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2章 お爺ちゃんとクラン
089.お爺ちゃん、お婆ちゃんは素直になれない
「それじゃあ、笹井さん。頑張って」
「笹井君、これも仲直りするチャンスだよ」
「笹井君、君は僕から昭恵さんを奪ったんだから、当然だよね?」
「奪ってません。神保さんに私ほどの魅力がなかっただけです」
「そうやって揚げ足を取らない! でもそうやって僕から昭恵さんを奪ったのは事実だよ。僕は敗者だ。だからこそ勝者の君に譲るんだ。私からも話を聞いてもらえるように通しておくから。な?」
「そんな融通とおせるんならご自分が誘ってくださいよ!」
私の恨みがましい視線が同年代の男三人に刺さる。
しかし返すように肩に置かれた手は、敗者は黙って引き下がれと言われてるようだった。
要は口論は足の引っ張り合いになり、ジャンケンに持ち込んで、一番最後まで勝ち抜けなかった私に奥様を誘う挑戦権が手渡された。
結局のところ、口ではどれほど大きく自分を見せても奥様のコントロール下なのだろうと4人の男達は知っている。
「取り敢えず最後の一人は君の奥様を誘うことに決定したと言うわけだ。もしこれで私が負けていたとしたら今から震えが止まらないよ」
「寺井さんは一体過去に奥様と何があったんでしょうか?」
「分かりません。妻を愛してるって言葉も恐怖からの裏返しからかもしれませんし」
「ちょっと、そこ! どこに妻の目があるかわからないんですよ? 言葉を控えて下さい!」
恐れるように電信柱に身を隠す60代男性。
しかし一向に接続人数が増えることもなく、疑心暗鬼を募らせすぎですよと残りの男達は笑う。
しかし寺井さんともあろう方がここまで恐れるなんて……一度会って見たいですね。そんな思いに神保さんが打ち明ける。
「笹井君は確か会った事あるはずだよ?」
「え?」
「寺井君の奥様と」
うーん、と記憶を探って見てもまるで検討がつかない。
「単純にワークスタイルが似てるんです、あの二人。きっと編み物教室の時に、一緒にお話ししてた人物がその人で間違い無いと思います」
「なんでそれを神保さんが知ってるんです?」
「妻が話してくるんですよ。彼女、私に自分の趣味を共有したいタチでして、それででしょうね。最近では週末どんなことして遊ぶのかのスケジュールまでは行ってきますよ。笹井君の方は?」
私はかぶりを振るう。
知らないのではない、お互いに自由にやりたいからだろうと口を出さないようにしている。
「それって寂しくない?」
「寂しいんですかね? でもインゴット中毒者の神保さんには言われたくないです」
「はっはっは、なんのことやら」
いつのまにか接続人数は私と神保さんだけになっていた。
永井君……逃げたなと睨みを利かしつつ、寺井さんには良い気味だと思い至る。
そして神保さんがログアウトし、今この街には私しかいない。
「少し、歩こうか」
自分の生まれ育った街を。
昭恵の通っていた通学路を。
巡らせるのはほんの45年前。
お互いに学生で、まだ未来に想いを語り合っていた時。
「よし、私の心は決まった」
特に悩む必要なんてなかった。
ただ、声をかけるのにほんの少し勇気が必要だっただけ。
そうだよ。妻に今度一緒に遊んでみないかと誘うだけだ。
そうと決まれば動き出しは早い方がいい。
私は伝言掲示板に書き込んだ。
中学生時代、神保さんと一緒に並んで歩いた通学路。
そこの宣言を思い出した。
あの時の私はアキカゼハヤテフリークだったからね。
彼女はそこまで興味なかった風だけど、それでも付き合ってくれた。
『昭恵、君を本日13:00、頂戴しに行く。裕次郎』
それだけを残して、現実世界へと帰る。
ちょうどそのあとログインされた寺井さんの奥方様がそれを発見してはその日のうちにコールで大きく囃し立てられたことも知らず。
