らしいと言えばらしいけど」
呆れたような娘の声に、少し落ち着ける場所に行こうかと孫も連れて行った喫茶店に向かう。
懐に余裕があるので扉を開けるときの手応えはこの前より軽い気がした。
腰に負担をかけない起床とともに娘一家に挨拶をして回る。
孫は未だ夢の中なのか、家の中は静寂が勝る。
キッチンからは朝食の支度をする娘の姿。おはようと声をかけるとおはようと帰ってくる。ゆっくりしてたらいいのにと続けられるが、昨日のゲームの余韻がまだ続いていたのかあまり寝付けないというのが本音だった。
玄関に赴き、郵便受けから新聞と配達された牛乳を取り出す。
今の時代新聞よりもデジタル化されたニュースペーパーで事足りる娘一家だが、昔ながらの暮らしをしている私に合わせてこの度取ることになったのだとか。そこまで気を回してくれなくともいいのにと思いながらもありがたく受け取っておく。
朝イチの牛乳は目覚めの活力源になっていた。
「お爺ちゃん、おはよー」
まだ目覚めて間もないだろう孫は、起き抜けなのかひどい寝癖をつけながら洗面所へと向かう途中に私を見つけて挨拶してくる。
「おはよう美咲。時間は大丈夫かい?」
「ダメー、このままじゃ遅刻だよー」
中学に上がったばかりの孫は、未だ小学生気分が抜けないまま来てしまっている。確か部活動の朝練があるとかで普段より早い登校をしているらしい。
とはいえ今はVR時代。フルダイブでなんでもできるので、家から学校に通うということもなく、全部VR空間で行われる。
ゲームで体感したように、飛んだり跳ねたりを得意とする孫は優秀な成績を保持しているのだと聞く。
「なら急ぎなさい。私も何か手伝えることがあれば言ってくれ」
「大丈夫。お爺ちゃんの手を煩わせるほどのものはないよ。あとは私の気持ち次第だから」
そうは言いつつもふにゃふにゃとし出す孫娘。これはまだ半分寝ているな? 背中を軽く押しつつ意識を覚ます手助けをしてやる。
「お父さん、ありがとう。こら美咲、お食事中にあくびしない。お行儀悪いわよ?」
「だって~」
「だってじゃありません」
朝も早くから口論会。どちらかと言えばしつけ云々の話だが、そう思えばうちの妻も娘の由香里とよく口論をしていたなと思い出す。
「朝から騒がしいね。何かあった?」
「あなたからも言ってくださいよ、この子が」
「パパには関係ないよ、なんでもないの」
あまり父親にはだらしない姿を見せたくないのだろう、孫はシャキッとしながら朝食をかっこんだ。ガツガツと食べてる姿は相変わらず微笑ましい。夜は一緒に卓を囲むが、朝はそれぞれのタイミングで食事をする。みんなが違う時間帯で生きているからこそだろう。
婿殿の秋人君も出社ではなくフルダイブで仕事先に向かう。
昔では考えられない世界だ。私のような古い人間には生き辛い生活。
定年まで置いてくれた会社には感謝してもし足りないぐらいだ。
「お父さん、どうかした?」
「いや、なんでもないよ。ふと昔を思い出してしまってね。あれは由香里が美咲くらいの頃だったかな」
「ちょっとお父さん!?」
「ははは、大丈夫ここでは言わないよ」
そう言いつつも興味を示した瞳が二人分こちらに向く。
婿さんの秋人君と孫娘の美咲だ。
「この話は後で。美咲は部活の時間に間に合わせないと」
「そうだった!」
「じゃあ僕も家族を支える為に一仕事してきますか」
「世話になってる身でいうことじゃないが、お疲れ様です」
「いえ、家族を守るのは当たり前ですから。特にお義父さんからはかなり影響を受けてますよ?」
なんだか照れ臭いが、そうかいと返しておく。
二人を送り出し、家事をする娘の後ろ姿を見ながらテレビをつける。
今やテレビも一人に対して一台。
専用のホログラフテレビがつく。人によって趣味が違えば見たいものも違う。昔のようにチャンネルの奪い合いもなく、皆がのほほんと暮らす。いい時代なのかもしれないが、家族の会話が希薄になっていくのに肩身の狭い思いをした。
テレビを見終わり、見たい番組がなくなったことに気づく。
気分は既にゲームに向いているものの、勝手にログインするのも悪い気がして実行できない。
「お父さん、暇だったらゲームでもしたらいいじゃないですか」
「そうだが……」
部屋を掃除がけする娘の言葉に対して言葉をつまらせる。
「フレンドはできたが、アポイントメントをとってないことに気がついてしまってな。今ログインしたところで彼には事情があるだろう。もし一人になったら私はそこでも手持ち無沙汰になるかなと、そう思うんだ」
「ならこの後私がログインするのに付き合って貰える?」
「いいよ。付き合おうじゃないか」
「じゃあお洗濯を干した後お願いするね」
「手伝おうか?」
「今はカゴに入れておくだけで自動で干してくれるんだよ。ほんと便利な世の中」
便利になりすぎて人の手が入る場所がなくなってきている。
体を酷使してきた時代を懐かしく思いながら、与えられた部屋でログインしておく。
娘からコールがかかってから会うことに。場所は孫と出会った噴水前。この場所は待ち合わせによく使われるのだろうか?
「お父さん、こっちこっち」
「こっちでお父さんはよしてくれよ。一応この見た目だし」
私の見た目は既に孫経由で彼女に伝わっていたようだ。
ひと目で私だと判断し、呼びかけてくる。
初心者装備に身を包んだ今の私はどう見ても10代かそこいら。
それにお父さん呼びした少女も同世代にしか見えない。
周囲からは少し注意をひいたが、特に気にせずにそれぞれの行動に移った。親子でゲームを遊ぶのはそこまで珍しいことでもないようだ。
「ごめんなさい、つい」
娘の由香里はこちらではパープル。人間にウサギの耳をはやした見た目をしていた。装備は私とは違い、それなりに豪華だ。
やや布面積の薄いお腹周りから視線を逸らしつつ話題を投げる。
「君の種族は獣人かな?」
「そのハーフだね。人の形を残したまま、獣人と同系統の補正を受けるの。私の場合は聴覚に少しだけ補正がかかるんだよ」
そう言って腰に装備していた自動弓を構えてから射つ姿勢をとる。
矢は装填してないので射つフリだ。
「お父……ハヤテさんの武器は?」
「ないよ。私は冒険をするつもりはないのでね。こちらでも風景の撮影でもしようかとパッシヴにのみ振っている」
「らしいと言えばらしいけど」
呆れたような娘の声に、少し落ち着ける場所に行こうかと孫も連れて行った喫茶店に向かう。
懐に余裕があるので扉を開けるときの手応えはこの前より軽い気がした。
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