【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
18 / 497
1章 お爺ちゃんとVR

016.お爺ちゃん、サハギンと遭遇する

 それじゃあ夕ご飯まで最善を尽くしましょうと言われて集まりを解散する。それぞれに決意を胸にして別々の方向へと歩き出す。


「大変なことになりましたね」

「そうですね」


 ジキンさんだけその場に残ってもらい、語らう。
 彼の瞳には哀愁にも似た何かが漂っているように思えた。


「行かれるのですか?」


 戦場に。周りに追いつけないからと私と一緒にいることを選んでくれた友に呼びかける。


「ワガママばかり言ってられませんし、代役が必要でしょう?」

「私なんかの為にお手数かけます」

「別にハヤテさんの為だけというものではないんですよ?」

「ふむ、何かを決意した男の目をしていますね」

「ええ。最初こそ理解できないとゲームそのものをやめてしまおうかとも思ってました。でもね、あなたと出会い、守るべきものができた。この街然り、ハヤテさん然り」


 ジキンさん……あなたって人は。人としてなんて大きいんだろう。
 そんな貴方とここで出会えたことを嬉しくおもいます。


「それを守ってやりたいって言うのは、持つべきものの特権なんですよ。今までもそうでした。兄弟の中で一番その手の能力に優れているって理由だけで商売を継がされた。最初は嫌々でした。でもね、やっていくと楽しくなってくるんです。あれもこれもと手を伸ばした結果、今がある。気持ちこそ若い時のままここまできてしまいましたが、子供達の将来を考えると席を退くべきかと考えさせられるんです。そんな息子達の頑張りを見てるとね、当時の気持ちが蘇るんですよ。自分にもまだ何かできるんじゃないかって。何ができるかも分からないのにガムシャラになってやってみようと思えたのはひとえにハヤテさんと一緒に行動してからなんですけどね」

「はい。私もね、今の自分にできることを頑張ってみようと思います」

「と、いうと?」


 彼の顔をそのまま撮影してやる。無断撮影なのでこれを使うことはない。


「スクリーンショットですよ。風景ばかり追うのではなく、戦いに赴く彼らの姿を風景と一緒に撮影してやるのも良いかなと」

「ブレないですね。でもだからこそ、貴方らしい」

「ありがとうございます」


 苦笑し、握手を交わす。
 たかがゲームと言えど、多くの人数を巻き込むイベントを引き起こした責任を娘達に任せたままというのは後味が悪すぎる。
 今の自分にできることの再認識をしていくのも大切だと思いなおす。


「ではまた」

「はい、健闘を祈ってますよ」


 ジキンさんと別れる。
 たったの二日一緒に行動しただけだというのに、今生の別れにも似たような雰囲気を醸し出す。なんともはや、馬鹿馬鹿しいものだ。
 女々しいったらありゃしない。妻にこんな姿を見られようものなら指をさして笑われるだろう。たかがゲームに本気になりすぎだって。
 自分でもそう思っているが、ここの暮らしを見てしまうとただのデータのようには扱えないんだよなぁ。まるで生きている人間と接してるような生活が絶え間なく繰り返されてる。その日常の上に今の自分がいるように思えてしまうんだ。

 両頬をピシャリと叩き、気合を入れる。


「さて、自分にやれることをやろうか」


 そんなものは限られている。それこそ地道にクエストを重ねていくことだけだ。人が嫌がるようなクエストを率先してやっていき、日銭を稼ぐような地道な足取り。

 ギルドに行くと、ゴミ拾いのクエストは見る影もなくなっていた。
 娘の流してくれた噂かどうかは知らないが、そこに関心が向けば人は興味を示すものか。
 その中でも相変わらずドブさらいのクエストは売れ残っていた。
 それを手に取り、受付へと持っていく。まるで今の自分のようだとそのクエストに対して親近感が湧いていた。


「頑張りますか」


 蓄えはある。でも自分ばかり動かずにその時を待つというのは性分に合わない。何か理由をつけてでも体を動かしたかった。
 久しぶりのドブさらいは困難を極める。
 ジキンさんと一緒にやっていた楽しさとは違う、地道な作業。
 クリアしたところで手に入るフレーバーアイテムもよく分からないものばかり。こんな時、話し相手がいてくれたらどんなに心強いかと今になって彼に助けられたと思い出す。


「さて、もう一回」


 報酬としては雀の涙もいいところ。それでもパーフェクトには程遠い。どうせやるならばパーフェクトを目指して行こう。
 それが彼と一緒にいる時の私の口癖だった。


「あの」


 そんな時、私の背後より声がかけられた。
 そこにあったのは魚の顔。胴体には手足が生えており、私は振り返った直後に硬直した。


「あ、すいません。サハギンを見るのは初めてでしたか?」

「はい、申し訳ありません。頭が貴方を知的生命体であると理解するのに時間を要しました」

「ああ、いいえ。しょうがないですよ。水生系でも不人気種族ですし」


 なんだかこちらが臆していたのが申し訳ないくらいに萎縮してしまう魚顔の人。私は慌てて居住まいを正して対応する。


「はい、それで私に何か用でしょうか?」

「あ、それです」


 彼の水かきが生えた手に指さされた先にはクエスト用紙。
 そう、これから私が再度受けようと手にしたドブさらいのクエスト用紙があった。


「えっと、今受けようと思っていたクエストですか?」

「はい。僕でもできそうなクエストってこの街じゃそれしかなくてですね。良ければご一緒させてもらえませんか?」

「はい、私と一緒で良ければ」

「良かったです。あ、僕スズキって言います。タイの魚人ですけどね」

「これはこれはご丁寧にどうも。私はアキカゼ・ハヤテと申します。まだこのゲームに参加して間もない素人ですがよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 この名前を出して何も反応がないということは、同年代ではないし、娘達の協力者ではないのだろうと当たりをつける。
 しかしなんだ、話し口調こそ丁寧だけど、お昼ご飯の鮭を彷彿とさせる顔立ちになんだか彼を人類と認めて良いものか判断しかねてしまう私がいた。


感想 1,316

あなたにおすすめの小説

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無実の罪で謹慎中ですが、静かな暮らしが快適なので戻る気はありません

けろ
恋愛
王太子妃候補だった伯爵令嬢エレシア・ヴァレンティスは、ある日突然、身に覚えのない疑いをかけられ、婚約破棄と無期限謹慎を言い渡される。 外出禁止。職務停止。干渉禁止。 誰がどう見ても理不尽な処分――のはずだった。 けれどエレシアは、その命令を前にして気づいてしまう。 誰にも呼ばれない。誰にも期待されない。誰にも干渉されない。 それは、前世で決して手に入らなかった“静かな時間”そのものだと。 こうして始まった、誰にも邪魔されない穏やかな謹慎生活。 一方その頃、彼女を切り捨てた王城では、思わぬ方向へ事態が転がり始めて――? これは、無実の罪で閉じ込められた令嬢が、皮肉にも理想の生活を手に入れてしまう物語。 叫ばず、争わず、ただ静かに距離を取ることで完成する、異色の婚約破棄ざまぁです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。