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2章 お爺ちゃんとクラン
076.お爺ちゃんは孫達を導きたい
しおりを挟む「お爺ちゃん、どうする? 今日はもうおしまいにする?」
「いいや、マリン。探索はここからが面白いんだよ。先にも言ったろう? 答えは一つではないと。あの時は情報を『怪しげな風』しか持っていなかったから思考がそこだけに向いていた。でも今は違う情報がある。例えば風の順番によって現れる『エネミー』それらからドロップする『鉱石』とかね?」
「そっか。でも鉱石の声ってどんなのだろう?」
「音を鳴らしてみればわかるかも!」
「早速やってみましょう」
私が疑問を口にすれば今まで検索ばかりを頼りにしていた子供達は乗り気で実行に移してくれる様になっていた。
やはり大人が導き手となって問いかけ、あれこれ挑戦させてやるのが一番効果的だ。
私の子供の頃は大人達が率先してやらせてくれたが、今の時代は違うのだろうか?
それ以前に私が大人の時に子供にあれこれ教えてやっただろうかと思い出すが、仕事を理由にあまり接触していないことに思い至った。
自身の余裕のなさが今の時代を作ってしまったのかと反省に至る。
そんな折、マリンがアイテムバッグから取り出した鉱石。
どうみても石ころの様にしか見えないが、不純物を取り除けば銅や銀になると言うのだから面白い。そこに生憎と興味は向かないが、それに熱中する層は確かに居る。私は専門外だが、その人達が頑張っているおかげでこの世に武器が回っているんだ。
何事も一つのことを突き詰めた人が歴史を作る。それを私はこの探索を通じて教えてやりたいと思っている。
今回は特に私が見つけるんじゃなく、彼らに考えさせて攻略させたい。
早速音を聴こう、マリンがそうと思ったところで問題が発生する。
「あ、でも私、音鳴らすための道具とか持ってないや」
ふと溢した言葉に、私はそう考えるかとおもった。
普通ならば鉱石同士を打ち鳴らすと思うからだ。しかし彼女にその発想はないのだろう。ここはなぜその発想に至ったかを自分の中で解してやるか。
「ふむ。まず前提としてマリンはなぜそれが必要だと思ったのかな?」
「なぜって……うーん、あ! きっと鳴らすという行為に楽器を連想したからだと思う。じゃあ鳴らすもの自体はなんでもいいの?」
「私はそう思うよ。私達が子供の頃、歴史の授業で火打ち石なるものが大昔に使用されていたという情報を教えてもらったことがある。それは石同士を打ち付けて、火花を散らして燃えやすいものへ火種を作るという原始的な行為だった。だから音を鳴らすのならそれ同士をぶつけて鳴らすという考えを持っている。しかしマリンにその発想はなかった」
「うん。だって火を起こすのにそんなもの必要ないじゃない」
「そうだね。これらは今はできて当たり前のことだ。しかしそれを当時不便だとおもった人がいたから、そしてどうやれば便利になるだろうと考えついたから今があるんだよ。私達が今の時代を生きていけるのはそういった誰かの頑張りのおかげなんだ。だから興味なくてもそれを知ることで自分の中の可能性を広げることができるんだ」
「そんな風に考えたことなかったです。僕はどうも今必要な知識だけ選りすぐって選択してしまいますね」
「私もです。それにこっちでは魔法が一般的だし、鳴らすという行為に魔法を使うこともできそうです」
マリンの疑問に私が答えると、それにサクラ君とユーノ君が続く。
「さて一度この考えは思考の端に寄せておこう。答えが出ないということは、この出題自体がまだ完成してないからだと考えることもできる。出題の意図が掴めなければ答えることだってできないだろう?」
「じゃあ鉱石はこのまま?」
「うん。申し訳ないけどね。でも全く使わないというわけでもないし、後で出番があるかもしれないんだ。大事に持っててくれるかな?」
「分かった」
先ほどまではどこか不安そうな顔だったマリンだけど、私のフォローですっかり不安を晴らせた様だ。誰でも無駄なことをさせられたと思えば嫌な気分になるからね。
「さて、ではB1とB2の謎は置いといて、残りの謎の探索に赴こうか。マリン、残りの謎がいくつあるかわかるかな」
「えーと、ちょっと待ってね?」
「……3つですね」
マリンは早速検索項目からブログに目を移し、しかしすでにそれらを終わらせていたユーノ君が代わりに答えてくれた。
マリンとユーノ君の視線が交錯する。
「ちょっとユーノ? それ今私が言おうと思ってた奴!」
「マリンちゃんがいつまで経っても答えないからサポートしてあげたのに」
「むーっ」
「うん、やはり三つか。全部で五階層。五つの出題。もしかしてこれにも正しい順番があるんじゃないか?」
「階層順じゃないって事ですか?」
「まだハッキリとはわからないけど、この場合B1の質問とB2の謎は一致しない。ならば他の問題と組み合わせた時ではどうかというところに考えを移した。そもそもの話、質問と謎の数があってないことから、これらの謎は合わせて一つなのかもしれないんだ。そこで出題を2個しか揃えていない現状で答えを出すのは早計だと思った。だから先に全ての出題を回収してから考えることにしよう」
「そうだね、頭を使うのは一番最後。それに私は身体を動かす方が得意だもん!」
「それじゃあ次の階層に進んでしまいましょうか。マリンちゃんは飛ばしすぎない様に」
「はーい。サクラ君も気をつけて」
「うん」
「それじゃあ案内お願いするよ」
マリンは考えるより身体を動かしてる方が元気になるね。
そのかわりをユーノ君が務めてくれている。いいコンビじゃないか。
今のところサクラ君はマリンの言葉に従うばかりだ。惚れた弱みというのもあるけどもう少し自主性を持ってほしいな。
あの子はグイグイ引っ張っていくタイプに見えるけど結構寂しがり屋なんだ。人生の相棒足り得るには確固たる信念が必要だと私は思うな。
[ダンジョン・枯れた金鉱山B3]
そこは一本道だった。
緩いスロープでゆっくり下に向かって螺旋階段の様にぐねぐねと回って降りていく形だ。
脇道はなく、もし上から道と同じ幅の玉を落とされようものならぺしゃんこにされてしまうことだろう。
そんなことを呟いたら子供達からは考えすぎだって言われてしまう。
過去にそんなことは一度としてなく、これからもないそうだ。
なんでそう言い切れるのか不思議ではあるが、彼女達のゲーム経験則は私より上。だからここは口を噤んで従う。
「ここだよ、ちょうどこの真上にある謎の文字。これってB1の壁画にそっくりな文字。お爺ちゃん、読める?」
「少し距離があるな。何か台か梯子があればいいが」
「梯子はないけどこれなら」
孫が取り出したのは椅子だった。どうしてこんなものがあるのか詳しくは聞かないが、ありがたく使わせてもらう。
高さは少し足りないが、フラッシュを焚いて天井を照らして撮影する。そこにあったのはB1にあった様な質問文。
あの時と同じ様に子供達にメール添付して送信した。
[石の──を読み取れ]
「またなんか出たね」
「でも石って特定されてる。これが鉱石関係?」
「わからないけどね。まだ答えを出すべきではないよ。次に行こう」
私達はエネミーからの襲撃を一切受けることなく[ダンジョン・枯れた金鉱山B4]へと向かった。
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