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2章 お爺ちゃんとクラン
050.お爺ちゃん、打開案を示す
「さて、お互いに挨拶も済んだところで今回シグレ君を呼んだ目的を話すとしよう。私が一方的に話すから君はスタミナを回復させるのに勤んでくれたまえ。マリンもお代わり自由でいいよ」
「大丈夫」
謙虚な事だね。それだけフレンドとクラスメイトと言う線引きで警戒度が変わる訳か。
マリンは目の前に座るシグレ君に対して警戒心を強めている。
それは表情から見れば解るが、それ以上にもっと言葉では言い表せないものを感じさせた。
「ではまず最初に、検証班の目的についてだ。君達検証班は誰かからお金をもらって商売としてその仕事をしているのかな?」
その質問に対し、シグレ君は黙っていられないと口を開く。
「いえ、自主的に参加し、知っている事を率先的に公開する事で少しでも多くのプレイヤーにこのゲームを楽しんでもらう事を目的としています」
「なるほどね。つまりは善意の上での自己満足。そう解釈させて貰うが構わないかね?」
「概ねその通りです」
「解った。では次の質問だ。何故他人からのスキル情報がそんなに気になるんだろう? 中には強引に聞き出すケースもあると言う。さっき君は検証自体は自己満足だと言ったね? これに他人を巻き込む理由を教えてくれないか? 勿論、君がどう思っているかでお願いするよ?」
口調は優しいままで、しかし意地悪な質問をする。
心なしかさっきまでソワソワしていたマリンの表情が強気になっていくのが見ていて面白いなぁ。
シグレ君もどこか言いあぐねているように思える。 だからこれに答えたからと情報を教えないわけではないと口添えをしたらハキハキと喋ってくれた。
そこには自己満足だけでは擁護できないような独善的な見解も含まれていた。
「そうですね、まず根本的に情報公開はゲームをする上での重要な役割を担っています。あたし達検証班は率先して開示しているわけですから、違うパターンも当然欲しいわけですよ。アキカゼさんもブログをやられているから解ると思いますが、ブログって誰でも見れる前提なのでそこには情報料は発生しないじゃないですか? なのに書き込みは残るし、もっと埋めろと文句ばかりしたためられてると、だったらそっちも情報くださいよとなるわけです。確かにこちらは善意でやってますが、プレイヤー毎に派生先が変わるんですから少しぐらい協力して欲しいなとあたしは思う訳です」
「ふむ。早速自己満足の領域を超えてきたね? まるで君は実物の見えない読者に対して憤りを覚えているように感じる。君は結局検証班の一員として一括りにされていることに苛立ちを覚えているんじゃないか? その事を見えない誰かに言いたい、けど言えずに自分を追い込んでしまっている。そのうえ上層部からまるでノルマでも設定されてるかのような焦りぶりに、見てて痛ましさすら感じてしまうね。君はそれで疲れないのかな?」
「そうですね、はい。その通りだと思います。 最初こそジャーナリストになるための足がけとしてメンバー入りを果たしました。 ですが内情はお察しの通り欲に塗れたものでした。お恥ずかしい限りですが」
「その場所を辞める事は出来ないのかな?」
「出来ますが内情を知ってますので言い振られまいと見張りをつけられると思います。だから抜けるに抜け出せなくて。そこで今一番欲しい情報を持ってるアキカゼさんにコンタクトを取れるかどうかでみんな躍起になってるのかと」
なんだかきな臭くなってきたねぇ。
こちらとしてはもっと仲良くしたいのだけど。
上がそんな悪徳業者みたいなことしてて下の者達はつい来てくれるんだろうか?
