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2章 お爺ちゃんとクラン
060.お爺ちゃんはイベントを開催したい
と、言うことで神保さんを誘って三人で何かやることにした。
何をするのかは会ってから決める。正直な話、会って見ないことには決めようがないのだ。
そもそもスキルから何から何まで違うであろう私達。
やれることはあまり多くないと思うのだ。
「おはようございますジキンさん。先ほどぶり」
「やぁハヤテさん。先ほどぶり。神保さんはまだ?」
「移動に時間がかかるんじゃないですか? ログインスポットはサードウィルと聞いていますし」
「なるほど」
「あ、そう言えば。前回四男のロウガ君に新しい人脈を築いてもらったんだ。代わりにお礼を言っておいてもらえませんか?」
「へぇ、あの子がね。分かった、引き受けましょう。とは言えウチでは過剰に褒めないようにしてるのでハヤテさんがよろしくしてた程度の報告ですが」
「もっと褒めてあげてくださいよ」
「ダメダメ。男兄弟は褒めたってつけ上がるだけです。ハヤテさんのご家族を見てれば褒めすぎるのも問題だなと再確認した程ですよ。僕のやり方は何も間違ってない」
ジキンさんはいつになく強気で力強い目をしてる。
はいはい、そう言うことにしておきますよ。
彼と二人で雑談に花を咲かせていると「もし」と声をかけられた。
私とジキンさんは揃って声のした方を振り向く。
するとそこには見るからにドワーフと思しき見た目の男性が人間違いかとバツの悪そうな顔をしていた。
「ああ、すまない。実はワシはこう言うものなんだが、今日はここで待ち合わせをしとるんだが、心当たりはないか?」
一枚の名刺を受け取り、ようやくお目当ての人物がやってきたと得心する。名刺には『金属加工のことならお任せ。精錬技師ダグラス[サードウィル中央区24-2]と店の特徴と住所が記されていた。
「ようこそお越し下さいましたダグラスさん。私はアキカゼ・ハヤテ。リアルでは桜町三丁目の笹井さんちのお爺ちゃんをやらせていただいてます」
「おお、笹井君だったか。するとこちらが?」
「寺井です。ああ、こちらではジキンという名もありますが」
「これはこれはご丁寧に。しかしジキンさんはともかくアキカゼ・ハヤテとは……そういえば好きじゃったもんなぁ」
「図書室に寄贈したコミックを読むことだけが生きがいになってますからね。近所の子にもぜひ知って欲しいと寄贈したのに誰も見てくれないんですよ」
「だからって暇を見つけては読みにきてるんですよ、この人」
「ワッハッハ。まぁ時代の流れには逆らえんわな。我々第一世代とは違い、第二、第三世代は思考速度の加速化に重点を置いた世代。世代が変わる度に進化しとる分、趣旨も変わってきとるしの。ワシらのように体力特化は今時はやらなくなってしまったんじゃ。ちと寂しくわあるがの」
ダグラスさんの口調はリアルとは違って随分と年季を感じさせる老人言葉だ。
しかしその口調のおかげで随分と貫禄が出ている。
暦年の技術がその腕に宿っているかのような気になるあたり、キャラ付けには成功しているようですね。
「分かってはいるんですけどね、なかなか心のほうが納得してくれないんです」
「気持ちはわかる。さて、こうして三人で集まった訳じゃが、如何する?」
「それを今から考えるんですよ」
「ちょっとハヤテさん。目的もなく呼び寄せたんですか?」
信じられない、と言う目でジキンさんが見てくる。
その横ではダグラスさんが変わらんなぁと昔を懐かしむように遠い目をしていた。
御近所さんとはいえ、仕事をし始めてからすれ違う日々ばかり続いていたからね。
子供の年が近いからPTAなどで一緒になったりはしたけど、子供が大きくなったらそれまでの関係だ。
職種も違うし、町内会の集まりくらいでしか顔を見なかったものなぁ。
ふむ、町内会か……いいね。丁度この集まりの趣旨が欲しかったんだ。
どうせならこの繋がりはご近所さんから集まってもらうためのものにしたい。
じゃあ、どうするか?
