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2章 お爺ちゃんとクラン
ワールドクエスト進行3 変わる世界
その日、AWO内に新しいクランが結成した。
参集してくれたメンバーはどれも曲者揃い。
中には陸戦闘において連携する機会のないサハギンタイプまでもがいた。
そうそうたる顔ぶれのリーダーはひょろっとした優男であった。しかしその確信を持った瞳に宿る光は揺るぎない意志が込められていた。
見た目に騙されては行けない。
あれは相当数の修羅場を乗り越えて来た男の見せる気配である。
リーダーの男、アキカゼ・ハヤテの初見の感想は概ねそんなところだ。
だが解せないのはクラン結成時に名を貸したクランの方にあった。
クラン『精錬の騎士』
生産関連でも内包人数や規模において中規模に位置するクランだ。そのクランリーダーが顔を出すほどの人物とはどんな人物であるのかとそのクラン発表会を見に来ていた外様のクランは口々に噂する。
クラン『漆黒の帝』
こちらは武力関連でトップではないが、その統率力は最近の大型防衛イベントでの記憶が新しい。
そのクランリーダーも当たり前のようにそこにいる事に場は一層騒然となる。
これはもう一つのクランもきっと大物に違いない。
そこで現れたのが誰もの目が完全に予想外だと捉えたに違いない。
クラン『朱の明星』
間違いなくAWO内で生産と言えばここ! と言えるクランが出て来てしまった。普通はでない。
頼んでも片手で払われるのが当たり前の大御所である。
まるで精錬の騎士が付き人のように見える格差もあるが、クランリーダーのオクトとケインは仲良さげに握手している。
誰がこれを見て信じられるだろうか?
大勢の人物がその映像記録を見てガセだと騒ぎ出す中、さらにさらに、名を連ねたのはクラン『風追い人』。
検証において他の追随を許さない一役を担って来た。
そのクランリーダーであるカネミツが顔を連ねた席。
発表されたクラン名は誰もがなんじゃそりゃと言葉を発したくなるクラン名だった。
クラン『桜町町内会AWO部』
錚々たるメンツの顔ぶれを嘲笑うような軽さを持つ、部活動的クラン結成がその日なされた。
鼻のいい情報系クランだったらそれで終わりとは思わないだろう。
続いて発表されたイベント発表はすごく小規模を想定されたものだったが、先に名を連ねたメンバー全員が息を飲む代物だったのは間違いない。
『クランメンバーの今までとこれから』
第一部・石の力
制作:ダグラス
文章:ジキン
字・構成:秋風疾風
監修・監督ダグラス
と言うものだった。
名前だけ見れば部報のような内容。
だがその中身は大きく違う。
イベントで出回って誰一人としてインゴット化の叶わなかった特殊合金がある。それらのインゴット化のコツ、それ以外の成功率を上げるための知識が描かれた珠玉の一品。
発行部数300は少なすぎるし、お値段一冊2000ゲーム内マネーは安すぎると物議を醸し出したのは言うまでもない。
このクランの底力はそれだけではないと、次の部の発表を出したクランリーダーのアキカゼ・ハヤテ氏は、またとんでも無いことを言い出した。
「皆さん、このAWOのあの雲に覆われた空の向こうに何が隠されているか興味はありませんか?」
それは誰かに向けた言葉では無い。
全プレイヤーに向けての宣戦布告。
「いくつかのキーワードは手にした。AWOに新しい時代が来る。私が──それを紐解こう!」
それは万の大群に対する威嚇でもあり、そして虚勢だった。
クランリーダー:アキカゼ・ハヤテが束ねるクラン『桜町町内会AWO部』の名は瞬く間に掲示板を騒がせた。
トップを走っていた者たち、情報を一端に担う者たち、それを出し抜こうとする者たち。
そんな誰もが生まれたばかりのクランから目を背けることができなかった。
なにせ彼には実績がある。
イベントを踏み抜いた力もさることながら、そこからSランククリアに導いた謎の人脈がある。
だからただ遊びに来ている者たちは、現環境とどう変わるか期待していた。
時間軸が同じために満足に狩りができない狩場や、連携や綺装などの目新しいコンテンツがありつつも、それらを扱えるのは一部のプレイヤーだけだった。
