【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

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2章 お爺ちゃんとクラン

068.お爺ちゃん、束の間を語らう


 ログインした私は早速どざえもんさんに連絡を入れた。


『こんばんは。本日のコンディションは如何程ですか?』

『こんばんは。一日インできない間にまたもや発見したらしいじゃないか。一体どんな審美眼を持っているのやら』


 やや呆れた声を掛けられながら、待ち合わせ場所を詰めていく。
 今日登山に参加できるメンバーはナガレ君一人ぐらいで、他のメンバーは来られない事を伝えられた。他のメンバーと言われても面識があるのはクライム君ぐらいだけど。
 よりにもよって登山速度が一番遅い彼なのかと嘆息しつつも、セカンドルナの馬車乗り場で待っていた彼と合流して現場に赴く。


「先日に加えて今日も参加して頂けるとは、アキカゼさんは筋金入りですね?」

「なに、もともとこういうのは好きだったんですよ。だからこの出会いに精一杯感謝してます。それよりも今は目の前の問題を投げ打ってでも没入できる何かが欲しい感じです」

「ああ、そういえばブログ拝見しましたよ。大発見じゃないですか。感想欄も加速気味で」

「ですねー。身内からも総ツッコミを受けました。一体どこからそんなのを拾ってくるのかとね」

「僕たちからしてみれば羨ましい限りですけどね。と、そろそろ到着です。モンスターを置き去りにする準備は出来てますか?」


 ここから先は真剣勝負だぞ、とナガレ君が問いかけてくる。


「はい。それにここにくる前に一人で山登りしてきていますしね」

「その意気やよし、です。では参ります、今回は少し違う場所から攻めてみようという事になりまして、前回に比べて目的地まで距離があります」

「おや、この短期間でもう別ルートの入り口を見つけられたんですか?」


 どれだけ登山にかけているのか、その本気度に気後れしてしまう。


「登らない間は常にそちらの散策に時間を費やしていますからね。遭遇モンスターもここら辺なら余裕ですが、サードウィルあたりからは動きの素早いハウンド型が出てきます。それのスタミナ噛みつきタイプが出てきた日には目も当てられませんが、実際に遭遇するかは神頼みですね」


 ナガレ君はニコニコとしながら言ってのける。
 その瞳からはもし仮にそのタイプに出てこられたとしても山登りを諦める気は微塵もないという強い信念が見えていた。
 一体どれだけの修羅場を乗り越えてきたのかわからないが、見た目の装備が見掛け倒しじゃないのは確かな気がした。
 そこまでの覚悟をしていてもなお、この山登り同好会では下っ端だというのだから上には上がいるのだなと感心する。


「ここから上に上がります」

「どんさんは?」

「先行調査隊として既に」

「了解した」


 ここから先は言葉が不要とジェスチャーのみでやり取りを行う。
 会話というのは平地でならなんら支障はないが、スタミナを大きく消費する登山中においては厳禁。
 会話しながら登れる人物がいるとしたら、私かどざえもんさんくらいだろう。

 あっという間にナガレ君を後方に置き去りにし、前回に比べて難易度の上がった斜面を駆け上がっていく。
 一度向こう側の山を上り切ったという経験則が今の私を突き動かしている。
 やはり山登りはいいな。
 積み上がった問題を忘れてしまえるのも確かだが、こうして没入する事によって人間の小ささを実感する事が出来る。


「お疲れ様です」

「お、アキカゼさんか。ナガレは?」

「残念ながら置いてきてしまいました」

「呼吸持ちなら仕方ないか。さらに垂直移動持ちじゃあな」

「そう言ったところです。何か新しい発見はありましたか?」


 その場で蹲って何かを調べるどざえもんさんに問いかけるが、特にはなにも見当たらないと答えられた。
 いや、この場合は山登り同好会として答えられないと言ったところか。
 彼らにはブログをアップしてスポンサーに提供する義務がある。
 だからその情報をこちらによこさないように注意してるみたいだ。