それを今から考えようか。丁度ここにはそれなりに人脈の広い人たちが来てるし。
「取り敢えずこの度の集まりを桜町町内会AWO部とします」
「ふむ、今回で終わらせずに今後につなげる訳か」
「また無計画でそういうことを始める」
「ジキンさん、こいつは昔っからこういう男だ。我慢せい。
じゃがその我慢の先には見たことのない景色があるのも確かじゃわい。その景色見たさによく門限を破って拳骨を落とされたが、それもいい思い出になっとるしの」
「懐かしいですねぇ。子供の頃は何を見るのも新鮮でよく駆け回ったものです。今じゃ気持ちばかり若くて体がついてこない。でも、ここなら」
「じゃの。自由が効く」
ダグラスさんは私と似たような体験をしてますもんね。
山にこそ登らなかったが、若い時のように思いものを持ち上げようとして腰をやった。そこからいろんなところを痛めて引退した経緯がある。だからこそこのゲームで救われたのだとその目が語っていた。
「それで、何を目的とするんです?」
ジキンさんのジトりとした視線が私を射抜く。
全く堪え性のない。答えを急かすのはあなたの悪い癖ですよ?
でもしかし、いつまでも答えを出さないままでは不安でしょうからひとつ提案を出して見ますか。
「そうですねぇ、いっそ私達で何かイベントでも起こしませんか? バザーとかそういったものをしたいです。ここではプレイヤーが主催者になれるイベントが作れるらしいじゃないですか」
「またこの人は突拍子もないこと言うんですから。でも同時に面白そうだと乗っかりたい僕もいる。ダグラスさんはどうします?」
「そうじゃなぁ、何でもかんでもまずは初めてみることに意義がある。しかしハヤテ君。確かイベントを起こすにはクランに参加している必要があるんじゃなかったか?」
「じゃあいっそ作りますか、クラン。資金面は任せてくださいよ。何故か知らないけど3億くらいは持ってますんで」
「確かお金だけじゃなく実績作りも必要だったはずですよ」
「待て。どこからそんな大金が出てきた? 課金ではゲーム内マネーに換金できない仕組みの筈じゃが?」
ダグラスさんの疑問はごもっとも。
そこで頼んでもないのにジキンさんは我がことのように詳しく説明してくれる。
まったくこの人は。私の悪口を言う時になると生き生きし出すんですから。
「実はこの人うっかりで大型レイドボス討伐イベントを踏み抜いたんですよ。我々や家族を巻き込んでおいて素知らぬ顔ですよ?
そのくせ重要なイベントはきっちり踏んで行くんでトータルMVPで誰よりも目立って賞金をかっさらっていったんです。
その上で自分は何もしてないとか言うんですよ、信じられます?」
「ガハハハハ、ハヤテ君、それはあんまりにもあんまりじゃ。今更ながら君の荒唐無稽さが怖くなってくる。
じゃが、変わらんのぉ、昔からそうじゃったな君は。あれだけ散々引っ張り回しておいて、みんなのおかげだと謙遜する。
言われた側は多分ジキンさんと同じことを思っとるじゃろうよ」
腹を抱えて笑うダグラスさん。
敵はもう一人いたか。
しかしようやく理解者ができたかとジキンさんは嬉しそうにしている。
「はいはい、どうせ私が悪うございますよ。それで異論は?」
「あってもつっぱねるでしょう? だったらするだけ無駄です」
「ワシも賛成じゃ。これは今から発足するのが楽しみになってきたわい。しかしどんなイベントを起こすのか決まっておるのか?」
「概ねは自分の得意ジャンルを伸ばしていければいいなと思ってます」
「ふむ、ワシなら鉱石関連じゃな。火を入れて叩いて伸ばして加工してなんかが得意じゃわい」
「僕は採掘なんてできませんよ?」
「じゃあ私はダグラスさんの集めた鉱石を写真に収めます。そうですねぇ、イベント第1号は鉱石の見分け方や精錬のコツ、どの用途に使えるかの冊子を作って即売会形式にでもしますか。ジキンさん、文章とかそれっぽく書けます?」
「会報ぐらいしかかじった事ありませんよ?」
「別に完璧にこなす必要なんてないんですよ。今の三人にできることをやるだけですから。そのかわり人が増えた時の参考用に用いられると思うので恥ずかしくない程度にまとめてくださいね?」
「これ僕貧乏クジじゃないですか?」
「今回はそうでしょうが、もし写真の出番がない時は私がそう言う役割をするんですよ? 順番です」
「それよりも先にクラン発足の準備じゃがな」
「それは既にクランを作った身内に聞きますよ。ダグラスさんは鉱石を集める準備をお願いします」
「あいわかった」
「じゃあ僕も息子に連絡を入れるとしますかね」
「お願いします」
さて、行き当たりばったりの招集だったけど思いの外忙しくなってきたぞ。
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