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3章 お爺ちゃんと古代の導き
111.お爺ちゃんと空中散歩③
しおりを挟む最初こそ恐る恐るといった牛歩で進んでいた私達だったが、検証を含めてどれくらいの範囲が有効なのかを調べたら、おおよそ私を中心に5メートル範囲なら落ちないことがわかった。
それ以外にも戦闘面は任せてくれと三人組が胸を張っていたのも心強い。
「さて、ここいらで休憩にしようか」
声をかけたのは遠くに妖精の国が見える雲の平原の真っ只中。
あの場所は特定のフレーバーアイテムを集めたプレイヤーにしかその存在を見せない。私然り、どざえもんさん然り。
未だに他のプレイヤーが発見したのを聞かないのはそう言うことだ。単純に再発見する旨味がなくなっていると言うのもあるが、そういったプレイヤーが多いのも難儀なものだなと思うよ。
普段より近い場所にある太陽を背に、持ってきた調理アイテムを広げていく。猿種の三人組はちょうど切らしてたんですよねとばかりに手を伸ばしては舌鼓を打った。
「あ、これ美味しいです。味は売店の頃に比べたら少し劣りますけど、全然苦もなく食べれますね」
「分かった。娘にはそう伝えておくよ」
「娘さんの調理でしたか。いいなぁ、料理上手の家族が居て。俺はレトルト頼りだからなー」
「レトルトも美味しいからね。私達が君たちと同じくらいの時はそこまで美味しいものじゃなかったから羨ましいよ」
昔話に花を咲かせて食事を終える。
ENのゲージは120%まで回復した。よもやパープルのあの料理にここでお世話になるとは思わなかった。
こんなことだったらもっと買い込んでおけば良かった。
猿種の三人組と私で一つづつ頂いたら残りは4個。
もう一度休憩を挟んだら輸送の維持ができなくなってしまう。
まぁ、それも醍醐味なのだけどね。
ぶっつけ本番でここまできたのだから仕方ない。
せいぜい手探りして行こうではないか。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
空鯨の中継地で、ただ待つ。
そして現れたのは、青い布に包まれた鯨だった。
同時に鯨の背から何かが飛び出し、中継地へと降りてくる。
「ふむ、聖獣様がこうも興奮されるのは珍しいとして様子を見にきたが……珍しい客が来たものだ」
現れたのは風にはためく金の髪を長く伸ばした少女。
口調はどこかお堅そうな雰囲気を纏い、しかしこちらに敵意はなさそうだ。そしてもう一つが空に生きる者の特徴なのだろうか、背中には純白な鳥の翼が生えている。だから背中は大胆に開かれた衣装を纏っていた。
年若い女性が肌を出しすぎるのは良くないと咎めても、かえって逆効果だろう。こういう時、娘の親というのは厄介だ。気が気でなくなってしまうのは性分なんだな。
「こんにちは、お嬢さん。私はアキカゼ・ハヤテ。今日は天気がいいので散歩に来たのだけど、偶然の出会いとはいえ貴方のように背中から翼の生えた人は初めて見る。あなた方の種族をどうか無知な私に教えていただけませんか?」
「お嬢さん、などと呼ばれる謂れはないよ地上人。我ら天空人は地に残されたあなた方とは意見が合わぬとして過去に身を別った種族。古代ムーの遺産を守る天の守護者である天使だ」
敵意はない、けどあまり歓迎はされてないようだね。
しかし天使ときたか。あまり神々しさは感じられないけど、ここは下手に出ておこうか。
正論は時によって凶器になる。あまり傷口を広げすぎても良く無い。今の彼女には街のNPCとは違う確固たる意志が見えているから。
「それは困ったな。ここから先は聖獣様の導きがなければ向かうことはできないでしょう?」
「地上人がここから先、どこへ向かうというのだ?」
ややご立腹気味に口調が強まる。
「もちろん、古代の伝承者として確認をしに行くんですよ」
「あなたは……何者だ!?」
「先程ご紹介した通り、私はアキカゼ・ハヤテ。ファストリアから古代の代弁者として抜擢され、妖精の国で祝福された只の人間です」
すると天使の少女は肩の力が抜けたように微笑んだ。
疲れたような、そんな目で私を見てくる。
「そんな人間は未だかつて聞いたことはない。しかし妖精様がお認めになられているのであれば、客人としての条件も満たしているか。付いてこられよ。私直々に聖獣様のお背中を案内してやろう!」
バサリとその場で大きく翼をはためかせると、一度の羽ばたきでその身をふわりと浮かせて空へと吸い込まれて行ってしまった。
「さぁ、行ってみようか?」
「いや、俺ら空までは飛べない……」
『いや、僕達からしたら人間で飛べるアキカゼさんの方がおかしいというか』
猿門氏とムッコロ氏から同時に突っ込まれる。
まぁ今は輸送中だし、空気抵抗は0だ。
連れていくのが一番早いかな?
