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2章 お爺ちゃんとクラン
054.お爺ちゃん、登山家を紹介される
やはり山はいい。
すぐ下から泣き言が聞こえてこなければ尚よかったのだが、やはり私の進行に孫とロウガ君はついてこれないようだった。
だからと言って道中の戦闘も私一人じゃこなせないし、ここはジキンさんのような体力もあって戦闘もできる追加メンバーが欲しいところだ。
とは言え率先てきに人脈作りをしてきてないからねぇ、どこかで出会いはないものか……
それはさておき、
「どうした若者達。そんなザマじゃすぐに日が暮れてしまうぞ?」
「お爺ちゃんは常時スタミナが回復するからいいけど、私達は登ってる最中は減りまくりだから、いくらロープを登ると言っても、一度に登る距離がありすぎると、うわぁああ」
そう言いながらマリンは落ち、下で待機していたロウガ君にキャッチされた。
「ありがと、狼のおじちゃん」
「無理すんなって。あとおじちゃん言うな、俺はまだ二十代だ」
「じゃあお兄ちゃん?」
「どうとでも呼べ」
そう言いながらもどこか嬉しそうにマリンを下ろすロウガ君。
それはツンデレってヤツかな?
言葉こそぶっきらぼうだが、対応は悪くないのでマリンもどこか気を許したようだった。
道中の抜け道ルートを記載し、街へと帰る。
最寄りの喫茶店に入り、ロウガ君とマリンへ一杯奢ることにした。
早速運び込まれてきたマンゴードリンクで喉を潤し、飲みきるや否やテーブルに頭から突っ伏す。
「今日は疲れたー。もうロープに捕まるのはいやー」
「はいはい、無理をさせて悪かったよ」
「ハヤテさんはいつもあんな無茶を?」
「無茶なのかねぇ? 私としては戦闘ができない代わりにスタミナに全振りしているから、まだまだ余力があるくらいなんだが? 今回なんかも君たちがついてきてくれないから途中で下山したようなもんだし?」
「マジかよ。それに付き合う親父も相当だけど」
「そうだねぇ、スピードもさることながらその嗅覚の高さが彼の魅力だと私は思うんだよ」
「確かに獣人は鼻が良くなるけど」
「そっちの嗅覚じゃなくて、なんというかね。物事を観察する本能みたいなものがすごく強い。そこに至るまでの経緯を読み取り、形作るのが上手いんだ」
それを聞いてロウガ君は深く頷いていた。
きっと仕事に取り組んでいる時のジキンさんを思い出しているのだろうね。私の話を聞きながら、うんうんと唸ってはそうなんだよなぁと相槌を打っている。
「だからか彼と話をした時、すぐにこの人は凄い人だと感じ取ったよ。それと同時にどこか無理をしてるってね。私のような年下に対して丁寧語を繰り出す彼は、苦虫を噛み潰したような息苦しさを感じたものさ。すぐにボロを出したけど、それからは随分と付き合いやすくなったよ。今では数十年来の友達のような付き合いさ。出会って一週間しか経ってないと言うのに、不思議なものだ」
「そういや親父が自分より年下にへーこらしてんの見たことねーわ。思えば大企業の社長だからって弱みは見せないように生きてきたからかもな」
「だろうね。彼はどこか同年代に対して距離を置く癖がある。でも私とこんなにも仲良しに慣れたのは何がきっかけだと思う?」
「親父から聞いた。一冊のコミックがきっかけだったって」
「うん、そうだ。私が学生の時にとある雑誌で始まった連載。私や彼はその作品が好きだった。たったそれだけの事で立場など忘れて当時を思い出して夢中になれた」
「そうだったんだな。納得した。あの頑固親父が会社を辞めてまで一緒に行動したがる人物と聞かされた時、一体どんなヤツなのかと気にしてたけど……」
「案外普通のおじさんだろう? あの人は大仰すぎるんだ。なんでもない事を大袈裟に言う。振り回される君たちは大変だろうね?」
私の言葉に、ロウガ君は首を横に振った。
「いいや、十分化け物だよ。それを自覚出来てない時点で世間からズレまくってるって一緒に行動して気づいた」
酷いなぁ。やはり彼はジキンさんの子供だね。悪口まで彼とそっくりで容赦ない。だが悪い気分はそれほどしない。そう言うところも似通っているものだなぁ。
薄々は気がついていたよ。自分と周囲の感性が違うと言うことは。知っていて、知らないフリをし続けていた。知ってしまったらいまのように夢中になれなくなるかもしれないと思ったらね、敢えて気づかなくてもいいんじゃないかと思って、蓋をした。
「お爺ちゃんはそれが長所だから。本当だったら自慢できるようなことも全然しないの。でも自分がいいと思ったところはこっちが恥ずかしくなるくらいに自慢するのよ?」
「同時に短所にもなってないか、それ?」
「そうかな? 価値の受け取り方は人それぞれだよ。お爺ちゃんはそういうのが特に顕著なの」
「あー、納得した。自分にとって価値がなければとことんどうだっていいってタイプだな?」
「君たち、本人を前にして言いたい放題じゃないか。もう少し年配を敬う事を覚えたらどうだね?」
私の言葉に二人は顔を見合わせ、くすりと笑う。
「だってー、お爺ちゃんは言わなきゃわかってくれないもん。私の心配なんてどこ吹く風でどんどん前に行っちゃうしさ」
「ああ、ウチの親父もそう言うとこあるわ。要は似たもの同士って事なんだな?」
誰が似たもの同士ですか、失礼な!