騎装はレアアイテムの一部だ。
効果は一日一回までと制限数があるが、使えば戦闘フィールドを跨いで効果力を出せる魅力があった。
有名どころの二つ名の多くはその騎装の特性を表しているのもある。
単純に飽きが来ていたと言うのもあるだろう。
それはある意味ではゲームの宿命だ。
新規コンテンツを出していかねば簡単に飽きられてしまう。
特にこのAWOは多くのベールに包まれているゲームだ。
誰もが最初に行動したのは謎解きだ。
しかし情報の多さで検証班に先を行かれ、手持ちの情報もうまみを得なくなったと普通にゲームとして遊ぶものは多くなった。
単一世界だからこその協力体制も、目的が一緒ならそれはライバルを増やす事に他ならない。
誰もが期待して、同時にすぐ自分たちと一緒になると思い至っていた。
誰もが通る道。偶然がそう何度も起こるわけがない。
そんな自分勝手な回答を、アキカゼ・ハヤテは文字通り打ち破ってくれた。
その日誰もが天を凝視した。
そこに今まで見えなかったものが現れたのだ。
それは二色の空飛ぶクジラだ。
ファンシーな造形をしているわけでもなく、海洋生物的なフォルムを孕むそのクジラは、なんだったら攻撃表示さえ現れた。
[システム:ナビゲートフェアリーがプレイヤーの手によって解放されました]
発見者:アキカゼ・ハヤテ、どざえもんにはゲーム内マネーの配布と『称号:妖精邂逅者』が与えられます。これからもAWOをよろしくお願いします。
ナビゲートフェアリーは各町のギルドでランクに応じて販売されています。
AWOの新しい戦闘をご期待ください。
[ナビゲートフェアリー]
全てのプレイヤーに許された第二の目。
今まで隠されていた地図や隠し通路、そのほかにも偽装された過去の遺物に関する記憶の手がかりを探索し、示す。
基本的に思考に別アングルが入り込むと言うものではなく、怪しい場所を発光を持って教えてくれる。
フェアリー自体を見ることは今の技術では不可能。
しかしある一部のプレイヤーはそれを体現しているのは確かだ。
『称号:妖精邂逅者』
現時点で発売されている全てのナビゲートフェアリーを購入せずにして使用できる。またはオンオフ機能がシステムに付いている。
称号によるレアスキルはなし。
逆に言えば新コンテンツのカスタム機能さえあるぶっ飛んだ性能をしている。
この日、プレイヤーから失われつつあった探究心は復活した。
二人のプレイヤーの手によって、確かに変わったのだ。
今日も何処かで噂が走る。
クラン『桜町町内会AWO部』のことばかりではない、とある検証クランの解散という情報の旨みによるリソースがプレイヤーの手元に帰って来たのも大きいがそれも違う。
プレイヤーの探究心がまた新たな扉を開こうと、探索に熱が入っていた。そんなもの達の雑談が盛り上がらない訳もない。
この停滞していたAWO世界を解放したのは一人の男の助力があった事をプレイヤーは確かに感じ取っていた。
『アキカゼ・ハヤテ』
その名はこれからもプレイヤーの記憶に語り継がれていくことだろう。
ただし有名人や、嫉妬の目を向ける相手ではなく、他でもないライバルとして。
彼の本質を語るならば探索特化。
誰もが根を上げたマナの大木への登頂に30分もかけない異常さは実際に登ってみたものなら気付くだろう。
彼のタフネスは恐ろしく天井知らずであるに違いない。
だが、そのスキルの内訳を見れば誰もが目を剥いた。
普通なのだ。
なんだったら戦闘スキル一つ取らない徹底ぶりさえ見せた。
スキル群は見たことのないものばかり。
同じスキルを取った者ほど理解する、その逸脱した行動範囲はアキカゼ・ハヤテの異常性を瞬く間に広めたのは言うまでもない。
だから自分の力で、育てて来た派生スキルでプレイヤー達は次こそは自分こそが目立つのだとAWOに熱を入れた。
これはどこかの誰かの始まりの物語ではない。
誰かの残した手記でもない。
ただそこにある見えない謎に挑み続けるプレイヤー達の挑戦の道なのだ。
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