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2章 お爺ちゃんとクラン
052.お爺ちゃんには頼もしい家族がついている
「おかえりなさいお父さん。お夕飯出来てますよ」
「いつも悪いね。手伝おう、手伝おうと思うんだがゲームにばかり夢中になってて。ちょうど今美咲も来る。先に手洗いとうがいだけでも済ませてくるよ」
「そうね。今日は秋人さんも早く戻って来るし、どうせだから時間合わせちゃいましょうか?」
「そうしてしまおうか」
娘からの申し出に頷き、ちょうど自室から出てきた孫を誘って洗面所へと向かう。
並んで手を洗って、交互にうがいしていっしょにキッチンに戻る頃には秋人君も帰ってきていた。
「おかえり、秋人君。随分早い帰りだけど会社の方で何かあったのかい?」
「いえ、今後のことも含めて金狼さんと少しお話があったので会社は早退したんですよ。もちろん、仕事はしっかりした上でです」
「そうだったんだね。彼とは仲良くやれそうかい?」
「ええ。お義父さんがせっかく繋いでくれた縁ですから。と、その前に手洗うだけしてきますね」
「ああ、引き止めてしまったようで悪いね」
「お母さん、今日のご飯は?」
「ハンバーグよ」
「やったー」
美咲は本当にハンバーグが好きだね。
「お父さんはどうする? 一応こういうのもご用意したんだけど?」
そこにはシンプルな煮魚があり、私はそちらを選んで食べることにした。由香里はだと思ったと苦笑し、ハンバーグを自分の席へと置く。
初めからそうするつもりだったようだ。私がそう答えると知っていてあえて聞いたんだね、人が悪いなぁ。
「「「「いただきます」」」」
四人の声が合わさって、それぞれの箸がおかずを摘んで口へと運んでいく。食事中は静かに、なんてこの家族間では野暮ってもんだ。
口を開けばゲームのことしか喋らない我が家の話題は今日もAWOの話で賑わう。
「お父さんは今度何をするの?」
「そうだなぁ、山に登ろうと思うんだ」
「お義父さんらしいですね。けどセカンドルナに登山できるような場所あったかなー?」
秋人君が頭を捻り、咀嚼していたものを飲み込んだ。
「取り敢えず歩いていける場所をしらみつぶしに歩いていたらね、領主邸というものが見つかったんだ。秋人君や由香里は知ってるかい?」
付け合わせの味噌汁を口にして喉に流し込む。
口内に駆け巡る味噌の風味がサバの煮付けの旨味に相乗効果を付与するようだ。
「あー、聞いたことはあります。けれどそこでNPCとか見てないですね。立派なお屋敷の前に人も付けないのだからまだ未実装、もしくはイメージ的な建築物なのだとプレイヤーは思ってますね。しかしお義父さんは違うのだと言いたげですね?」
「今日そこでお爺ちゃんと一緒に張り込みしてたんだよー」
美咲が事前に切り分けたハンバーグを箸で掴み、両親に自慢するように呟く。
私に振り返る四つの瞳は若干呆れの方が上回っていた。
孫を連れて何をやっているんだかと言いたげだ。
「何か収穫はありましたか?」
「うん、一応は面白いものが見れたよ。それが馬車だ。多分荷馬車だと思うんだけど、最初は見た目を気にしないようなボロい作りで、領主邸に入っていくところを確認したんだ。馬車が門の前に行くと門は自動で開いて、荷馬車は中に入っていった。だからそこに同乗、もしくは一緒についていけば入れるのではないかと思ってる」
そこまで言い切ると今度は美咲が後を継いでくれた。
「それで、出ていくときはすごく大きな馬車! でもすごいスピードで私でも追いつくのがやっとだったんだー」
娘は顛末を聞いて何やってんのよという目で私と美咲を交互に見た。
しかしそこへ興味を示したのが秋人君。
「それはおかしな話ですね。それで行き先は?」
「それがサードウィルの領主邸だって話だよ」
「ふぅん、そこに繋がるんだ?」
