【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
22 / 497
1章 お爺ちゃんとVR

イベント『滅亡を呼び起こす災獣』2

◆秋人視点

 お義父さんと別れを告げてからログイン。
 娘やお義父さんは夕方までにログイン権使い切ってしまったようなので妻を従えてのログインだ。
 クランリーダーは僕だけど、今回の件は僕の知らないところで起きている。
 このご時世、リアルからゲーム内にコールできるとはいえ、出勤中にそんなことできるわけもなく、それを知ったのは夕食の席でのことだった。
 情報社会では勤務中のコール内容が事細かく記載されてる。勤務中にゲームにうつつを抜かす人材は要らないとすぐに首を宣告されるのだ。
 なので勤務時間が終わるまで、外部の情報は一切遮断している。


「今戻った。話はどこまで進んだ?」

「お帰りなさいマスター」

「お帰り」

「おかー」


 クランホーム内ではそれぞれの位置から反応がある。
 このクランは基本的に生産特化。午前中に採取班が獲得してきた素材を、それぞれの時間にやってきた生産プレイヤーがその日のノルマをこなし、あとはやりたい事をやるのが主流になっている。
 なのでマスタールームでそれぞれの情報を聞くことになるが、当然午前組の声は入ってこない。

 このゲームではログインに規制がかけられており、1日に入れる回数は3回までと決まっている。だから午前中に回数を使い切った人の声は夜組の僕には届かないのだ。

 その為に妻のパープルに情報収集をして貰っていた。
 彼女の仕事は掲示板閲覧から始まり、素材採取場所の確保。そして新素材の情報を情報屋から仕入れるというものだ。
 パープルはお義父さんさえ絡まなければ非常に優秀な秘書なのだ。


「──なるほどね。それで向こうさんのクラマスからコールやメールが届いていたわけか」


 コールは直通の電話。メールはプレイヤーネームを指定しての文章のやりとりになる。当然、コールは相手がログインしている必要があり、していなければ届かない。そして消去法でメールになった。こちらはログインしていようといなかろうと届く。

 僕は外交的な立場にあるので基本的に特定プレイヤーの制限はしてないんだ。中にはクランが不利になる嘘の情報も混ざっているのでそういうものはスパムとして削除してしまってる。

 だから情報系は妻に任せていた。最終決定権は僕にあるから、こう言ったありがたい話も僕を絡めなきゃ進めないようにしていた。
 彼女は優秀だが、お義父さんの指摘通り周囲の思想に染まりやすい。

 今回の話の発端はお義父さんにある。
 そして武力特化の『漆黒の帝』クランとも協力的な姿勢を見せた仕掛け人もお義父さんだ。
 なんだろうか、まるで全てができすぎている。
 これは試練なのか?
 お義父さんはこれぐらいの試練を乗り越えて見せろと僕に言っているのだろうか?

 ともかくとして、生産クランであるウチとしては非常にありがたい申し出だ。うちのメリットは引きこもっての生産ラインの提供だ。
 武力面は向こうに任せて、生産ラインはこちらで一手に担う。その方向性で向こうは求めてきていた。
 そしてイベント期間中はこちらの指示に従うとも。

 同時期に始めたが、圧倒的に格上の『漆黒の帝』がだ。
 見えない力が裏で働いている気がした。
 お義父さん、貴方は一体どこまで僕を試す気ですか?
 結婚して15年経とうとも信用してもらえてない気がして、気持ちが引き締まる思いだった。

 
 情報を統括し、収束させる。
 今回のイベントの規模を考えれば、すべてのプレイヤーにチャンスがある方向で行くことで決定した。
 全てのプレイヤー。それは戦闘ビルドではない我々にもチャンスがあり、新規プレイヤーにもあり、そして中堅、上級者プレイヤーも呼び込める仕掛けを施す。

 それがモンスターの情報や攻撃パターン。イベントに関する情報を集めてくれた人物に対してのポイント贈呈。
 そのポイントをウチのクランで製作したアイテムと交換する権利だ。

 これは参加者になってくれたプレイヤーに配るカードによってこちらで管理する。
 戦闘中に消費されると予測されるポーションやスタミナ回復系アイテムは低ポイントから交換してしまえるように配備し、中堅どころにイベントモンスターの特効武器、アイテム。

