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3章 お爺ちゃんと古代の導き
093.お爺ちゃんはゴリ推ししたい
「は? 記念コインを作りたい? 一体どうしてそんな突拍子もないセリフが出てくるんでしょうか、この人は」
私に痛烈な批判をくれたのはジキンさん。このクランのサブマスター様だ。サブマスターがクランマスターにこの態度。
ちょっとおかしいよね? まあそれを許したのは私なんだけど。
それに貴方が私に次のクランイベントの企画を考えろと言ったんでしょうに、なんで項目を埋めて溜息をつかれなきゃいけないんですかね。
「不服ですか?」
「まず理由を知りたいですね」
ふむ。ジキンさんは暗躍がメインスタイルと自分で言ってるように、色々とこのゲームの情報に詳しい。
永井君の独自情報によれば、情報検証班への情報リークなどは基本的に彼が独断で行っていたようだ。
自分たちの息子なんかをコマとして扱き使って居たらしい。
そんな彼が納得いく理由ですか?
そんなもん、作りたいから意外にないでしょう。
「ただの欲求ですよ。ジキンさんはこのゲームがスキルによって大きく左右されるゲームであることは当然ご存知ですよね?」
「ええ。ですが生産者、戦闘メイン、探検メインで大きく棲み分けができてるところに新たな通貨を生み出すと聞けば誰だって眉を潜めますよ」
話を聞いて納得した。
彼の気にしているところはゲームブレイクの次は通貨ブレイクを狙っていると思われてしまった事。
大袈裟だなぁ。一クランで生成できるコインが世に流通する通貨に張り合えるわけないのに。
「ジキンさんは自分ができるからって話を飛躍させすぎるきらいがある。そんな大それたことするわけないでしょう?」
「つまりクランマスターの目的は別にあると?」
「当然です。ただの記念コインに価値をつけてどうするんですか。これらは今後うちのクランイベントに参加してくれたプレイヤーさんに配るものです。勿論、小規模で行っていく予定なので、流通させる気はないです。言ったでしょう、記念コインだって」
「僕にはどうしたって違う目的が透けて見えるんだけど」
鋭いなぁ、この人。
ただの記念コイン作りで終わらないところまで勘付いてる。
でもそれでこそサブマスターを任せておける。
「まあ使用目的も別に考えて居ますけど」
「やっぱり」
「それはそれとして次のクランイベントの動きは把握してくれました?」
渡した企画書にはただ記念コインを作りたいとしか書いてない。でもこの人はその先を容易に想像できるコストパフォーマンスの高さを誇る。
そんなジキンさんが頷き答えた。
「まずはうちのクラン以外では絶対に生成できない難易度にすること」
「うん、ダグラスさんの好きにさせよう」
「製作枚数は幾つにします? 言っとくけどあの人の好きにさせたら一枚にどこまでも時間をかけてしまいますよ?」
「予定通り小規模で行うので300だ」
「分かりました。通達はこちらでします」
「お願いします。それでは」
用件は済ませたとばかりに彼の前から退出しようとしたら肩を掴まれた。犬獣人の膂力で掴まれたら痛いじゃない。離してくださいよと表情をしかめた。
「待ってください、まだ話は終わってませんよ。クランマスターは今このクランにかけられてる期待に対しての危機意識が低すぎる。こういうのは行動する前から牽制をかけておく必要がある」
「うちは生まれたばかりのクランだよ? 考え過ぎじゃない? メンバーだって11人しかいないのに」
「プレイヤーというのは規模の大きさを基本的に考えないと思っていいです。今一番ホットな期待をかけられてるクランはウチです。いいですか? そんなところの起こす新事業がただの記念コイン作りで終わるわけないなんて誰でも容易に想像がつくはずです」
顔はニコニコしてるのに、ジキンさんには謎の凄みがある。
「はいはい、分かりましたよ。皆さんに協力してもらいましょう」
「どうやって? 正面切って協力してもらうとそれなりの対価を請求されますよ」
そんなもん、親が子にお願いすれば一発ですよ。
なんでわざわざゲーム内でいう必要があるんです。
リアルの方でそれとなく話題を振って、食いついたら対価を払うように請求すればいいんです。要はフィッシングと一緒です。
「私たちの特性を生かしてやりましょう。私たちの第一世代の強みって他の世代に対してなんだと思います?」
「そのやり方は他のプレイヤーにとっての軋轢を生み出すと簡単に想像できるって考えないんでしょうか、この人は」
失礼ですね。
一応違法行為だって知ってて言ってるんです。
なんてったってゲーム内まで育ての親風を吹かす行為。
もし自分が子供側だったら嫌がりますよ。
でもね、お願いなんてたいした効果を持ちませんよ。
結局はお願いされた側が情報にどこまで食いつくかなんだと思います。
「分かって居ますよ、そんなもん。分かった上で言ってるんです。ああそうだ、丁度そこで仕入れてきた料理があるんですよ。それ食べて落ち着きません?」
私の提案にジキンさんは渋々と従い、よく見ずに食品を手にしてその出来立てのうまさに驚愕して居た。
「なんですかこれ!?」
「美味しいでしょう? 丁度娘が気分転換にセカンドルナの街の飲食店でアルバイトしてたので頼んで作ってもらったんです。食品の名前と効果、推定値段は食品そのものに記載されてますので参考にどうぞ」
「ずるいなぁ、この美味しさで1200とかうちの息子たちが飛びつきますよ? 数はないんですか? なんだったら店の名前を教えてください。通います」
「何がジキンさんをそこまでさせるんですか?」
「ハヤテさんは何にも分かってない。良いですか? そもそも料理の派生スキル自体が非常に貴重なんです。普段から食事提供に精通してなければ獲得することすら叶わない! 貴方はこの希少性をもっと知っておくべきだ」
「それは理解しましたが、結構良いお値段しますよ?」
「確かにセカンドルナで提供される金額としては高いですが、貴方の娘さんのホームスペースはファイベリオンだ。そこで振る舞われる料理としては充分に現実的な値段ですよ。それとうちは放任主義でしたからね。奥さんもバリバリに働きに出てたから、息子たちにお袋の味とかいうのは存在しません。ああ、美味しくて涙出た。ずるいですよ、ハヤテさん。これは息子しか持てなかった僕に対する横暴だ」
「何も泣くことないじゃないですか」
泣きながら尻尾振るとか本当に器用な人だよ、この人。
「なんの騒ぎです?」
うちのエリート君ことカザミネ氏が騒ぎに駆けつけてきた。
「ただの食事さ。君も一つどうだい?」
「僕は別に……でもどうしてもと言われるんならおひとつ頂きましょう」
素直じゃないんだから。気付いてたよ?
