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2章 お爺ちゃんとクラン
053.お爺ちゃん、背中を見られる
丁度セカンドルナの玄関口から外に向かうところで背後から声をかけられる。そこにはどこかで見た事のあるような狼の頭を乗せた獣人が一人。石壁に背中を預けて腕を組んでいた。
「お、外に出るのか? ならついていかせてもらうぜ」
「失礼ですがどなたですか?」
孫を背に隠すようにしながら警戒を強める。
突然の事にマリンはビックリしていたようだけど、そうされたのが嬉しかったのか、背中に頭を擦り付けてくるのだ。
ちょっと、動きづらいからやめて欲しいんだけど。
「あれ? 親父から伝言聞いてると思ったんだけど」
その口ぶりでどこからの使いかようやく理解する。
「ああ、ジキンさんとこのお子さんでしたか。来るなら来るってひと声かけてくださいよ。どこの誰かと思ったじゃないですか」
「そうそう。そこの四男でさ、こっちではロウガって言うんだ。金兄や銀兄、熊兄共々よろしく頼むぜ。後下に一人居るけどそっちは生産ばっかりやってるから護衛役はしないと思う」
「犬のじぃじのお知り合い?」
「そうみたいだね」
「そっちのちっこいのが居る時点でここら辺の敵には過剰防衛もいいところだけど一応接触してるところを周囲に見せつけておく必要があると銀兄からのお達しだ」
「なるほど、周囲の目撃情報を加味して守ってくれると」
「そういう事。ただでさえそっちのちっこいのは固定ファンが多くてな。そう言った僻みなんかの対象に挙げられるんじゃないかって危惧してるらしいんだ」
「さっきからちっこいのちっこいのってもしかして私のこと?」
憤慨するマリン。
彼女は特に『小さい』という言葉に過剰反応するお年頃。
禁句中の禁句を何度も言われて怒り心頭になっている。
どうもロウガ君は女性に対する気遣いとかができないタイプらしいね。それでも結婚できるあたり、他に魅力があるのだろうか?
「まぁまぁよしなさい。噂や情報でしかお互いを知らないんだ。実力を見せるチャンスはこれからいくらでもあるだろう?」
「お爺ちゃんがそういうなら……」
「そうだな。俺も言いすぎた。あの親父が認めた手腕、こちらも確かめさせてもらうよ」
ロウガ君は急に真面目な顔をしたと思ったら私の顔をまじまじと見定めてきた。だいたいにして私の手腕って?
「なら勉強していくといい。さぁ、少し時間を無駄にしてしまったな。早速探りを入れて行こうか」
含みのあるやり取りで話を打ち切り、出発する。
私から何を盗むつもりかわからないけど、好きにしたらいい。
私は私で好き勝手させてもらうさ。
「うん、でも目的地は決まってるの?」
「大方ついているよ。まずは行き詰まった私有地周辺の探索だ。それと周辺の木々に登って山道があるかどうかの確認もしてしまおう」
そんな風に孫と一緒に話をしてるとロウガ君が話に混ぜて欲しそうに目配せしてきた。
「付いてきた手前どこに向かってるかの説明だけして欲しいんだが?」
一応護衛目的だから場所によっては向き不向きがあると言いたげだ。
確かに水の中に行くと言われたら嫌な顔しそうだもんなぁ。
マリンがいる手前、絶対に行かないけど、もしかしたら湖の下を通って入るルートとかもあるかもだし、ないとも言い切れない。
よし、ここは当たり障りのない言葉で納得させてしまおう。
「そうだねぇ、今日の行動は全くの手探りだ。確かな情報なんてないので闇雲に行動しているように見えるかもしれない。けれど行き詰まるということは、何かのキーワードが足りてないということでもある。一見無駄なような行動も、何かの伏線になることだってあるんだ。それの積み重ねがイベントの発掘に繋がったり、古代からの伝言を得られたりと私は思ってるよ?」
「ふむ。分かるような分からんような。それで最終目標は?」
ロウガ君の問いかけに、私は笑顔で答えた。
「あの山に登ることさ。あの雲を突き抜けた先の景色を是非ともスクリーンショットに収めたい。それをブログのネタにしてフレンドさんと語り合いたい。むしろ私の活動方針はそれだけだな」
「はぁ。なんとなくだけど親父の言いたいことがわかってきた気がするぞ。この道無き道を突き進む感じを見習えというのか?」
なんだかこの人失礼なこと考えてませんか?
