【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
91 / 497
2章 お爺ちゃんとクラン

077.お爺ちゃんとお仕置きモンスター

しおりを挟む

 [ダンジョン・枯れた金鉱山B4]
 その場所四方を壁に阻まれた狭い部屋だった。
 部屋の対角線上には下へと降りる階段があり、それ以外は何もない。
 いや、あるか。壁に描かれた壁画こそが質問だ。
 しかし今までと違ってびっしりと書き込まれ、虫食い一つない。
 それ故に今までとあまりに違い戸惑いが強く現れる。

 この階だけ特別……なんてことはないだろう。
 何か意図があってこんな作りにしているんだろうなとは思う。
 しかしその意図がつかめない限りは足踏みをするしかない。
 パシャパシャとスクリーンショットに収めるも、4枚の壁画の言葉は同じような意味合いに捕らえられた。

 1枚目[答えは眼前にある]

 2枚目[答えは中央にある]

 3枚目[答えは現実にある]

 4枚目[答えは最奥にある]

 前や後ろ手前や中央。
 つまり部屋の中央に何かがあると言いたげにしているが、もちろんその場所にあるのはこの部屋に漂う空気だけ。つまり何もないことを意味している。


「何かわかった?」

「うーん、一応読み取れたけど、出題されている意味があまりにも理解不能でね。今読み取った文字をメールで送るよ。君達も一緒に考えてくれるかい?」

「うん、分かった」

「はい」

「分かりました」


 早速詰まってしまった質問に、私は藁にもすがる想いで孫達に画像を添付したメールを送信する。
 案の定、メールを受け取った子供達はちんぷんかんぷんと言った顔をした。私もそうだったからね。
 初めてちゃんとした、虫食いじゃない出題だったが、想像以上に手強い相手だと再認識する。


「うーん、なんだろう。この、バカにされてる感じは」


 マリンは過去に何か覚えでもあるのか、苛立たしそうな顔立ちで悩み始める。
 そこでユーノ君が声を上げた。


「あ、私分かったかもしれません」

「本当かい?」

「間違ってるかもしれませんが、いいですか?」

「もちろんだよ。今はどんな考えでも欲しいからね。みんなもこの質問の意味がわかったなら自分の考えを発表していこう」


 ユーノ君一人だけに恥ずかしい思いをさせるつもりはない。
 全員に同じことをさせると事前に言っておけば彼女も話しやすくなるだろう。


「では発表します。私はこれを写真に撮る前提で考えました」

「ほう。確かにぱっと見の文法は同じだ。古代語が読み解けなければそう思ってしまうのも無理はないね」

「はい、だからこの写真を薄く処理して言葉の通りに合わせて1枚にしてみたんです」

「面白い発想だ。それでどうなったのかな?」

「新しい文字が浮かんできました。今その画像を送ります。アキカゼさんは解読後、私たちに送り返してもらえますか?」

「勿論、いいとも」


 送られてきた画像には『妖精』と記されていた。


「──妖精?」

「妖精がどうしたの、お爺ちゃん?」

「いや、解読した言葉が妖精だったんだ。なんでここにこの文字が記されているのかわからない。でも……いや、そうか。ここは妖精解放の関連場所だったか」

「もしかしてB1の声を聞けって妖精の声を聞けと言う意味なんでしょうか?」

「わからない。でもその可能性は高い。けどその前に5階に行ってしまおうか。考えるのは後にしよう」

「あ、お爺ちゃん。B5はボス部屋になってるんだ。だから探索はボス戦が終わってからになるけどいい?」

「それは勿論構わないけど、君達三人で大丈夫かい?」

「余裕♩」


 孫は胸を張りながら手に腰を当ててドヤ顔をする。
 では私はそんな孫の勇姿でも撮っていようか。
 たまには彼女をメインにスクリーンショットを走らせてみるのもいい。なんだったら次のブログは今回のことを載せてもいいし。
 そうこう考えているうちにボス戦へと流れ込む。

 私がパーティリーダーだから、私が足を踏み入れない限り戦闘開始の合図が出ないらしい。
 彼女達は戦い慣れている相手だろうが、私は初めての相手だ。
 

[クリティカル! モンスターの詳細データを獲得しました]

[エネミー:土精の怒り/スワンプマン型]
 耐久:600/600
 攻撃:溶解、大振動、取り込み、咆哮
 耐性:土属性、風属性
 弱点:水属性、火属性


「マリン、気をつけて! どうも普段とは違うモンスターのようだ。一見スワンプマン型のようだが、前回のイベントの強化型のような性能をしている!」

「どういうこと? ここのモンスターはランダムだけど性能はセカンドルナ準拠のはずだよ?」

「わからない。ただ、耐久が600にネームの前に土精の怒りと表記されている。もしかしたら中途半端に問題を解いた我々へのお仕置きモンスターなのかもしれない」

「まさかボス戦にそんな仕掛けがあったなんて!」

「でも耐久600ならなんとかいけるよね?」

「僕も戦闘に参加するよ。アキカゼさん的にはこれから何戦も想定しているみたいだし」

「本当だったらアキカゼさんを戦いに巻き込みたくなかったけど」

「大丈夫。危なくなったら私は壁にでも張り付いてるよ。これでも垂直移動にはちょっとした自信があるんだ。君たちに迷惑はかけないさ」

「そういうことでしたら問題ないでしょう。マリンちゃん、いくよ」

「うん、お爺ちゃんには指一本触れさせないんだから。斬って、斬って切り刻むんだから。『アクセル』、『スライスⅢ』」


 マリンの言葉に怒気が込められる。
 手にしたナイフがキラリ光が覆われると、その身体がブレて消える。


「誘導は任せて。ユーノちゃんは詠唱を!」

「うん!」

「光よ『ライトニング』、『ライトニング』、『ライトニング』!」


 サクラ君の短い詠唱で三つの魔法が彼の手元から放たれる。
 それはスクリーンショットの光よろしく、強烈な閃光を三度浴びせかけた。
 どういった原理でこちらを視認しているか知らないが、一時的に動きが鈍る。