騒ぎというより匂いにだいぶやられてたよね。
そして仕方なくという体で真っ先に手を出した食品は狙ってたやつだろう?
でもその素直になりきれないところが息子の可愛さなんだろうなぁ。私は娘しか持てなかったので知り得ないが、その差がこうも出てくるのは面白い。
「あ、美味しい。どこで売ってたんです、これ? 個人的に欲しい効果がついてきたので優先的に買わせていただきます」
「料理って消耗品だよね?」
「そうですよ。ですが効果次第で価値は充分に着きます。それにこの美味しさは中々味わったことがない。リアルでは似たような味はいくらでも再現できますが、ここはゲームだ。味という効果が再現されてから随分と経ちますが、ここまでの完成度はお目にかかれない」
いい歳した男二人が結構必死なのが面白い。
普段の彼らは非常にクレーバーなのだけど、それを隠すことなく手に入れることに必死だ。
仕方ないのでタネ明かしをしようか。
「とりあえず落ち着いて二人とも。これはうちの娘が偶然に通りかかったセカンドルナ内の定食屋さんで提供してるものに全力を出してもらった形で作ってもらった。本来のメニューの値段は200のところ、彼女の能力で1200まで値が跳ね上がっている。私からはいくらでも頼めるし、なんだったらうちの賄い作りに雇うことだってできる」
「ああ、精錬の騎士のサブマスターさんの味なんですか。悔しいなぁ。彼、こんな最高な奥さん捕まえておいて、僕に牽制を仕掛けてきてるんだ。実は情報収集で張り合ってた時代のライバルだったりするんですよ、オクト君は」
へぇ、まさかの因縁のライバルとかだったんだ。
でも口ぶりから察するに、何故か負けを認めているのは君の奥さんを暗に貶しているんだけどそれは大丈夫なのだろうか?
「よそ様のクランメンバーを雇うなんて項目、よく知ってましたね。意外です」
食事を終えて目元を拭ったジキンさんが復活するなり皮肉を放ってくる。本当にこの人は私に対して辛辣だ。
「なんかジキンさんが私が知ってるのがおかしいみたいな言い方をしてきますね。一応ですがこう見えて暇を持て余してますけど、一応クランでできる項目には目を通してるんですよ?」
「これは失礼。ですがランクAクランである精錬の騎士をランクCクランのウチが雇うととんでもない対価を請求されますよ?」
「そこは交渉でなんとかなりませんか?」
「まぁ、可能でしょう。ですが向こうの言い分を通すと少なくない情報ソースを請求されますが?」
「それでこの味が定期的に手に入る場合の負担を見積もるのは貴方たちの得意分野でしょう?」
「ありですね。雇いましょう」
「僕も賛成します。やはりあの味と効果は他では得難い」
男二人は顔を見合わせるなり、即答した。
ちょっと、チョロ過ぎませんか?
今から先が心配になってきましたよ。
それだけ美味しいというのはわかるんですが、是非他のメンバーたちに食べさせて反応を見たいな。
一応情報統括リーダーとサブマスターの熱意が半端ない形ですが、ここのクランは仲良しこよしが基本ルール。
でもスズキさんやマリン、ユーノ君や永井君がこの効果がつくなら欲しいと評価を出した。
それからうちのクランの賄いを作りに娘が遊びにくるようになった。対価はダグラスさんとの個人的な対話だそうだ。
そんなのでいいんだと軽く判子を押してやったら泣くほど喜ばれた。
あれ、言ってはなんだけど私たちのクランって君たちのクランに比べて格下だよね? なんか立場変わってない?
……と心に思う一日だった。
ただし奥方様たちからはキツめの採点を入れられたのは捕捉しておく。ちなみに妻が作ったらこれ以上らしい。素材を定期的に買い揃えるのが面倒との事で実現しないそうだが、個人的には作って欲しいなとは思う。
やっぱり家庭の味と言うのは私の半生を支えてきたものだから、人数分が無理なら個人的に交渉してみる価値はあると思った。
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