「別にその情報を横取りしようなんて思ってませんよ。私はそこまでしてブログアップに命をかけてるわけではないですし」

「そうだな。アキカゼさんは俺が妖精発見者である事も伏せてくれたし、それがマグマの奥底にある事も公開してない」

「あ、その事ですが」

「ん?」

「クランに防具を発注する際、正確な情報を伝えるために話してしまいました」

「クランというと精錬の騎士にか?」

「一応家族なのでリアルの方で。ただ向こうも私関連での話題は秘匿する流れになってまして、無闇矢鱈に触れ回らないと約束してくれてます」

「うむ、まあ触れ回ったとしても俺が触れ回ったその人物であるという証拠はないしな。それで装備の目処は?」

「現状の鉱石類では不可能とだけ。今は手持ちの特殊合金に頼る方向らしいですが、何分インゴット化もできずじまいらしくて」

「打つ手なしと言うわけか。まあ、こちらも結構な無理強いをしている自覚はあったがそれほど難航するものだとは思いもしなかった。頼んでおいたからこそ知れた実情なのだが、うむ」


 どざえもんさんは一人考え込む姿勢をとった。
 捜査は打ち切りですと告げられた警部補のような顔持ちだ。
 ここで私から吉報を渡してみる。


「実は一人だけインゴット化ができそうな人物に心当たりがあるんですよ。偶然知り合いになった人ですけど、その人リアルの知り合いでして。サードウィルで工房を構えてるダグラスさんて言うんですけど、精錬においてはAWO内随一らしくて」

「アキカゼさんの人脈は一体どうなっているんだ? ダグラス氏と言えばトップクランの監督役じゃないか」

「おや、有名人でしたか?」

「その界隈で知らぬとかモグリもいいところだぞ? まあ俺はドワーフのくせして鍛治の方はからっきしだが、ドワーフ界隈では知れた名だ」

「へぇ、今度その人お誘いしてクラン作ろうと思ってるんですけど、結構注目案件だったりするんでしょうか?」


 ニコニコとしながら話題を切り出したら、どざえもんさんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で硬直していた。


「アキカゼさんはもしかして結構天然だったりするのか?」

「失礼ですね、ただ何か出し物をしたいなという流れになり、その時に知っただけですよ。AWO内のトップクランが彼のお子さんだって。世間は狭いなって思いましたね。だって中堅どころとは言え、うちの娘たちのクランもいいところまで行っていると聞くし」

「いや、そうだな。偶然が重なっただけとも言えるか。しかし人数は足りるのか? クラン設立には資金……はMVPを総なめしたアキカゼさんなら余裕だが、保証人とかギルドのランクアップ条件とか必要事項は山積みだ」

「概ね問題は解決してます。もう一人の参加希望者は『漆黒の帝』のメンバーをお子さんにしてるジキンさんという方で……まあそういう事で後は参加人数さえ確保してしまえばクランを発足できてしまうんですよね。ただしクランの目的がただのバザーなので人が集まるかと言えば微妙でして」

「頭が痛くなってきた。つまりだ、あのイベントで今まで仲違いしてきたクラン同士が急に掌返して手を組んだ理由はアキカゼさん絡みなわけか?」

「まあそういう訳です。私とジキンさんがフレンドになった時点で仲良くするのは避けられないと言いますか、仲良くしないと面倒見ないぞと言い渡されて渋々従ったみたいな背景は後から聞きました」

「つまりはアレか、あんたに関わった時点で俺も遅かれ早かれその手の事件に巻き込まれると?」


 何かを察して天を仰ぐどざえもんさん。


「なに言ってるんですか、もう結構な事件に関わっているでしょう? 私も、貴方も」


 妖精発見者なんていう大それた事件に。


「それはそうなんだが、人脈が恐れ多いというか」

「そこは諦めてください。でも、大きな前進ができたでしょう?」

「そのことには少なからず感謝している。あんたに出会ってなければ俺はずっとその場で足踏みしていたことだろう」


 右手を差し出すと、しっかりと握り締められた。
 力を込めてどざえもんさんを引っ張り起こして立ち上がらせる。
 長話をしていたのはひとえにおいてきたナガレ君を待っていただけ。
 その彼の手が視界の端に見えたのを確認して思考を切り替える。


「さて、そろそろなにを発見してしまったか話してもらいましょうか?」


 私の問いかけに、どざえもんさんは先ほどまで閉じていた重い口を開いた。
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