「バン・ゴハン氏とムッコロ氏は自力で行けるところまで行こうか。あとは猿門氏を含む三人だけど……」
「ここで置いてかれても恨みやしないですよ。雲の上の体験したのもいい思い出になるし」
「そんな事しないよ。折角ここまで来たんだ、最後まで付き合ってもらうよ? 取り敢えず手を繋ぐか、私の体にしがみついてくれればいい。ほら、いくよ!」
「え、ちょまっ……ぎゃぁああああああああ!!」
彼らの絶叫は聞こえないフリをして、鳥類の彼らを置いてけぼりにしない程度に上へと登る。
こんなことができるのはパープルの料理があるおかげだ。
「着いた……ここが、聖獣様のお背中か」
「ぜはー、かひゅー、鬼だ、人の皮をかぶった鬼が居る」
『激しく同意』
青で彩られたガラス細工があちこちに散りばめられ、幻想的な世界観を作り出している。
それに輸送自体はもう切っている。
背中と言っても、地上と同じく均衡の取れた地面があるからね。けれど端に行けば行くほど丸まっているので転げ落ちる危険性は残ってる。そこは注意しないとね。
「連れが見苦しい真似をして申し訳ないね。なにぶん私と違って空の旅に慣れてないもので」
「いや、着いて来いと言った手前、よく考えたら種族からして違うから迎えの船を出そうと準備していたのだが……自力でこられてびっくりしていた」
「なるほど、次からはそうして貰いましょうか」
振り向くと猿種の三人組どころか鳥類の二羽すら首を縦にブンブン振っている。君達は飛べるでしょうに、何をそんなに怖がっているんだか。
「こちらだ、着いてきてくれ」
「ほら、君達。いつまでも座り込んでないで行くよ」
「無理、腰抜けて歩けない」
『後から行くんで先行ってて下さい』
仕方ない子達だ。いや、初見で体験すれば仕方ないか。
これが探偵さんやジキンさんだったら……いや、同じ答えを出すかもね。みんな得意分野が違うから。平地と同じように考えてしまう私がおかしいのかもしれないね。
「すいません、連れは別行動したいようです」
「ふむ、特に見るものもないと思うがな。我ら天使は空導石を守る巫女として聖獣様のお背中で祈り続けている。私以外の住民は居らぬ故、取り立てて地上人が珍しがるものはない。それ以前に聖獣様がここまで懐かれることも無いのだが」
「では私はラッキーなのですね?」
「フン、それほどの実績を持っていてラッキーなどと白々しいな、地上人」
おや、怒らせてしまったかな?
謙遜しすぎても良くないのか。難しいものだ。
しかし空導石……聞かない名前だ。こんなワード、出しただけでミチザネ氏が喜びそうなものだが。
「だが都合がいい、これも巡り合わせなのかもしれないな。見せたいものがある、着いて来い」
どうにも感情の整理のつかない天使のお嬢さんに連れられ、私は今、天空人たちが局面している緊急事態に付き合わされることになった。
聖獣様の背に揺られて数時間。
案内された場所に存在していたのは空導石と呼ばれる、見上げるほど大きな水晶。
それが今、色褪せ、砕け散りそうになっている現状だった。
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