「ユーノ君、敵さんの弱点は水属性と火属性だ!」

「ならちょうど良かったです」


 彼女の目の前で手にしていた本が一人でに捲れていく。
 これはいつぞや見たサポートスキルだったか。
 彼女がロープの裾をはためかせ、差し出した右手から極光が生まれる。


「炎よ舞い踊れ『ドラゴンランス』!」


 龍の形を模した炎が螺旋を描き、エネミーの土手っ腹に風穴を開ける。しかしそれでも耐久を削り切ることはできなかったようだ。
 ノタノタとしながらも動き辛そうにしている。
 人形と言えど、体の中心を崩されてはバランスを取りようがあるまい。


「マリンちゃんに水の加護を『ウォーター』」

「ありがとうサクラ君。火の属性を付与されたエネミーの弱点は水だって相場がついてるもんね。その体で全部捌き切れるかな? 『水鳥乱舞』、二連ッ!」


 サクラ君の援護で、マリンの短剣に水色の光が宿る。
 その短剣でバレエでも踊るように短剣がスワンプマン型を切り刻む。
 二連と言う言葉の通り、一連の動作を切り返し行うことで累積ダメージを大きく取ろうと言うことなのだろう。
 だがまずい、相手のエネミーが大袈裟な予備動作をした。


「全員、その場でジャンプだ!」
 

 私の声かけと同時に全員がジャンプした瞬間、足元の地面がぐらぐらと揺れた。いくつかの床板が底の見えない穴の奥に消え去り、落ちたらおしまいだろうなと言う感情を植え付ける。


「何? なんなの? こんなの知らない。どう対処すればいいの?」


 今のマリンからは先ほどまでの余裕の表情は抜け落ちていた。
 まるで買い物中に母親を見失ってしまった幼子のように、不安げに周囲を見回していた。
 打つ手がない。定石が通用しない場合、今の世代はここまで脆くなるのか。だがそんな彼女を励まそうとかけられる声もある。ユーノ君だ。
 自分も怖いだろうに、賢明にマリンを励ましている。サクラ君に至っては自分に何が出来るかを考えていた。
 

「落ち着いてマリンちゃん。大丈夫だから。次で仕留めるから!」

「次波が来るぞ!」


 ドシンッと大きく床が揺れてまたもや床板の一部が大穴の底へと音もなく落ちた。
 もしかしなくてもこの状態、長引けば足場が全て抜け落ちるかもしれない。だから最悪の事態になる前に私はこの状況を打破できる人物へと歩み寄る。


「マリン、落ち着いてよく聞くんだ。このボス戦、早く終わるかどうかはマリンにかかってる」

「私に?」

「そうだ。今から作戦を言う。出来るか?」

「うん、やってみる……」
 

 所在なさげに動くその両眼を私に向け、彼女は私の言葉を聞き入れ、気を持ち直した。
 余裕なんてもうない。勝てる見込みもあるかもわからない。
 それが通用するって確証もない。
 けど、やらずに失敗を待つのだけは嫌だと、マリンは自分の足を突き動かした。


「『アクセル』『アクセル』『アクセル』ッ!」


 自身に速度強化を促すサポートスキル、それを三回連続でかける。己の限界を超えた移動速度で、攻撃の隙間を縫うように仕掛ける。ボスエネミーが両腕を振り上げた!
 

「やぁあああああああああ!」


 マリンの短剣はボスエネミーではなく、衝撃を与えていた地面を撃ち抜いた。
 振動を与えるべき場所はくり抜かれ、力を込めた腕はその場所へと嵌ってしまう!


「ユーノ!」


 言葉をかけ、真後ろへと飛躍する。
 壁で待ち受けていた私はそれをキャッチし、床板の安定していた場所で待機していたユーノ君が吼える!


「これで、トドメ!『ドラゴンランス』二連!」


 詠唱を終えていたのか、ユーノ君の掌から極光が二連続で発射する。
 その直後に足から崩れ落ちた。どうやら今の詠唱速度を実行する上で相当の無理をしていたらしい。座り込んだ場所で肩を置きくゆらしながら深呼吸をしている。


[グォオオオオオオオオッ!]


 ボスエネミーが崩れ落ちていく。
 そして崩れ落ちた先で何か光るものを残した。
 それは手に取るまでもなく、ログとしてこちらへ呼びかける。
 これこそが報酬であると言いたげに。


 ピコン!
[スキルのかけら+10を手に入れた]


「これは……」

「ハズレボスにしては結構美味しい、かな?」

「次は間違えない。だよね、マリンちゃん?」

「もち! それとありがとうね、お爺ちゃん。私戦闘中なのに自分を見失っちゃってた。でもお爺ちゃんのおかげで自分を見失わずに済んだ。だから、ありがとう」

「誰でもはじめて挑戦するのは怖いからね。でも二回目は怖くないだろう?」

「うん。それでどうするの? もう一回ボス部屋行く?」


 マリン的にもスキルのかけらは美味しいらしい。
 ユーノ君やサクラ君もスタミナを回復させ次第再挑戦する気満々の様相だ。


「いや、一度戻ろうか。そろそろお昼ご飯の時間だ。この続きは午後にでもどうかな? 勿論、二人の都合がよければだけど」


 ユーノ君とサクラ君は互いに顔を見合わせ、頷いた。
 どうやら思いは同じようだ。


「「あの、お昼もお願いします」」


 声を揃えて言う二人に、私はありがとうねとだけ答えた。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...