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3章 お爺ちゃんと古代の導き
126.お爺ちゃんは天空人の生活を支えたい
しおりを挟む「さて、今回はみんなに空に登ってみた訳だけど……みんなは空に住む彼らをどう思った?」
「彼らというのは天空人の事ですか?」
「うん。残念ながら個体名までは教えてくれなくてね。だから呼び名が種族名になってしまうのが悲しいかな」
「ああ、それは確かに。うん、今後付き合っていくなら個体名を知っておきたいな」
探偵さんがウンウンと唸っている。
そのすぐ横で妻が挙手をした。
「私としてはあの劣悪な環境をもう少し改善したいと思うのだけど」
「アタシも同意見だねぇ。年若い娘が肌を露出するもんじゃないよ」
妻の言葉にランダさんも乗っかってくる。
そう言えば200年以上生きてるって伝えてなかったな。
それ以前に今のあなた達も結構露出激しめですよ、とは敢えて言わない。
女性の見た目について言及するのは古来からのタブーなのだ。
流行も知らないのに余計な口出ししないでと怒られるのが目に見えてしまう。
なのでここは何も言わずに従っておくのが吉だろう。
「それは私も同意見だ。しかし彼らは長命種。私が開拓する前は外交すら一切なくここで歴史が止まっていたんだ。だから今後人目につく前に、打てる手段は全て打っていきたいと思ってる。これを次の企画として考えてるんだけどどうかな?」
私の提案は彼らの暮らしを根本から変えてしまうものだ。
街というよりは、ただあの場に配置されただけのNPC。
それでは非常にもったいない。
せめて衣類や食事くらいは改善したいところである。
建築に関しては移動の際の風圧に耐えられるかどうかわからないので保留。
さて、ウチのクランメンバーはどんな答えを出すだろう?
そこでジキンさんがみんなより先に挙手をした。
「それってつまり情報の独占ですか?」
「何故そう思うんです?」
「何故って、普通はそう思うでしょう。マスターの事だからこの場所に根付いた文化を残しつつ、それ以外を隠して地上人の知識で埋め尽くす腹積りだ。その意図がわからない限り、こちらが手助けするのは早計かと思います」
ふむ、いかにもジキンさんらしい頭でっかちな質問だ。
もっとシンプルで良いのに。
「残念ながらこの鯨の背中に得るべき文化は何もないよ。私が調べた結果、ここに立ち並ぶオブジェクトは彼らの歴史でしかない。浮かぶ古代文字も他のフィールドがどういうものか指し示すものだけだ。先んじて発表してしまえばわざわざ解明する意味はなくなる」
「だからそれが勝手な行為なんですって。僕たちがどうしたいかより、まず向こうの気持ちを考えてます?」
最もな意見だ。
「無論。だから今回彼女を招いて食事会をしている」
そこでまだシチューの余韻から戻ってこれない天使さんをみんなが見た。
一斉に見られた事により、少しだけ気恥ずかしそうにする天使さん。こう見えて天空人のお偉いさんなんだよね、彼女。
「なんだ、私にまだ何か用があったか?」
それよりもうおかわりは無いのか? と少しだけ物足りなそうな表情を浮かべる天使さんを見て、全員が微笑ましい笑顔を浮かべた。
殆どが子育てを終えた経験があるからこそ、甘えたい年頃の子供を思い出してしまったようだ。
若干一名子育て前の人も居るけど、彼女は一番近い場所で子供と接してきたスペシャリストだ。
この中で一番庇護欲を掻き立てられたのはもしかしたらスズキさんかもしれない。
「私の言いたい事は言わずとも分かってもらえたでしょう?」
「確かにこれは放って置けませんね。少しだけ手を貸してあげたくなりました。良いでしょう、ここで新たに文化を築くというのなら僕は協力するよ、少年」
「探偵さんならそう言ってくれると思ってました」
「なんだかもの凄く納得できました。つまりハヤテさんは彼女達の手助けがしたいんですね? 僕、そういうの得意ですよ! どんどん頼ってください! あ、でも。僕の姿気味悪がられないかなぁ?」
スズキさんは発言した直後にシュンとした。
頭を下に下げただけなのだが、その落ち込みっぷりときたらだいぶ激しく見えるのだから不思議だ。
「今回一緒にお料理してどうでしたか?」
「なんとも言われませんでした! あっ あっ そういう事ですか? 気味が悪いという認識すらない。そうですね?」
「うん、スズキさんはスズキさんのまま接してあげてください。それが一番ですよ」
「分かりました!」