 それでもポイントが余るような上級者であれば、ウチの秘蔵の品を購入する権利書をつける。基本的に予約制で二年先まで埋まってる。なにせ高級素材の高品質武器。これぐらいの目玉商品をつけなければ上級者プレイヤーは釣れないからね。

 勿論それ相応のお値段は頂くが、だいたいは転売されてプレミアな価値がつくのでそれよりはマシという価格。買える権利だけでもありがたいと思って欲しいね。こちらもそれまでに費やしてきた素材を換算すればそれ以上の赤字を出しているんだ。強い武器ほど高いというのはどこのゲームでも常識だよ。

 ウチのクランは中堅と言えど、武器や防具の質で言えばトップ層と並ぶ程。並ぶだけで一度もトップに輝けないのは、ウチ以上に生産特化のクランがあるからだ。どこにでも職人気質って人はいるよね。
 ウチはどちらかと言えば子持ち世代が多いのでちょっとした家事仕事の合間とかのながらプレイヤーが多かったりする。
 そういうゆるさがそれなりのプレイヤー確保の根底にあるのだ。
 
 ガチのクラン程リアルを犠牲にしているからね。トップ層はそういう人で埋められてるよ。
 ログイン回数がどうとかじゃなく、思考がそこに特化してしまってる人達。考え方が違うから馴れ合えないんだ。
 悲しいことにね。
 

「それとオクト、お父さんのブログの件だけど」

「今確認した」


 オクトは僕のゲーム内ネーム。
 秋人=秋=10月生まれ=October=オクトという単純な着想だ。

 お義父さんが残してくれたのはイベントだけでなく、もっと大きなものだった。


[スキル:中位錬金を獲得しました]

[スキル:上位錬金を獲得しました]

[水銀のレシピを獲得しました]

[水銀錬成を獲得しました]

[スキル:中位合成を獲得しました]

[スキル:上位合成を獲得しました]

[錬金、中位錬金、上位錬金、合成、中位合成、上位合成は特定派生の元統合され『魔導錬金』になりました]


 それは今まで取りこぼしていた情報群。
 生産しただけではつかめなかった空白の歴史が、僕の中へと流れ込んできた。

 思わず乾いた笑いが出てしまう。
 お義父さん、貴方は一体どこまで僕を振り回すおつもりですか?

 聞けばクランメンバー全員がこのブログからなんらかのスキル統合まで持っていってると聞いた。
 もはや全員がお義父さんのブログの固定ファンだという。
 それ以前に、読んでてしんみりするといった。

 メンバーの中には早くに親御さんをなくしたプレイヤーもいる。
 その世代の独特の語り。独特の感性を感じ取り、懐かしがっていた。
 同時にそんな親を持てて大層羨ましがられたよ。パープルもいつになく自慢げに話していたっけ。

 やはりお義父さんは僕の見込んだ通りの人だった。本人は頑に自分は大したことをしてないというが、それをさらりとやってのけるから凄いんだと自覚していない。
 でも、だからこそなのだろう。

 僕も早くお義父さんに認めてもらえるように頑張らなくてはいけないな。
 思わず握った拳を力強く握り締めていた。
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無実の罪で謹慎中ですが、静かな暮らしが快適なので戻る気はありません

けろ
恋愛
王太子妃候補だった伯爵令嬢エレシア・ヴァレンティスは、ある日突然、身に覚えのない疑いをかけられ、婚約破棄と無期限謹慎を言い渡される。 外出禁止。職務停止。干渉禁止。 誰がどう見ても理不尽な処分――のはずだった。 けれどエレシアは、その命令を前にして気づいてしまう。 誰にも呼ばれない。誰にも期待されない。誰にも干渉されない。 それは、前世で決して手に入らなかった“静かな時間”そのものだと。 こうして始まった、誰にも邪魔されない穏やかな謹慎生活。 一方その頃、彼女を切り捨てた王城では、思わぬ方向へ事態が転がり始めて――? これは、無実の罪で閉じ込められた令嬢が、皮肉にも理想の生活を手に入れてしまう物語。 叫ばず、争わず、ただ静かに距離を取ることで完成する、異色の婚約破棄ざまぁです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。