納得するように頷き、秋人君は何かに気がついたような顔をしている。
「あなた、イジワルしないで私にも伝わるように教えて頂戴」
「ごめんごめん。多分きっとお義父さんはあの街がどうやって財政を支えているかを疑問視しているんだと思う」
「えっと、どうして?」
訳がわからないと頭の上にクエスチョンマークを置く由香里。
そこへ秋人君が噛み砕いて説明する。
私はそれを見ながら胃の中へ味噌汁を流し込んだ。
「不思議に思ったことはない? セカンドルナの産業はとてもじゃないがあまりにも拙い。それが銀の出土であり、あの周辺に銀鉱山しか無い事実。プレイヤーから生産施設の充実という面では大きなメリットがあるが、それだけであれほど大規模な街が賄えるとは思えない」
「確かにそうね。銀の登場で装飾系は大きく豊かになったけど、近隣モンスターのパターンから見ても無理をして買い換えるほどじゃ無いものね。そう思うと確かに不思議よね、銀という素材でそこそこ大きな街を支えているってことよね?」
「そこで美咲が得心いく答えを私に代わって拾ってきてくれたんだ」
私が孫の方を振り向くと、待ってましたとばかりにソワソワし出す。
しかしここで勘の鋭い秋人君が言葉を繋げてしまった。
「それがサードウィルの領主邸というわけか」
「それだけじゃなく、そこに魔道具の存在も付与される。美咲、話してあげなさい」
「うん」
美咲は得意げに馬車に乗っていた時の周囲の状況を伝え、そこで魔道具が関与しているのでは無いかと疑いを見せたのだ。
「魔道具? 確かにサードウィルから魔道具を購入することができるけど……あ、魔道具製作と斬っても切り離せない素材があるね」
「確か、ミスリルだったかしら?」
「うん。ミスリルは銀と同じく熱には弱いけど魔法を伝達する力が優れている分、銀よりも価値が高いんだ。武器や鎧にも使われてるけど、耐久的な意味ではなく魔法伝達的な意味が大きいね。魔法付与の媒介にも使えるし、用途の多い鉱石だよ。そうか、つまりお義父さんはミスリルの出土先がセカンドルナである可能性を疑っている訳ですね?」
私の考えを彼はピシャリと当ててきた。
流石だね、頼りになる。
「うん、私はそう思っている。だからこそ、そこへ通じる鉱山の入り口を領主が隠しているのではないかと踏んだんだ。最悪そこから登山できれば私は満足する。ミスリルなんて実の所どうでもいいからね」
その考えに家族全員が笑った。
「お義父さんらしい、と言ってしまえばそれまでですが向こうがそれを許可してくれる可能性は限りなく低そうです」
「だよねぇ、なにせ目隠ししてまでその存在を秘匿しているし、山に登りたいだけの理由じゃ許可なんて下りないと思うよ」
「でもそうですね、手がない訳がないでも無いです」
秋人君が思わせぶりな態度を取り、顎に手を置いた。
「何かアテがあるのかい?」
「ええ、こう見えて僕は生産者としてなら顔は結構広いですから。1日だけ僕に時間をください。商業ギルドと話をつけてきますよ。荷馬車の出どころなんて殆んどが商業ギルド関連だ。そこを調べてきます。お義父さんはその間もう一つのルートを検証してもらえませんか?」
「分かった。領主邸の方は秋人君に任せるとしよう」
「ええ、久しぶりの腹の探り合いに腕がなります」
そう言って意気込みを見せる彼に、やはり私は幸せ者だなと思う。
こんなに自分のワガママに向き合ってもらって、それに家族一丸となって協力してもらえる事のなんと幸せなことか。
話が終わればリアルの事情を片付けるのみ。
食事を終えて、お風呂を取り、歯を磨いて床に着く。
おっと忘れていた。これを被らなければな。
ヘルメットを頭につけて、ログイン。
少し遅れてやってきたマリンと合流し、街以外のルート開発に着手するのだった。
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