スズキさんは背筋をピン、と伸ばして挙手をする。
さっきの今ですごい態度の変化だ。
殆どが体だからそのまま転びそうになってて面白い。
そこで満を辞してジキンさんが前に出てきた。
「僕は娘を育てたことがないので詳しくは分かりませんが、少しだけマスターの言いたいことが分かりました。確かにこれは見過ごせない」
「そうでしょうとも。親であれば彼女達の環境は見過ごせない筈です。もし娘が一人暮らしする環境がこんな場所だったらと思うと気が気じゃない。そう思いません? 親世代ならあれこれ言いたくなるはずです」
「確かにこの子は放って置けないねぇ。世界はもっと広くて美味しい料理は沢山あるってことを教えてあげたくなる。あんた、こういう時こそ貢ぎ時だよ?」
ランダさんも会話に加わり、ジキンさんを焚きつけた。
もはや今のジキンさんは目に炎を宿す熱血漢に成り果てた。あとは勝手に働いてくれるだろう。
「あなた……今回の選別はこういう意図があったのね」
「うん。特にうちは年配の方が多いクランだからね。若い子達だったらこうはならない気がしたのであえて孫達は入れなかった。攻略はあの子達に任せて、私たちはここでの生活を支えていけたら良いなって思ったんだ。それが彼女達の為にもなるし」
「そして後続の冒険者達の援護にもなると? 変わらないわね。昔からこうだと決めたら一直線に走っていく。ついていく方は大変だわ」
「もし君が無理だというのなら……」
「誰も嫌だなんて言ってないでしょう? そうやって話を先読みするのはあなたの悪い癖よ? まずは衣類の調整から。いろいろ布を当てて彼女達の過ごしやすい服を作るわ。それが私の役目かしら?」
「良いのかい? 私としては調理に着手して欲しかったのだけど」
「あなたが私を買ってくれてるのはわかるんだけど、ランダさんには到底勝てそうにも無いわ。だから唯一勝てるこっちで勝負するの。よく娘の服のほつれを縫い止めたものよ。破けたら買い与えてたランダさんにはできない芸当だわ。これはその差ね」
そうやって楽しそうに笑う妻を私はとても誇りに思う。
私が働きに出ていた頃、彼女が一人家に残されて何をやっていたかまでは知らずにいた。子供達の情報は入ってくれども彼女は自分のことをあまり私に教えてくれる人ではなかったから。
だからこうして自分の歴史を語ってくれた彼女に感謝している。
「うん、私たちの手でもう少し空の生活を豊かにしてあげよう」
「ええ」
この日より私達のクラン内での次の企画は決まり、登っては降りてを繰り返すうちに掲示板で【今、木登りをボートで登るのが熱い!】などと大々的に取り上げられる事になったのだが、それはまた別の話。
ただ、そうだね。馬鹿正直に木登りをしようとする人は少なくなったのは事実だ。そのおかげで空への参入者はうなぎ上りになり、同時に重力無視を得られずにそのまま落ちる死亡者が続出した。
そんな簡単に雲の上を歩けたら私の苦労が水の泡だ。
だからね、一時的にボートの貸し出しを始めたんだ。
私達は赤の禁忌改革に忙しかったから販売はオクトくんに任せている。彼は連盟したクラン員からの素材の買い取りのほか、それらを用いたアイテムの開発着手に携わっていた。
販売もしているらしいが、用途が不明すぎて売れ行きがさっぱりだという。
ついでに空の情報も売ったらどうかと打診したら「それだと価値が下がるのでダメです」と言われた。彼なりに何か考えがあるのだろう。私はそれ以上の追及はしなかった。
そして雲の上を渡れるボートは飛行部の考案だ。
かろうじて雲の上を浮かせる事はできたが、上空で移動させるには燃料が持たないと頭を悩ませた未開発品がこちらのボートであった。
浮くという概念のお陰で雲の上を渡る上での必需品になっている。用途に対して不満たらたらの山本氏に対して、他のクランから用途があるだけ良いじゃないですかと慰められている。
本音を言えばもっと小型化して個人使い用があれば良いと打診してるが、本人の作りたいものと一致しないからそれらが作られるのは難航しそうだった。
燃料関係もダグラスさんと相談したら良いんじゃないだろうか? あの人そっちの知識もすごいし。
それをあらかじめ伝えておいたらうまいこと生きそうだったので、あとは時間を待つのみか。
時の流れは待ってるだけならあっという間に過ぎ去っていく。
プレイヤーが安定して赤の禁忌に渡り始めたのはそれからリアル時間で3週間も後のことだった。
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