「それよりも一緒に同行してくれる人が欲しいところです。マリンやロウガ君は口ばかり達者で体力ないし」
「いや、あの行動力についていける方がおかしいだろ? 戦闘でだってあそこまでスタミナ減少した覚えないぜ?」
「私もー。トップスピードに至ってからは、むしろ減速する方に余力を回すけど、お爺ちゃんみたいに止まったら死ぬのってくらいに動き回れないよ」
みんなして酷いな。でもだからこそそれについてこれたジキンさんとスズキさんのスペックの高さに感謝しかない。
ああ、どこかに自分と同じ目的を持つものはいないものか。
せっかく登れるところまで来ても、本末転倒だよ、これじゃ。
なんだかんだと私の悪いところを言い合う孫とロウガ君は息ぴったりで会話を弾ませる。
私は視線を外してブログに目を落とし、そこで同好の志を見つけ出す。
「これだ!」
「どうしたの、お爺ちゃん」
「ブログの32ページ目、上から6番目の記事」
「ふんふん、ってあー、山登り同好会?」
「あー、あいつらか」
「知ってるのか?」
「知ってると言えば知ってるけど」
マリンとロウガ君は顔を合わせたあと、大きなため息をつく。
「うむ。少し頭のおかしい連中でな」
「でもお爺ちゃんとなら波長があうかも?」
「確かに。山登りに命かけてる連中だからな。確かウチの会社にも何人か居たはずだ。連絡つけてみようか?」
「是非頼む」
興奮し切りに頼むと、マリンが寂しそうな顔になる。
「またお爺ちゃん遠くに行っちゃった……」
「別に私はどこにも行かないよ? ただあの山を上り切るのに私一人じゃどうしても限界があるのさ。そのための同志が必要なだけじゃないか。ゴミ拾いの時のジキンさんや水路掃除の時のスズキさんのようにね?」
「そうだけど、そうじゃなくて」
「マリンとあまり一緒にいてやれなくて悪いなとは思ってる。だからこうやって難航してる時はなるべく一緒にいてやってるし」
「うん、それはありがたいんだけど、私全然お爺ちゃんの役に立てないなーって」
「立ってるよ。マリンはこれ以上ないくらい役に立ってる」
「そ、そうかな?」
少し褒めれば簡単にコロッと行くのがこの先非常に心配だけど、居てくれるだけで私は十分に癒しになってるよ。
彼女の魅力はすでにこの世界で確立されてしまっているけど、それを抜きにしても孫というのは可愛いものだからね。
「連絡がついたぜ。こっちにきてくれるそうだ」
「おお、わざわざ悪いね」
「なーに、こっちも親父から手を貸してやってくれって言われてたしさ。一緒に同行できないんじゃ代役を立てるしかねーし、と。来たようだ。おーい、こっちだ」
「ロウガさん!」
そうやって現れたのは、平凡そうな顔の人間タイプの青年だった。
しかし体に纏うフル装備で只者じゃないかとがわかる。
「紹介する、こいつはナガレ」
「ナガレです。この度はなんでも我らが山登り同好会に興味を持ってくれたそうで。あ、これパンフレットになります」
流麗な動作で、懐から取り出されたパンフレットを受け取った。
「これはわざわざご丁寧にどうも。アキカゼ・ハヤテと申します」
「アキカゼ・ハヤテさんですね?」
ナガレと名乗った青年は、まるで私の存在など聞いた事もないように接した。
ああ、そこでようやく孫やロウガ君の言いたいことが分かった。
彼らは世情に疎いんだ。
頭の中は山のことばかり。それ以外はどうだってよく、そのためだけに全力を尽くす。
なるほど、確かに変な人たちだ。
でも彼らの気持ちが痛いほどわかる分、同じ穴の狢なのだろうなと思う私だった。
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