■─────────────■
ところ変わってAWO内。
敗退都市サードウィル。
そこでは二人の女性プレイヤーが肩を並べて己の生産品を並べていた。
一人の女性は、午前中に起こった出来事に怒り心頭なのか、いまだに口調が怒りっぽい。
「まったく、もう少し年齢を考えて下さいよ、あの人も!」
「でも言われて嬉しそうよね、アキエ」
茶化すように隣のプレイヤーがその表情を覗く。
そこにあるのは気恥ずかしさの奥にある喜びの表情。
いい女はいつだってそう言うのを見逃しちゃいけないのだと、プレイヤー『ランダ』は言う。
「嬉しくないと言えば嘘になります。あの人、いつも勝手に前を歩いてばかりで、私のことなんてどうでもいいなんて思ってた」
「やっぱりその言葉が欲しかったんじゃない」
流れてくるプレイヤーを捌きつつも『アキエ』はそうなのかしらと頬杖をついた。
「はいはい、男どもは女の気持ちを知った気になって近寄ってこなーい。でも商品は買ってってねー」
ウェーイ、と遠くから調子の良さそうな声が聞こえる。
アトランティスワールドオンラインはいろんな種族で共存を図ることが出来るゲームだ。
昭恵もここで本来の年齢を忘れて遊ぶプレイヤーの一人だった。もちろん自分で決めてやってきたのではない。
推しの強い友人、寺井倫代によって誘われ、あれよあれよとここまで来てしまっていた。
お互いにゲームなんてよく知らず、それでも遊べてしまうのはそのポテンシャルの高さゆえか?
──このゲームが全ての人の子らへと至らんことを。
そんな願いが込められたこの作品は、フルダイブ黎明期と言われる今の時代に置いてなお輝く一条の光だった。
どれだけ探検しても終わりの見えないゲーム。
その上でまだその本性を隠してる。
娘から聞いた話では、過去の失敗で何かをとりこぼしてしまったこの街ですら、ギミックの一つ。
その一つのギミックを解き明かしたのが遠い場所で暮らしてるあの人だなんて。
「バカみたい」
「なーに黄昏てんのよ」
「黄昏てないわよ」
「嘘仰い!」
ランダに茶化され、アキエは年甲斐もなく照れた。
今更どの口があのプロポーズまがいの言葉を受け止めて喜んでいるというのか。
そう言うのは学生時代に終わらせたばかりだと言うのに。
「でも聞いたわよー?」
「何よ?」
「あんたの旦那。こっちの世界の謎解きの第一人者なんですって?」
「どうなのかしら?」
「あら、そこは認めてあげないの?」
「ウチの旦那だったらこれみよがしに自慢してくるわよ」
「ウチは、そこまででもないわ。お互いに趣味には口出ししないようにしてるから」
「だからそうやってお互いに気を張りあってんの?」
「そうよ、悪い?」
「いいんじゃない? 別に。夫婦間の付き合い方なんて人それぞれだし。あたし達のように慣れなんて言えないわよ」
「そうよね」
「でも無理しちゃダメよ? 甘えたいときは精一杯甘えなさい。これは命令」
「なんでよ!」
昭恵は倫代の言葉に少しムッとした。
「いつまで片意地張り通すつもり? そんなの付き合ってるこっちまで心配しちゃうわ。だからこそこれは命令。お互い60歳。今更着飾らなきゃ台詞一つ言えない間柄でもないんでしょ?」
「それは、そうだけど」
「じゃあ、頑張んなさい。あたしも応援しとくから」
ポンと肩を叩かれた掌からは対して力が込められていないが、重い大きな想いが載せられていたように感じた。
「でもアキエの旦那さんはどんな言葉を用意してくるのかしら? 今から楽しみだわ」
すぐ横では友人が人の頑張りを笑い者にしようとしていた。
それでも昭恵は拳を強く握る。
子育てが終わってからの第二の人生、余生をここでどう過ごそうか、何やら思うを巡らせていたようだ。
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