「お爺ちゃん、どうするの?」
「うん、私はシグレ君に協力してあげてもいいと思ってる。けどシグレ君個人にだ。検証班にではない」
そうキッパリ行ってやると、マリンは驚いたように目を見開いた。シグレ君も同様に。
だが同時にそんな上手い話があるわけがないと懐疑的でもあった。
「それは大いに助かりますけど、何か裏があったりします?」
「そうだねぇ、君には個人的にブログを書いてもらいたい。それを私が見て評価するというのはどうだろう? 将来ジャーナリストになりたい君の手助けくらいはしてやれると思う。 それとついでに書き込み方法とかも教えてくれると嬉しいな。開示設定はフレンドのみにしてくれれば私は見れるが……」
「それならメンテナンス後に増えた個人設定ではどうですか? これならフレンドを上限いっぱいまで増設したあたしのフレンドにならなくても読めます。 しかしなんであたしのブログを読みたいと思ったんですか?」
へぇ、そんな機能も増えたんだ。これでフレンドをブログに誘いやすくなったぞ。なんだい、みんなは渋っていたが私的に神アプデじゃないか。
「そうだねぇ、個人的な見解を聞くのが大好きな人間だからだ。うちのマリンは残念なことに正解と思われる答えしか示してくれず、自分の考えを持てない子なんだ。まるで違う事をするのが恥ずかしくて仕方がないのかもしれない。もしかしたらそういう世代なのかもと思った。けど君は違うみたいだ。そういった意味で君がどんな文を書くのか個人的に興味がある。もし君が良ければ是非フレンドになって頂きたい。そして君の意見を私のブログにぜひ残して欲しい。残念なことに私のブログは一件も書き置きがなくて寂しいことになっているんだ。その指標になってくれると助かるな」
「そういうことでしたら願っても無いことです」
シグレ君から受け取ったフレンド申請を受諾する。
「さて、それで私が渡せる情報は……マリン、さっきメールで送った情報を彼女に渡してあげなさい」
「いいの?」
「ああ、それについての質疑応答を今から行うからね。ただし私は自分以外のスキルビルドを知らないので体験談しか話せないがいいかね?」
「充分です! ありがとうございます」
シグレ君はガバリと席を立ち上がり、その場でお辞儀をした。
勢い余っておでこをテーブルに打ち付けていたが、慌てん坊だねぇ。
そして早速見たことのない情報に期待に満ちた顔をさせていた。
その横では何故かマリンも威張っているように見える。
「なんだろう、この……言葉では言い表せないようなスキルばかりありますね。早速経緯を伺ってもいいですか?」
彼女のコップはすでに空っぽ。
マリンのも同様だ。
私は店員さんを呼んでそれぞれのおかわりを促してから自分の知る限りの情報を教えた。
シグレ君は熱心にメモを書き込んで、あれこれ悩んでから自分の見解を記している。流石ジャーナリスト志望の事はあるね。マリンとは熱意がまるで違う。彼女の目的はもっと浅いものだからね。
私に褒めて貰うことが終着点だから、ありきたりな答えで済ませてしまうんだ。けれどそれを仕事にしたいシグレ君はそれで食べていくつもりだからこそ力の入れ方が違った。
マリンにもこれぐらい熱心に物事を見て欲しいなぁと私は思うんだ。
「アキカゼさん、今日は独占取材ありがとうございました!」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。私達はもうフレンドだろう? またこちらから相談に乗ってもらいたい時連絡するから応えてくれたら嬉しいな」
「その時は是非! ログインしてなくても駆けつけますよ。それではすぐに記事にしてしまいたいのであたしはこの辺で」
「うん、足元に気をつけてね」
「そんな子供じゃありません!」
そう言いながらも早速転びそうになるのはマリン達の間で流行ってる事なのだろうか?
遠く去りゆく背中を見つめ、呟く。
「元気な子だったね」
「うん。でも普段はもっと追い詰められてるような感じで怖いっていうか……」
孫は普段の彼女の様子を白状した。
「それはきっと何か理由があるんだろう。あの子はそこまで悪い子じゃないよ。 それとマリンは私が誰かに取られないか心配してるようだけど、私がマリンを置いて他の子に現を抜かすような男だと思うかい?
私が純粋に可愛がるのは身内だけだよ。あとはどっちかと言えば対等な関係だと思っている」
「うん、そうだよね。私はその事がずっと気がかりだった。お爺ちゃんは私だけのお爺ちゃんだって信じて良いんだよね?」
「当たり前じゃないか」
席を立ち、喫茶の会計を済ませる。
シグレ君との接触以降、周囲からの目は若干だが緩和したように思えた。
「さて、ここから先は先ほど知った知識からいろいろ模索して行こうか。ついてきてくれるかい?」
「うん!」
元気いっぱいな孫の声を聞き、私は目的の場所へと歩き出した。
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