それでも的を得ている。ジキンさんが私に何を見ているのかは知りませんが、そこから彼の成長につながる何かを見つけたんでしょうね。
あの人はそういう観察眼が鋭いひとだから。
「彼に何を言われたのかはあえて聞かないけど、そうだね。ロウガ君にはこれから護衛だけじゃなく経験則による意見も聞きたいと思うんだが大丈夫かな?」
「俺なんかで良ければ」
「お爺ちゃん、私も私も!」
キャラの薄さを気にしてか、マリンはその場で飛び跳ねてアピールしてくる。
そんな必死さをロウガ君と共に微笑ましく見守りながら行動を開始した。
探索を開始して二時間。
私のスタミナ上限は135%。ゆっくり歩くだけでも自然回復するのでみんなが休憩中でもその間に近くの木に登っては、天辺から周囲の景色を見比べてマッピングに勤しむ。
歩いたところはオートでマッピングされるとはいえ、それ以外は目視でしか確認することもできず調査は難航する。
木登りから帰ってくると、食事を終えた面々が水分をとって準備運動を始めているところだった。
「ハヤテさん、道はあったか?」
「うん、少し戻るが、奥に通じる道を見つけたよ」
「お爺ちゃんは食事しなくて平気なの?」
「木の上で少し頂いたので平気だよ」
ぱっぱと服に付着した木屑を払い、早速その場所に行こうと歩き出す。後ろからは仲の良さそうな声が聞こえてくる。
一緒に行動しているうちに、仲が良くなってくれたんだろうか?
それだったら何よりだねぇ。
せっかく同じゲームで遊んでるんだし、仲良くして貰いたいものだよ。
「すげーなお前の爺ちゃん。さっきからずっと動きっぱなしじゃん。あの親父が見習えって言ってたのはこういう行動力か。確かにこれは俺にはないものだ。なんでもないように木登りし始めた時はビビったけど、それがあるからこそこうやって道が開けてきているっていうのはすげーことなんだよな?」
「お爺ちゃんは凄いよ! でもあげないからね?」
「そいつは残念だ。是非うちの親父と交換して欲しかったんだが」
「犬のじぃじは嫌いじゃないけど、一番はお爺ちゃんだもん。絶対に渡さないもん!」
「ウソウソ、冗談だって。そうムキになんなよ」
いがみ合っているようでもすっかり仲良くなった二人の掛け声のタイミングを見計らい、声をかける。
「こっちだ。少し屈んでいく必要はあるが、この先に隠し通路がある」
私の言葉にさっきまでいがみ合っていた二人はこちらに向き、私の後に続いた。
この森、至る所に一見して通れないような隠し通路があり、私達はその一部を突き進んでいた。
上から見る限りでは、その先に山に通じる登山道があったから。
だったらそこを目指さない手はない。
私の目的はただ一つ、山を登ることだけだからね。
ただ、山頂に至るにはいくつか別のルートをといらなければいけないらしく、このルートはそのうちの一つでしかないのだ。
それでも手応えを感じた。
一歩一歩着実に距離を詰めていくのが楽しくて仕方がない。
そしてようやく見えた岩肌に、全員が笑顔になった。
「ようやく第一歩ってところだ」
「本当に探し当てちまった」
「だから言ったでしょ、お爺ちゃんはすごいって」
「へいへい」
自慢する孫に、気圧されるロウガ君。
いや、あれは単に呆れているだけだな。
マリンもわかってて相手してあげているみたいだ。
「さて、私はひと登りしてくる。足場を確保したらロープを下ろすので登ってきてくれ」
「うん、分かった」
「ゲッ、まだ付き合うの?」
表情を青ざめさせるロウガ君。
「おいおい、こんなもので根を上げていたら学べるものも学べないぞ? 私の真骨頂はここからなんだし」
「はいはいやりますよっと」
ロウガ君は自分の立場が弱くなると途端に卑屈になるね。
だからだろうか? ジキンさんから促されて私の元に送り込まれたのは。まぁ思惑なんてどうでもいい事だ。
私は岩肌に手をかけ、ひょいひょいとなれた手つきで登っていく。
コレは垂直移動様様だな。
息切れを起こす前にある程度の足場のある場所を確保し、マリン達のいる場所へとロープを下ろした。
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